オトギリソウの願い

翌日からの数日間は、毎日小田先生と2人で元彼の張り込みを続けていた。


「家に入ったっきり出てこないっすねー」

「だねー、今日はもうこのまま家から出ない感じかな」


今日も張り込み初日とほぼ同じ時間にヤツは自宅へと帰ってきた為、

2時間ほど双眼鏡でヤツの自宅を除いていたが、特に目立った動きは見られなかった。


時刻は19時を回り、4月に入り少し日が長くなったと言っても既に辺りは完全な夜になっていた・・・。

「これ以上ネバっても出てこなさそうですよね」

「うん・・・そうだねー、今頃優雅に晩酌でもしてるかもしれないしね」

「なんか腹立ちますねそれ・・・腹減った」

「う、確かにお腹すいたね、そしたら一旦学校戻って2人連れてらーめんでも行く?」

「お、良いですね・・・ん?・・・先生! 誰か出てきます!」


時間的にも遅くなったので張り込みを終了しようとした間際、元彼の自宅のドアが開き誰かが出てきた。


「・・・ヤツだ」


先生は自宅から持参した双眼鏡をのぞき込みながら状況を説明してくれたが、実は車を止めている位置が自宅から近い為、

双眼鏡を使わずとも自宅マンションから出てきたのがヤツであることは確認できた。


男は自宅のカギを締めると、1階のロビーに出る為なのかエレベーターホールへと向かっていた。


元彼がエレベーターに乗った事を確認した為、和羽はヤツの姿を見失ってはいけないと男が出てくるはずの1階エレベーターホールを注視していた。


だが数秒経ってもヤツは現れず、外から見える1階エレベーターのドアも開いた様子はなかった。


「嵯城! 上! 上に出てきた!」


先生が大きな声を出すので何かと思いマンションの上層階を見ると、

元彼がマンションの廊下を歩いている姿が確認できた。


だがヤツが歩いていたのは自宅のある階層ではなく、

マンションの最上階に位置する階の廊下だった・・・。


ヤツは外に出るため1階に向かったのではなく、何かしらの理由があって上層階に向かっていたのだ。


「なんで、あんなところに居るんだろう・・・」

「誰か知り合いでも居るんですかね・・・先生、念のためカメラ構えておいてもらっても良いですか? 」

「わかった、任せて」


先生はこれまた自分の自宅から持参した望遠レンズ付の高性能一眼レフカメラを元彼に向けて構えた。


にしても双眼鏡に高性能一眼て・・・先生もしかして盗撮してません? 御伽の件が解決したらそれとなく聞いてみようかな。

一瞬脳内で【高校世界史教師の闇! 望遠レンズで更衣室盗撮!?】というスポーツ紙の見出しが思い浮かび、

さらに盗撮の事を黙っている代わりにコレクションを分けてもらう所まで想像した。


仲間を売るなんて・・・僕にはできません!


「嵯城、部屋の前で止まったよ」


先生に言われ元彼へ目を戻すと、エレベーターホールの反対側のドアの前で立ち止まっているのが見えた。


「あの家の住人に用があるんですかね・・・」

「・・・あ、開いた! 」


玄関のドアの中から出てきたのは、中学生くらいの制服を着た背の高い女の子だった。


「あれって・・・もしかして!」

「まだわかりませんが、可能性あると思います・・・」


先日の元彼の通話内容から、恐らく浮気相手は家庭教師先の生徒であると考えられたが、

家庭教師で受け持つ生徒は一人ではないだろうし、

普通に考えれば自宅と同じマンションに住んでいる女性に手を出すなんてリスクの高い事はしない様にも思えて、

彼女が浮気相手だと断定できないでいた。


せめて証拠になる様な行動をとってくれれば・・・。


元彼と女の子は玄関先で少し話をしていて、暫くすると女の子が家に招き入れようとしていた。


「ああ・・・ダメかなー、家の中入っちゃいそう・・・」


家の中に入ってしまっては、それこそ盗撮カメラ仕掛けたり、盗聴したりしないと証拠を掴む事は難しいだろう・・・

恐らく先生ならそのくらい簡単なのだろうが、もし警察に捕まったら秘蔵コレクションが・・・

いやいや、やはり尊敬している顧問の先生に手錠がかけられる可能性がある様な事はできないな!


