復讐連盟

今日もまた当たり前の様に頬を流れる涙をぬぐい、けだるい気持ちで学校へと向かう。


僕は嵯城 和羽!(サシロ ヨツバ)私立甘利高校に通う高校3年生17才★

趣味は【一人ドストエフスキーの作品考察会】【竹刀素振り】【散歩】です♪

もはや、1人身のおじいさんと同じだねこれ! 


・・・ほんっと嫌だ自己紹介、省きたい省きたい省けない!怖い!

いや、ほんっと怖い!


「はよー、嵯城ちん・・・て、何やってんの?」

登校中華麗に自己紹介を終え、人生にまた1ページの黒歴史を綴ってしまったことに悶絶している俺に話しかけてきたのは、

学校での唯一の友人、磯山修だ。

修は最上級の八方美人で誰に対しても良い顔をしようとするが、学内ヒエラルキーの上の方の人間にも、

最下層の人間にも分け隔てなく良い顔をすることができるので、ある意味すごい奴だと思う。


もちろん和羽に対しても同じ様に良い顔をしてくれるので、

深い人付き合いができない和羽にとっては最高の居心地を提供してくれるベストパートナーだ・・・むしろ一家に一台ほしいまである。


「おはよう修、恥ずかしいけどやらなきゃいけないのよこれ」


「?」


「何のこと?そういえば聞いた?例の事件」


「事件?なんかあったの?」


「うちの学校でツイッピー使ってのいじめが発覚したらしくて、

なんか対象にされちゃってた子が今度は反撃するコミュを作って一人ずつ呼び出したり襲撃して女子の間でひどいことになってるみたいよ?ヤバくね?」


なんだそれ・・・めちゃくちゃ怖いじゃん女子、徒党組んで嫌がらせしてその腹いせに集団で襲撃する・・・もうそれは任侠de抗争ですね、

今度から女子に話しかけるときは絶対●●の姉御って付けて声掛けてみよう、そうしよう。


「それはまた・・・やった方もやられた方もすげーな」


「だよねー、さすがにやり過ぎって言うか、引くよね普通」


「だな、俺なんか引きすぎて一生独身を貫くことを宣言しそうだ」


「あはは、それもそれでやり過ぎだわ」


「にしても数年前とかなら考えられなかったよね、SNSやってるとかも皆オープンにしてなかったし、

苛めはずっとあったろうけどそれに反抗する手だてがなかったっていうかさ、なんて言うのかな」


修の言おうとしている事はなんとなくわかった。


今までは苛められてても泣き寝入りするしかなかったのだろう、たぶんそうやって苛めをしている人間はそれまでも何人もの人間をターゲットにしてきていて、

そのターゲットにされた側も、復讐しようにもそれでさらに苛めが悪化することの方が怖くて、ましてや集団で苛めてくる相手に対して一人で反撃をするというのは、

それからの高校生活を考えればある意味自殺行為だろう。


それがツイッピーでつぶやくことで同じような気持ちを秘めていた人間が賛同し、

被害者側もどんどん大きな集団になってきてしまう・・・。

最終的には加害者も被害者もない泥沼の展開になっているということなのだろう。


確かに思考は短絡的で行動はひどく幼稚なものではあるが、善悪を抜きにして単純に大きな力に立ち向かう方法としては徒党を組むことは間違いではないし、

意図していないにしても人数を集める為にツイッピーを使った行動力は、賞賛するべきものだと思った。


そんな風に思う事自体イカれているのかもしれないが、自分自身の止まった時を動かせるなら善悪なんてどうでも良い・・・。

それにもし仮に葵を殺した犯人にたどり着くことができたとしても、1対1では復讐が成功する確率も下がってしまう・・・だが目標を同じとする人間が複数いれば、

復讐に用いることができる方法も増え成功の確率は格段に高くなる。


「ツイッピーね・・・」


僕はキメ顔でそういった・・・後に恥ずかしくて死にたくなりました。



翌日さっそく行動を始めた。


復讐を目的とするコミュニティを作るのは簡単だったが、どういった人間を揃えれば良いのか、

拠点はどうするのかなど考えなければいけない問題は山積みだった。


先ずメンバーに関しては、できるなら同世代で俺と同じように誰かに強い恨みを抱えているが、

自分ひとりでは動けない人間が良い・・・コミュニティはお互いに助け合いはするが、傷の舐めあいや馴れ合いの為に作るわけじゃないんだ・・・。

くだらないボランティア精神で人助けをしたい人間に来られて、復讐をあきらめるように説得でもされてはたまらない・・・。


目的は一つだがお互い決して馴れ合わない・・・仲間ではなく組合、連合や連盟の様な・・・方法としてお互いを利用し合うコミュニティを作る必要がある。


そして次に場所だ・・・自宅という線も考えたが、それでは両親が不振がるに違いない・・・それに自由度の低いものになってはあまり意味が無い様に感じた。

そうすると妥当なのは部活かな・・・学生だしね。


だがここで問題になるのは顧問だ・・・部活の名前などはカモフラージュに何か適当な名前を付ければ良いが顧問はそうはいかない、

部活の顧問は活動記録や学校内での部活会議などに出席しなければならない為、ある程度部活動の中身を知っている必要がある。


本当の活動を明かすわけにはいかないし、ダミーで活動できる様な部活にしようか・・・

例えば文芸部とかなら読書がメインなのだから目に見える形での成果は不要だろう・・・何か成果が必要なのであれば、

月に一回読書感想文でも書けば良いだろう。


あれこれ考えると問題はいくつもある・・・。

だが先ずやってみなければそもそも人が集まるかどうかもわからないし、顧問に関しては最悪一部分だけ実際に名目上の部活動を行えば問題はないだろう。

「とにかくやるだけやってみようか・・・」


『ツイッピー』コミュニティ名:【復讐連盟】

対象地域、学校、会社等:私立甘利高等学校


概要:あなたの大事なものを奪い返しましょう。


本文:ああないたうのえふおくかしきゅくうけてこつさだしいすませす。

四そ月た十ち六つきてゅとうなこにうぬしねゃのりはかひじふゅへんほびましみつ     

む1め6もじや3ゆ0よふらんり


最終的にSNS「ツイッピー」に載せたコミュニティの紹介文はこうなった。


本当の文の間にある五十音順のひらがなを取り除くと、本文はこうなる。

「あなたの復讐手伝います、四月十六日旧校舎理科準備室16時30分」


これなら、パッと見では何が書いてあるかわからないし、わかったとしてもただの気持ち悪い書き込みとしか思われないだろう・・・

むしろこんな文章の誘い文句に興味本位で来るような奴がいたらそれはそれで連盟に加わってもらって良い様な気がする・・・。


何よりも・・・停滞していたこの2年間が動き出した気がして和羽は少しうれしくなった・・・。

でも結局布団に入るころには、葵を救えなかったことへの後悔と犯人への怒りの念が押し寄せてきて・・・泣きながらいつもの夢を見た・・・。

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