ユア・ブラッド・マイン 〜phantom vocal〜
ケンケン4
1話〜Hello Wonderland
この物語はどうしようもない、些細な幻から始まる。
「……はあ。」
東京、渋谷の街中、スクランブル交差点の中で俺、須藤幻は途方に暮れていた。いや、別にいつもの光景だからいいんだけど……。
そうそう、それでさ……。
あそこのお店行ってみない?
ねえねえ、彼女今、暇?
「……。」
くだらない会話。なによりくだらないのは俺の視界だ。今、視界には人の口から『言葉』が飛び交ってる。音としてでは無い。OI体質で俺の視界は『音が物体として飛び交っている。』
おかげで前がまったく見えない。ヘッドフォンをすれば音を遮断できるからいつも付けているのだが渋谷で外したらどうなるだろうと思って外したのが運の尽き。言葉まみれの地獄がそこにあった。
「……はあ。」
2回目のため息を吐いて俺は再びヘッドフォンを付けようとすると言葉の山の中から気になる『言葉』を見つけた。
須藤幻
それは渋谷駅のハチ公口の方から飛び出てきた。ちなみに音の大きさが大きくなればなるほど『言葉』は大きく見えるのだがその『須藤幻』はか細い声だったのだろう。とても小さく見えた。
「え……?」
俺は慌ててヘッドフォンを付けてその言葉を見た方へと駆け出す。すると今まで見えていた『言葉』は嘘のようになくなった。まるで幻のように。
その『言葉』のあったところに着くと特に気になる所は無かった。ただの人混みがそこにはあった。強いて言うなら銀髪ロングの少女がそこにいるくらいだ。中学卒業したあたりだろうか。背があんまり高くなく、あどけない姿が印象的だった。
その少女と目があった。
するとその少女は口をパクパクさせていた。何かを喋っているのだろう。俺はヘッドフォンをゆっくり外してその言葉を聞いた。……いや見た。
「貴方が須藤幻ね。私は……」
会ってしまった。幻とーーーが。
ーーーと呼ばれる少女と会ってしまった俺は幻ではない現実に挑むことになる。
『彼女』と会う2時間前。
東京、聖玉学園。
「え?幻ちゃんまだ『契約』してないの?」
そう言われて俺はうっと声を漏らした。放課後の教室はがらんとしていて言葉が見えなくて心地よい。
俺以外の人は2、3人程だ。そのうちの1人、教師の西川先生にそう言われた。西川先生は魔女でありながら何故かこのクラスで数学を教えている。そしてさらにこのクラスで担任だった。
「え……え……ナンノコトカナー?」
「とぼけるの下手くそね。貴方、結構酷いOI体質なのに8月になってもなんで魔女を見つけられないの?」
「うーん……。」
そう言われても困る。いかんせん魔女との契約をしようとしても魔女の方がイメージを受け止めることが出来ないから仕方ない。……まあ、このエリート校である聖玉学園でいろいろと悪さ(タバコとか酒はやってないが。)しているのでまず俺のイメージが悪いのがいけないと思う。
それもあるが……何かが心の中に引っかかってる感じもある。それが何かがわからないけど。
「それに幻ちゃん、成績はそこそこ良いのに。」
「あの、西川先生。」
「何?」
「その幻ちゃん呼びやめてくれない?からかわれるの嫌いなんだ。」
そう言われて西川先生はクスクスと笑って。
「あら、失礼。貴方みたいな悪ぶってる人見ると食べちゃいたくなるのよ。ふふふ……。」
「それ、教師が言うこと?」
俺ははあ、とため息を吐いてヘッドフォンを再び付けようとすると西川先生はあ、と何かを思い出したらしく俺にとある紙を渡してきた。
「それは?」
「これ。渋谷のCDショップに予約していた貴方の好きなバンドのCDの予約表よ。先週、貴方これを机の上に置いて寝てたでしょ?英語科の先生に取り上げられてたのこっそり取ってきたの。これ取りに行って曲でも聞いて元気出しなさい。」
「元気?俺はそこそこ元気だよ?」
「そうかしら。」
西川先生はまたクスクスと笑って。
「貴方はね、焦ってるわよ。顔見ればわかるわ。」
「俺が?」
「だって貴方はーーー」
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