シロツメクサの疑念
「もう・・・大丈夫・・・これからの事を話さなきゃね」
御伽は流れる涙を止めようと、必死で目頭をハンカチで抑えながら絞り出す様に言葉を発していた。
明らかに大丈夫じゃない御伽を見て、どう話しだして良いかわからず暫くの間全員が黙っていたが、
少しすると御伽が落ち着きをとり戻し自ら話し出した。
「なんか、こんな事言うキャラじゃないし、ホント恥ずいけど・・・みんな、ありがとうね!
たぶん一人だったら、耐えられなかったと思うけど・・・誰かが居てくれるって思うとすごく心強いよ」
普段クールな御伽からの感謝の言葉に驚きながらも、素直に気持ちを伝えてくれた事がすごく嬉しかった。
「凛せんぱーい! もー可愛すぎますよー! こちらこそです」
ずっと我慢していたのか、諏訪野が御伽に飛びつき自分より背が高い御伽をギュッと抱きしめた。
制服の女の子が2人で抱き合っている・・・うん、悪くない・・・いやむしろ良い・・・すごく良いですな♪ ムフフ。
「うん、本当にすごいよ御伽、本当はちょっと心配してたけどそんな必要なかったね・・・」
小田先生は諏訪野に抱きつかれて戸惑っている御伽の頭を、優しく撫でた。
「うん、御伽すごいよ、めちゃくちゃかっこいい」
和羽も素直に尊敬の気持ちを伝え、全力で御伽の復讐を手伝う事を心の中で誓った。
そんな事を考えているのが諏訪野に伝わったのか・・・御伽に抱きついてくしゃくしゃになっている諏訪野が、
一瞬和羽の方を見てニコっと笑顔を見せてくれた。
その顔があまりにもかわいらしくて、
さっきの和羽先輩なんて圏外ですから発言が無かったらこいつ俺の事好きなんじゃないの?
と盛大な勘違いをしていたに違いない。
思春期男子は常に誰かが自分の事を好きなんじゃないかって可能性を捨てきれずに生きてるんですよ?
気を付けてくださいね諏訪野さん!
ひとしきりじゃれ合って諏訪野も満足したのか、元の座っていた席に座りなおしたので話を続ける事にした。
「じゃあこれからの動きとしては、浮気の証拠写真を撮るために張り込み組は継続してヤツの動きを見ていく感じで良いよね? 」
「はい、絶対にしっぽ掴んじゃってくださいね! 」
心なしか和羽達が入ってきた時よりテンションが高くなった諏訪野が、和羽の提案に同意し、他の2人も頷いて返してくれた。
「じゃあそうしよう、御伽と諏訪野はどんな感じだった?」
「んー、こっちはかなり微妙な感じだったー、そもそもあの人も婚約者の人もSNSほとんど更新してなくて全然動きが読めないんだよねー」
御伽が一通り今日の調査の結果を報告してくれた。
「そうか、そしたら何か動きあるまでは定期的に調べてもらうって感じか、他にもなんか調べられる方法があれば良いんだけどね」
今の状況で張り込みを続けていればヤツがいつかはボロを出す可能性は高いと思う。
でも自分が見えないところで相手を傷つけるだけで終わってしまったら、
自分勝手な行動で人を傷つけた復讐の相手と同じではないのだろうか、そんなのはまっぴらごめんだ。
そうならない為に、自分の行動の結果をしっかり最後まで見届けて後悔する事で、自分たちは初めて前に進める様な気がしていた。
他の3人にこの気持ちを話した事はないが、なんとなくみんな同じ思いで臨んでくれている気がしていた。
「はーい! ちょっと良いでしょうか!」
諏訪野が元気ハツラツ! な感じで手を挙げ、自分の意見を聞いてくれとばかりに3人を見渡した。
「はい、諏訪野さんどうした?」
なんとなくのノリで、教師っぽく諏訪野を指さして答えを促した。
「SNSでの情報収集に関して、ちょっと私考えたんですけどー、今は浮気の証拠を掴むことと、
それを公開する場所を調査しているんですよね? そしたら、それを誘導? っていうか作っちゃうってどうですか?