女の子は元彼の手を引いて中に引き入れようとしていたが、

ヤツが家の中に入ろうとせず玄関先で何か話をしている様子だった。


少しもめている様子ではあったが、しばらくして観念したのか女の子に手を引かれ元彼も玄関の中に入る素振りを見せた。

だがその瞬間、ヤツは繋いでいた女の子の腕を引っ張りそのまま彼女を抱きしめた。


カシャカシャカシャカシャ


小気味の良い一眼レフカメラのシャッター音が響き小田先生がニヤっと笑った。


その顔はもう犯人が標的を仕留めた時に見せる表情ですよ! どうかご自愛を・・・


「よし! 撮れたよ!」

「ありがとうございます! さすが職人!」

「し、職人??」


突然の職人呼ばわりに解せない表情をしていた小田先生だが、

もしかしたら元彼が他にも何か行動するかもしれないと思い直したのか、

深くは追及せずに再びカメラを覗きこんだ。


職人はまずかったか・・・次からはもっと具体的に盗撮大好き人間と呼べば良いのだろうか?


2人が抱き合ったまま動かない為アホな事を考えてしまったが、

暫くするとヤツは彼女を抱きしめたままマンションのドアに体ごと押し付け、

彼女のアゴに手を添え有無を言わさず彼女にキスをした。


アゴくいキター!


カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ

カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ


留まる事の無いシャッター音・・・

もはや先生が興奮している理由が証拠を掴んだ事に対してなのか、

単純に女子中学生と家庭教師のアゴくいに興奮しているのかわからない。


だってカメラを覗きながら笑う表情は、盗撮大好き人間そのものだったのだもの。

怖い! 怖いよ先生!


そのあとも2人はしばらく立ったままで話していたが、やがて問題が解決したのか女の子の家へと入っていった。


「やり・・・ましたね」

「うん・・・これだけあれば証拠としては申し分ないでしょう」


小田先生は口元だけでニヤっと笑いながら撮影した証拠写真を確認していた。

だから怖いってその顔、ヒソカかな?


ひと通り写真の確認を終えたところで、あまり居座り続けると元彼に何か感づかれるかもしれないという話になり、

時間も遅くなった為御伽と諏訪野に連絡しそのまま帰路についた。


翌日、証拠写真を全員で確認する為に再び部室に集まることになった。


「お疲れ」

「お疲れ様です」

「おつー」

「お疲れ様」


和羽が教室に入ると既に3人は集まっていて、御伽と諏訪野が隣り同士で少し離れたところに小田先生が腰かけていた。


和羽は諏訪野の正面に座りちょうど4人が円形になる様に腰を下ろした。


「じゃあ、始めようか・・・」


昨日の写真を見せることで御伽がまたショックを受けてしまわないかが心配なのか、

少し緊張した様子で小田先生が話を始めた。


「実は昨日の張り込みをした時にヤツが動きを見せて、浮気の証拠を撮影することに成功したんだ」

「え! すごいじゃん! 2人ともやるねー」

「うん、そうだろうそうだろう、もっと先生たちを褒めてくれていいよ」


証拠を掴んだ事が嬉しかったのか、御伽は想像以上に明るいテンションで先生と和羽の成功を喜んでくれた。


先生は笑って話しているものの、やはりどこか困った様な心配そうな表情を御伽に向けている。


それに想像以上に明るいって事は普段の御伽より明るいって事で、やっぱりそれは無理をしているって事なんだろうと思う。


でもそんな彼女が少しでも悲しまない様に、決定的な証拠を持っていたにも関わらずその証拠を使用しない事を決めた先生は、

教師ではなく一人の人間としても素直にすごいと思った。


「じゃあさっそく写真みせてよー」


御伽に言われ、先生は鞄から昨日の写真の入った封筒を取り出して御伽にそのまま渡した。


「はい・・・これが昨日撮影した写真」


御伽は手渡された写真を封筒から取り出し、元彼と浮気相手が映った写真を一枚一枚丁寧にめくっていった。

御伽が写真を見ている間教室の中は静まりかえり、ただ写真をめくる音だけが響いていた。


「・・・うん、ありがとうみんな!」


最後の写真を見終わると、御伽は3人を見渡しながら満面の笑みで自分の復讐の為に協力をしてくれいる皆に礼を言った。


「ホントに本当に嬉しいよ、私が悲しまないように、苦しくない様にってみんなで色々考えてくれて・・・

両親以外でこんなに自分の事を考えて行動してくれる人がいるだなんて思ってなかった・・・ありがとう・・・」


御伽は瞳に大粒の涙を浮かべて、皆に対しての感謝の気持ちを話してくれた。


でもなんとなくだが、そのあとに続く言葉を聞くのが怖かった、

感謝の言葉を綴っているはずの彼女の表情はこわばり、ひどく苦しそうな表情を浮かべていた。


「でも・・・ごめんね、私これ無理だ・・・だってこの女の子・・・昔の私なんだもん・・・!