「・・・それって、どういう事?」
話の流れから、なんとなく嫌な予感がして途中で遮ろうか迷ったが、
最後まで話を聞いてみなければせっかく考えてくれた諏訪野に失礼だし、
もしかしたらすごいアイデアかもしれないと思い話を止めずに聞くことにした。
「それはですねー、諏訪野玲奈女子力全開大作戦です! 具体的に言いますと、
張り込みの時間とかって学校終わってからでかなり限られてて、
その時間で浮気の証拠を掴める可能性って高くないと思うんです、
それにもし証拠を手に入れたとしても公開する場所とか日にちを知らないとダメじゃないですかーだから・・・
私がSNSでヤツと連絡を取って近づいて、先輩たちに証拠写真を撮ってもらおう!
ついでに隙をついてヤツの携帯覗いてスケジュール見ちゃおう! って計画」
「絶対ダメだ!! 」
諏訪野はまだ話を続けようとしていたが、我慢が出来なかった。
「! ・・・んな、なんでですか! そりゃあ凛先輩はあんま良い気しないかもですけど、
私そういうのなんか得意な方だと思いますし、絶対へましたりしませんよ! 不確定な証拠を追うよりも効率は良いはずです!」
「違う! そんな事言ってるんじゃないよ、御伽はまがりなりにも元恋人なわけだし、
嫌な気持ちになるかもしれないけど、それでも効率的な方法があるならそれを選ぶべきだと思う・・・
でもそれで諏訪野に何かあったらどうすんだよ! 御伽にあんなヒドい事できるヤツだぞ? どんなにあしらってるつもりでも、
乱暴に男の力で何かされたら逃げられないだろ? だからそんなの絶対だめ!」
「で! でももし会うって事になっても人通りの多いところにしか行かない様に気を付けるし、
そもそも向こうがその気になるかどうかなんてわからないじゃないですか!
子供じゃないんですし、いざとなったら大声で助け呼びますよ!」
「お・・・俺が嫌なんだよ! なんかわかんないけどめちゃくちゃ嫌だ!
諏訪野のそんなところ見たくねえんだよ! だから・・・お願いだからそれはやめて・・・ほしいです」
自分でもはっきりわかるほどに和羽の顔は真っ赤になって、体が燃えているのではないかと思うほどに熱くなっていた。
「え・・・なんっ! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・そんなの・・・・・・・・・ずるいよ・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました・・・や、めますね・・・」
あまりにも恥ずかしくてちゃんと顔を見る事はできないが、顔は向けずに目だけで彼女を見ると、
数々と学校内のイケメンたちと浮名を流していたはずのあの諏訪野玲奈が、和羽よりも真っ赤な顔になっていて、
見られたくないのか膝を抱えて顔を隠してしまっている。
「ラヴ・・・だねー♪」
はっと我に返り小田先生と御伽を見ると、2してニヤニヤしながら和羽と玲奈を見ている。
「ち、違います! 絶対に!・・・あ」
「そんなんじゃない!・・・・あ」
先生がからかってくるのを否定しようと声を出したが、否定した言葉がかぶってしまったことで余計恥ずかしさが増し、
2人とも下を向いて黙ってしまった・・・。
諏訪野は一つ年下の生徒会長・・・どんな相手への復讐なのかはわからないけど自分たちと同じ様に強い恨みを持った相手がいて・・・
その相手に復讐する為に復讐連盟に参加してくれている・・・。
学年も違うのでもちろん学校で話した事なんて全くないし、学校内で見た事はあるが御世辞にも仲良しとか友達とか言える関係じゃない・・・