たぶんこの子は今すっごく幸せで何の疑いもなくあの人を信じてる・・・

自分にはこの人しかいないって心から思ってる・・・だから・・・

私は彼女を傷つけたくない・・・! ごめん・・・ごめんね・・・みんな」


透き通った瞳から大粒の涙をボロボロと流しながら、御伽は懺悔するように思いのたけを告げた。


「・・・御伽、お前はそれでいいのか? この証拠を使わないって事は、あの動画を使う事になる・・・

もしかしたら、もっと傷つくような事が起こるかもしれない・・・それでも良いのか」


こんな事を聞いたところで、意味がない事はわかっていた。


証拠の使用を拒否した時点で、恐らく何を言おうと御伽の考えは揺るがないだろう。


「うん・・・嵯城ごめん、それでも良い・・・でもみんなにはヒドイ事を言ってるのも分かってる・・・

分かってるから・・・どんな罰でも受けるから・・・許さなくても良いから・・・

お願い・・・あの証拠は使わないでください」


和羽の問いに対して返って来た答えは予想通りのものだった。


だがそんな事はどうでも良い、それが彼女の出した答えならば和羽は喜んで受け入れよう。


それは恐らく小田先生も諏訪野も同じだろう・・・でも御伽はそれがわかっていない、

彼女は和羽達が御伽の思いを受け入れないと思っているようだった。


「御伽・・・俺たちは君にどんな風に映ってるのよ、俺たちがそんなにヒドイ人間だと思ってるの?」


たぶんその場に居た御伽以外の全員が思っていた事を、小田先生は代弁してくれた。


「ち・・・ちがう! みんなは私の過去を知っても変わらずに接してくれて・・・そんなの初めてだった!

すっごく嬉しくて、皆に会えてよかったって心から思ったよ・・・まだ皆に会ってから全然経ってないけど・・・

それでも私の居場所はここだって思えてる! でも私の言っている事は皆の努力や協力・・・想いを踏みにじる事だがら・・・

もうみんなのそばにいる資格はないのかなって・・・」


「御伽、そんな風に思う事はないよ・・・俺たちは皆御伽が頑張ってるから助けたいと思っただけなんだよ・・・

初めて皆がこの教室に集まった時御伽は自分から元彼の話をしてくれたよね・・・

たぶんね? それが無かったらこんなに短時間でお互いの事を信用できる様にはならなかったんじゃないかな、

自分に起こった辛い事・・・しかも決して消えることのない心の傷を君は初対面の俺たちにさらけ出してくれた、

みんな口には出さないけれどそれがどんなに勇気のいることかはわかってる・・・

だから御伽が自ら話してくれた事で、みんなの事を信用してみようって思えたんだと思う・・・

少なくとも俺はそうだったよ・・・大げさな言い方かもしれないけど君は俺の人生を変えてくれたんだ・・・

だから・・・お願いだからそんな悲しい事は言わないで? 大丈夫だから・・・」


嘘みたいに優しい笑顔で、小田先生は自分の御伽に対する気持ちを綴った。


御伽は先生の気持ちを聞いて安心したのか、暫くは赤ん坊の様に泣きじゃくって泣いた。


「ん・・・ヒック、わだぢみんなに会ってから泣きすぎだよー」

「ほんとですよ凛先輩、そんなんじゃ大人になっても一緒にお酒飲んであげませんからね?

泣き上戸の相手はしたくありません♪」

「だな、俺たちのこと舐めすぎだバーカ」

「う・・・嵯城にバカにされたー!! もう死ぬぅ!」


御伽があまりにも泣き止まないので、だんだん面白くなってきて諏訪野の一緒になっていじっていると、

和羽にバカにされたのがお気に召さなかったのかさらに泣いてしまった。


御伽よ・・・お前にとって俺の存在価値ってどんだけ低いのよ・・・

蟻と同じくらいかな? それともミトコンドリアぐらいかな? えーんえーん。


「でも・・・・・・・・・・ありがとう」


暫くして落ち着いたのか、御伽はふてくされた様に和羽と反対側を向きながら、

誰にも聞こえない様な小さな声で一言お礼を言ってくれた。


「あ・・・そういえば忘れてました! 今日私たちの方も進展があったんですよー♪」


玲奈は突然思い出したように立ち上がり、嬉しそうな顔で自分の戦果の報告をし始めた。


「実は今日ですね、婚約者のSNS見てたら婚約者のお母さんからのコメントがあったんですね?

しかも内容が結婚式前の両家食事会に関してのものだったんですよー、でもそのコメントでは場所とか日時はわからなかったんで、

念のため婚約者のお母さんのアカウントも覗いてみたらタイムラインに【皆様へのあいさつ】っていう題名で食事会の場所と日時が載ってたんですよー!」


諏訪野はこれでもかというほどのドヤ顔で、和羽の方をチラチラ見ながら満足げに胸を張っている。


え、なにこの可愛い生物・・・。

「諏訪野・・・心配しないで大丈夫だよ? 御伽と比べられても落ち込む事ないんだからな、

そっちの方が良いって男も沢山いるから!」


「え? ん? どういうことです? 凛先輩と、比べる・・・あ!」


さっきまでドヤ顔で胸を張っていた諏訪野の顔が見る見る間に真っ赤になり、和羽を睨みつけた。


「最低! 最悪! バカ! もじゃ男! もう知らない!!」


真っ赤な顔で怒りながら、玲奈は和羽の反対側を向いてしまい、

そのあとは和羽が何を言っても反応してくれなかった。


やり過ぎたかな・・・おれはそっちの方が好きだよ? 本当だよ?

「まぁまぁ二人とも、痴話喧嘩はあとでしようね」

「ち・が・い・ます! あんなモジャ男先輩となんて・・・嫌です!」


二人に任せたら話が進まないと思ったのか、小田先生が仲裁をしてくれようとしたが、

諏訪野は一切聞く耳持たずでバッサリと切り捨てられてしまった。


完全にやりすぎました・・・はい。


「んじゃあたし話すね? さっきも言ったけど婚約者の親のタイムラインから、食事会の日取りがわかったの・・・

日時は6月8日の11時からで場所はビアードってスペイン料理のレストランでやるらしいのよ、

しかもその席で結婚式用の二人のなれ初め? 的な映像を流すらしくて、その映像を直前で差し替えて流しちゃえば良いんじゃないかって事」


すっかり復活した御伽は、全く和羽の方を見ようとしない玲奈を見かねてか、変わりに今日調べて分かった事の報告をしてくれた。


「すごいね2人とも! よくそこまで調べてくれました・・・じゃあ後はどうやってその食事会の前に映像をすりかえるかだね・・・皆なにか良い案ある?」


御伽と諏訪野の話を聞く限り、映像さえすり替えてしまえば何とかなると思われた。


では実際にどのようにして映像をすりかえるかだが、その方法に関して和羽には考えがあった。


「たぶん・・・てかもし条件が合えばだけどいけるかもしれない」

「条件ってどういう事?」


御伽は和羽の答えに興味深々で聞き返してきた。


「レストランとかで映像を流す場合、映画館みたいに大きなスクリーンを使うわけじゃないだろ?

だから大体の場合は大型の映写機とかじゃなくて、プロジェクターを使うと思うんだよ、

しかも可動式のスクリーンを使ってる場合が多くて、スクリーンに合わせてプロジェクターも高所に設置されてる場合が多い・・・

だから少し古い型だとプロジェクター用のDVDプレイヤーがどこかにあって、

そのプレイヤーのディスクを差し替えてしまえば映像は切り替わる、

もし新しい機種なら無線機能を使ってスマホとかからデータを飛ばす事も出来るはずだから、

その情報さえ入手できれば映像を差し替える事はできるかも知れない」


「・・・ってことは食事会の当日にプレイヤーに触れる状況にしなきゃいけないって事だよね?」


小田先生はすぐに和羽の言う【条件】の部分に気が付いた。


「そう、問題はそこなんです・・・大抵そういう機器類は客からは見えないところに置いてあるだろうし、

厨房に入っても違和感が無い状況じゃないとディスクの入れ替えは難しいです、

それにもしデータ通信が可能なタイプだったとしてもデータを飛ばすにはプロテクトキーが必要になると思うので、

どちらにしてもなんとかして厨房に入れる状況を作らなくちゃいけません」


「そっかー・・・でも食事会当日までにプレイヤーに触れるっていう事なら店員になれば良いんじゃないですか?」

「うん、それは俺も考えたけど、その場合履歴書とかからこちらの個人情報は洩れるわけだし、

今回の計画は少なからず店側にも迷惑が掛かる、だから元彼は自分の名誉を貶める動画を警察に晒してまで訴えてくるとは思わないけど、

店側が被害届でも出したら一発で身元ばれるから得策ではない気がするんだ」


「うーんそっかー・・・今バイトでも履歴書以外の身分証明書とか住民票とか雇用の時に求めてくるところ多いですもんね、

そしたら隠し通すのは難しいのかな・・・って和羽先輩なに笑ってるの?」

「え? う、ううん? なんでもないです」


いかん、話の内容よりもやっと諏訪野がまともに話してくれた事が嬉しくてついニヤニヤしてしまった・・・いや、好きか!