ただ同じ学校なだけの他人のはずだ・・・。
もちろん見た目は一般的に見てもすごくかわいいと思うし、
明るくて人懐っこい性格も人気が出るのはすごくよくわかる。
でも俺はそんな見た目とか簡単な印象だけで、こんなにもドキドキするほど惚れっぽくはないつもりだ。
それに、やっぱり俺は葵が好きだ。
亡くなってしまったからとか、もう会う事ができないからという事ではなく・・・
ずっとそばにいてくれた彼女を誰よりも想っていたしそれは今も変わらない・・・。
だからこそ・・・葵以外の女の子にドキドキしてしまい、しかもそれを相手に知ってほしいと思ってしまった自分許せなくて・・・
誰にも見えない心の中で静かに自分を罵倒した。
暫くは小田先生と御伽からずっとニヤニヤした視線が送られていたが、気が付けば時間も20時近くなっており、
今日はとりあえず解散という流になった。
「じゃあ、今日はこんな時間になっちゃったし、みんな車で送っていくよー」
「あー、俺チャリなんで大丈夫です」
時間が遅くなってしまった為、小田先生が自宅まで送ってくれると申し出てくれたが、
自転車通学だったことと、なんとなくゆっくり帰りながら色々考えたいと思ったので断ることにした。
「あたしは送ってもおーっと、よろしくね小田ちゃん♪」
「えー、御伽はなー、ちゃんと先生って呼んでくれたらいいよ?」
「何それー、せっかく親しみを込めて呼んでるのにー、じゃーねー、牧夫センセ♪ どう? ドキっとしたー?」
「はぁ・・・大人はそんなんでドキドキしねーのよ? でもまあ約束だからね・・・送ってくよ」
「やったー♪」
小田先生はしぶしぶ了承したように見せているが、なんだかニヤニヤしながら御伽の頭をポンポンと叩いた。
え、なにこれなんかこの2人いちゃいちゃしてない? いったいこの短期間で何があったの・・・・
リア充ってすごい・・・爆発・・・じゃ生温いか・・・原子まで分解すれば良いのに★
「あ、私も親が迎えに来てくれるんで、大丈夫ですよー」
諏訪野も2人に漂う空気を感じ取ったのか、小田先生の申し出を断っていた。
「そっかー、嵯城は結構どうでも良いけど、玲奈ちんは心配だなー、嵯城! 玲奈ちんの迎えが来るまでちゃんと一緒に居てね?」
「おー、まかせろ」
ていうかなんで女子って、人に色恋のにおいを感じると急に近所のおばちゃんみたいなおせっかい焼いてくるんだろうか・・・
そ、そんなんじゃないんだからね!
「じゃあ行くか御伽、2人もくれぐれも気を付けてね、また明日」
「ばいばーい」
顔がうるさい先生と、口がうるさい御伽が居なくなると一気に教室が静かになった。
「えーっと、嵯城センパイ・・・ありがとうございます! あれですよね? 凛センパイに言われて、
空気読んで残るって言ってくれたんですよね? 私なら全っ然大丈夫なんで! 帰って大丈夫ですよ!」
え、なんだかかなり力強く拒否されてる? やっぱりあれですかね?
小田先生と御伽に俺なんかとの事いじられてご立腹なんですか。
力強く帰って良いと言われた事がショックで一瞬本当に帰ろうかとも思ったが、
和羽が帰った後諏訪野が夜遅い学校に一人でいることを考えると、1人で勝手に帰るわけにはいかなかった。
「んー、いるよってか諏訪野が迷惑じゃなければだけど・・・一緒に待っても良い?」
「は、はい・・・ていうかやっぱり一人で居るの怖かったから・・・居てほしい・・・です」
くそ! か、かわいすぎる・・・! 危うく持ってかれるところだった・・・
和羽! ダメ! 絶対! 勘違いは火傷の元よ! この後輩は誰にでもこうなの! 絶対に勘違いしてはダメ! 後悔するわよ!
自分の中のオネエが全力で否定してくれたので、何とか校内で嫌がる後輩を襲うという明日の朝刊の見出しにぴったりな事件は起こさずに済んだ・・・
はぁ、外の空気でも吸いに行こう・・・少しは落ち着く気がする。
「そっか・・・なら良かった・・・でも校舎内ずっといるのもあれだしちょっとあそこ行かない? じゃぶじゃぶ池」
「あ、良いですねー、あそこ結構落ち着くんですよねー、なんか」
「そうだね、確かにちょっとわかるわ・・・んじゃ行きますかー」
甘利高校には競技用のプールとは別に通称じゃぶじゃぶ池なる人工の浅い池があり、
普段は水が抜いてあるので只のヘンテコなオブジェみたいになっているが、
池の上には大きな桜の木がありこの時期にはオレンジ色の街灯に照らされた満開の桜を見る事ができる。
「なんかここ来ると、懐かしい気持ちになるんだよね、昔幼馴染とよく河原とか行って遊んでたからかなー、
小さい頃を思い出すみたいな?」
2人池の淵に腰を掛けてみたは良いが、黙っているのもなんだと思いなんとなく思った事を話し始めた。
「・・・先輩・・・幼馴染ってどんな人なんですかー?女の子です?」
なごみに来たはずなのに、諏訪野は少しこわばった表情で質問を返してきた。
「女の子だよ、ていうか元々は2人幼馴染が居てさ・・・本当にずっと一緒に居たんだけど、
一人は小学校の時に転校しちゃってそれっきり・・・
今どうなってるのかとか気になるしもう一回だけでも会いたいなとも思うんだけどね・・・
もう一人は葵っていう女の子で小学校の時にうちの道場に入ってきてさ・・・それからはずっと一緒で中学までは同じ学校だった・・・」
「・・・・・だった、ですか?」
だった・・・そう、葵はもうこの世に生きてはいない・・・
でもそれをどうしても認めたくなくて、誰かに話す事は葵の死を受け入れる作業みたいで・・・
今まで家族以外の人間に葵の事を話した事はない。
でも昨日と今日の御伽を見ていて、そんな自分をすごく情けなく思った・・・
たとえ復讐の先にあるのがまともな人生じゃないとしても、今はまだ葵の死を受け入れられなくても・・・
葵と向き合わないで良い理由にはならないんだ。
「そう・・・『だった』なんだ・・・葵は中学の終わりに殺された・・・
でも犯人はまだ見つかっていなくて・・・警察も捜査を打ち切って今は迷宮入り扱いにされている・・・
俺は・・・葵の事件の第一発見者だったんだ・・・」
葵の死を口にした瞬間、お腹に重く黒いものが溢れる様なひどく気持ちの悪い感情が湧きあがってきた。
「・・・それって、初めに言ってた・・・どうしても殺さなきゃいけないって・・・相手ですか?」
諏訪野はこぶしを握り締め一生懸命に怒りを抑えようとしてくれているのか、絞り出すように質問を続けた。
「ああ、そうだよ・・・こんなの間違えている事はわかってる・・・でも俺はヤツを殺さなないと・・・
復讐を果たさないと・・・! この先の人生を生きて行く事も考えられないんだ・・・
事件の事を知っている人は皆、残された人間が引きずっても良い事なんてないから早く忘れろなんて無責任な事を言うけど・・・
葵の家の片隅にポツンと佇んでる遺影を見るたび、何で葵は殺されなきゃいけなかったんだろうって・・・
・・・なんで葵・・・なんだろうって・・・葵・・・」
葵の事を考えるといつもこうだ、さっきまでは全然普通に話せてたのに・・・
2年以上経っても・・・葵の笑顔も、泣き顔も、少し照れた顔も・・・
全く色あせる事なく鮮明に思い出せてしまう。
御伽の決意を見て自分まで少しは前進した気でいたけれど、
結局自分自身はあの事件があった時から一歩たりとて進むことはできていないのだ・・・。
そんな自分の不甲斐なさに対してか葵の事を思い出してかはわからないが、
気が付くと目の前の景色がにじみ・・・和羽は静かに涙を流していた。
すると和羽が泣いている事に気が付いたのか、隣りに座っていた諏訪野が突然立ち上がり、優しく和羽の肩を抱き寄せた。
「・・・よつばくん・・・・よ・・・つば・・・くん」
諏訪野は抱き寄せた和羽の頭に顔をうずめながら、声を殺すように泣いていた。
それが嬉しかったのか、悲しかったのか・・・どういう感情で泣いてくれていたのかは全くわからないが、
なんだかとっても暖かくて、気がづくと和羽も声を出して子供の様に泣きじゃくっていた。
「・・・ありがとう玲奈・・・本当にありがとう」
「ううん、こちらこそ話してくれてありがとう」