「まー確かにアルバイトをするっていうのはリスクが高いかもね、でもここでずっと考えても良い考えがうかぶとは限らないし、

一旦今日は家で各自考えてきて明日放課後また相談したらどうかな?」


結局しばらく考えても他に良い案も思い浮かばなかった為、小田先生が帰る様に促しその場は解散となった。


「あの・・・諏訪野さん?」

「・・・・」

「えっと・・・諏訪野さん?」

「・・・・」

どうしよう・・・やっぱり諏訪野が全く話してくれない。

さっきは普通に話してくれたと思ってたのに全然機嫌直ってないんですけど! どうしたら良いのでしょうか。


先日一緒に諏訪野の迎えを待ってから、家が以外と近いという事もありなんとなく一緒に帰る事が多くなっていたが、

今日は解散してから一言も口をきいてもらっていない・・・・助けて●●えもーん!!


「・・・・」


和羽の願いは●●えもんに届くことはなく、依然沈黙が続いていた。


もー嫌だ! なんでこんなに必死になってるのかもわかんねえけどこのまま諏訪野と話せない事がものすごく苦痛だ!

もう・・・あの手を使うしか・・・やるしかねえ。


和羽は意を決して全力で走り出し、少し前を歩いていた玲奈を追い抜いたところで玲奈に向き直り叫んだ・・・。


「玲奈! さっきは本当ごめん! でもひとつだけ言わせてほしいんだ!!

俺は・・・・・・・お前ぐらいの方が・・・す、好きだー!! 」


町内に響き渡ったのではないかというほどの大声で和羽は玲奈に向かって叫んだ。


その瞬間、走り出した和羽を見て呆然としていた玲奈の顔が見る見る間に真っ赤になり和羽に向かって走り出した。


こちらに向かって走ってくる諏訪野を見てどうしよう殺される! と焦っていると、

和羽の元にたどり着いた諏訪野に勢いよく口をふさがれた。


「んー!」


諏訪野のてはなんだか温かくて、プニプニとした手のひらの感触が唇を伝って和羽の脳に衝撃を与えていた。


そして諏訪野は和羽の口を手で塞いだまま真っ赤な顔で和羽を見ると、

そのままもう片方の手を和羽の頬に添え、口を塞いだ自分の手に背伸びしてキスをした。


「んー!!!」


近い! 柔らかい! 柔らかい!! 可愛い!!

諏訪野にキス擬きをされたせいか、和羽はもはや単語でしか物事を考えられなくなっていた。

スワノ、キス、ドキドキ、プニプニ、ペロペロ、テヘペロ♪


「はぁ、はぁっ・・・仕返し!」


和羽の口を手で塞いだまま、まだ完全には冷めてはいない赤い顔で満面の笑みを浮かべると、

息も途切れ途切れに自分の行動がなんだったのかを和羽に告げた。


あーもーどうしてやろうこの可愛すぎる生物、今すぐ抱きしめて連れ去ってやろうかしら! 


「ぷはっ!」


ようやく諏訪野の手から解放された為改めて諏訪野に思ってる事を伝えてみた。


「仕返しって・・・でも・・・ごめん、本当に傷つけるつもりはなかったんだ・・・許してくれる?」

「・・・うんわかった、許す・・・私もごめんね? くだらない事で怒ったりして・・・

反省してます・・・あともいっこだけ・・・聞いても良い?」


「ん? 良いよ、何?」

「・・・よ、和羽君は、小さい方が好き、なの?」

「う、その話か・・・小さい方がっていうかー、大事なのは大きさじゃなくてっていうか・・・

で、でも、大きさは諏訪野ぐらいが好き! これは本当・・・です・・・って何言ってんだろうね俺」


「そ、そっかぁ・・・なら、大丈夫・・・です」


諏訪野は、まだ火照った顔を隠すように和羽の反対側を向きながらニヤニヤしている。


お互いにかなり恥ずかしい思いをさせられたが、何とか収まってくれて本当良かった・・・

にしてもあのチュウ擬きはなんだったのだろうか・・・仕返しって言ってたけど純情チェリー君にあの刺激は強すぎます。


教室であれだけ圏外発言しといて、二人になるとめちゃくちゃ積極的になるよな諏訪野って・・・

もしかして照れ隠し? いやないか・・・あの諏訪野玲奈だしね。

・・・期待したら負けだ多分。


諏訪野と別れると色々考えてしまいなんとなくモヤモヤした気持ちになったが、

色々あって疲れたせいか、家に帰ると制服も脱がずにそのまま眠りこけてしまい気が付くと翌日の朝になっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る