なんとなく言っておかなければいけない気がして照れながらも礼を言うと、諏訪野は優しい声音で返事をしてくれた。
葵の事、復讐の事、これからの事・・・色々な思いが頭の中で渦巻くなかで・・・
ただ諏訪野のぬくもりだけが和羽を優しく包み込んでいた。
「・・・・・」
暫くは諏訪野の優しさに身をゆだねていたが、
涙も引き気持ちが落ち着いてくると今がいかに異常な状況なのかを脳が徐々に認識し始めた。
「・・・諏訪野あの・・・時間は大丈夫??」
和羽の質問で冷静になったのか、諏訪野の顔がドンドン赤くなっていくのがわかった。
「あ、あの! ご、ごめんなさい!」
「いや! そんな! 俺こそ・・・ごめん! 」
諏訪野に謝られてしまい、なんだか無性に恥ずかしくなりついつい和羽も謝ってしまった。
「・・・・っぷ」
「・・・・・・・ふ」
急に泣いたり急に謝ったり、短時間での感情の起伏が激しすぎてなんだかおもしろくなってしまい、
気が付くと2人して顔を見合わせて笑っていた。
「なんか上手く言えないですけど、私復讐連盟に参加して良かったなって思います・・・
御伽先輩と小田先生、和羽先輩、あと私、たった4人だけど・・・仲間がいるって・・・
溜め込んでた気持ちを話せる人がいるってすごいことなんだなって思いました」
「そっか・・・俺もたぶん同じ気持ちなんだと思う・・・
熱い感じとか全然好きじゃないんだけど、なんか仲間って良いなって思う」
諏訪野の話を聞きながら、自分も同じ様に感じてる事に気が付き嬉しくなった・・・
同じ気持ちになってくれている人がいることもそうだが、
何より自分が3人を必要だと感じてる事がなんだが無性に嬉しかった。
もしあの事件があってから少しでも進歩した事があるとするなら、
それは同じ目的を持った仲間に出会った事だろう。
もちろん和羽自身は一歩も進む事が出来ていない・・・
でもどんなに暗くて悲しい気持ちでも、こうして話すことができる相手がいるというのは、
和羽にとっても存外に有りがたい事だった。
暫くの間他愛のない話に花が咲いていたが、
彼女の父親から連絡があった為、校門まで送っていくことにした。
校門に着くと既にそこには1台のワンボックスカーが止まっており、中に男性らしき影が見える。
「あ、お父さん来ちゃってますねー、もうここで大丈夫ですよ・・・」
諏訪野は言い終わるか終らないかという所で、トコトコと小走りでこちらに近づいてきた。
「今日はありがとう・・・和羽君! 話してくれてすっごく嬉しかったよ」
諏訪野は和羽の肩に手を置き少し背伸びして、和羽の耳元でそう告げた。
あまりの事に和羽が硬直していると、諏訪野はニカッといたずらな笑みを浮かべて小走りで父親の待つ車へと走っていった。
あいつ先輩をおちょくりやがって・・・か、勘違いなんてしてないんだからね! ていうかちょっと小悪魔っぷりが進行してますよ諏訪野さん!
諏訪野は車に乗り込むと、何やらこちらを指さしながら父親に話をしている様だった。
あの変質者に襲われた! とか言ってたらどうしよう、ヤツならあり得る。
危険人物と思われるのも嫌なので、こちらを向いてる諏訪野の父親に軽く会釈し駐輪場に向けて歩き出そうとしたが、
突然諏訪野の車の運転席の窓が開き諏訪野の父親が声をかけて来た。
「和羽くーん! 今日は玲奈をありがとうねー! 帰り気を付けてねー! 」
暗がりなので表情までは見えなかったが、諏訪野の父親は手を振りながら大きな声で和羽にお礼を言ってくれた。
会った事もないのにいきなり大人の人から名前で呼ばれびっくりしたが、
そういう人もいるだろうと思い再び今度はさっきの会釈よりも深く頭を下げ挨拶をした。
頭を下げた事が伝わったのか、諏訪野の父親は振っていた手をハンドルに戻し窓を閉めると、車を静かに発進させた。
・・・そういえば諏訪野もさっき泣いてた時と去り際に和羽くんって呼んでたっけ・・・
正直すっごいドキドキしたけど、初対面の父親からも名前で呼ばれたって事は、
たぶん諏訪野の家族はそういうフランクな人たちなんだろう・・・そっか、はぁ・・・下がるぅ。
諏訪野の小悪魔は家系という事がわかりなんとなくモヤモヤしていたが、
ふと時計を見ると既に時間は22時を過ぎていたので、急ぎ足で帰路につく事にした。
今日はなぜか夜風がしみるぜ・・・グスン。
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