第5話 まともな部活を求めて

 夏休みを日向の家に通うだけで費やした私。桜ちゃんに誘われて夏休み明けに文芸部へ行ってみることにした。


「え?」


 文芸部。運動部と文化部があるけど、文化部の中でも群を抜いて真面目で地味なイメージがある文芸部。そんな部活の部室だからどうしても静かで大人しい人の集まりだと思ってたし、そんな所で私は何が出来るんだろうと思ってたけど、逆だった。

 先生二人がロマンスある雰囲気で夕陽を見ながら何か言ってるし、桜ちゃんを取り合うように両端には輝夜さんと有彩さんが座っている。そんな二人が桜ちゃんといつも一緒に居る先輩をすごく睨んでいる。そんな様子にも気付かずに小説について熱弁する先輩。そんな混沌(カオス)な状況で気まずそうにパソコンと向き合う他の部員の人。確かにこの環境なら気まずくなっても仕方がない。

 ここの部活に輝夜さんと有彩さんが居ることが驚きだ。文芸部だよ? いや、この二人は多分って言うか絶対部員じゃない。遊びに来ても注意出来ないんだ。だって天野先生は文芸部の顧問じゃなくて美術部の顧問だもん。美術部はそっちのけでここに居ても良いはずが無い。


「天野先生」


「あ、穗村さん。見学ですか?」


「ええ、美術部は大丈夫なんですか?」


「実は追い出されてしまいまして、青原先生と二人で話していてくれれば良いって押し切られちゃったんですよ」


 そんな部活ばっかりなの? 私はすでに心が半分折れちゃってるし、ここの部活に入部する勇気なんてこれっぽっちも無い。いきなりハードルが高すぎるよ。


「ほら、屋上に居るでしょ?」


 天野先生が指を差す方向には三人くらいがスケッチブックを持って何かを描いてる。双眼鏡でこっちを覗きながら。普通に怖い。そんなことするの五部に出て来た車いすに乗ったスタンド使いかゴルゴさんしか居ないもん。


「青原くん! 遊びに行こ!」


 ロングヘアの金髪に白くてきれいな肌と整った顔。どこまでも綺麗なこの人もモデルか何かなのかな? いや、スカウトされなきゃおかしいって言うか今すぐにでもサインが欲しい。


「あ、ごめん。見学の子だね?」


私に気付いた先輩が申し訳なさそうに言った。さっきまで気付かなかったのか。


「今から演劇部に行くんだけど」


「私も行きます」


この金髪の先輩は演劇部なのか。だとしたらもの凄いクオリティになりそうだけど。正直この人が体育館の舞台を横切るだけでスタンディングオベーションものだろう。


「………?」


「青原、この子は?」


「演劇部の見学」


「僕たちは演劇部じゃないんだって」


 青髪のこれまたもの凄くカッコいい先輩と赤髪のもの凄く体育会系の先輩が青原先輩に何か話している。その間に何か金髪の先輩とお話でもしてようと思ったけど、


「芽亜ちゃん!」


「何か良いことあったの? 嬉しそうだね!」


「芽亜ちゃんと一緒だからね」


「恥ずかしいよ……」


 こっちはこっちで話しかけれるはずもなく。ん?


「あれ? どうしたの?」


 金髪のモデルみたいな先輩と話していた桜色の髪の毛の先輩が心配そうに聞いてきた。


「演劇部の見学で来たんですけど?」


「演劇部? ここじゃないよ? ていうかうちの学校に演劇部なんて無いよ?」


「え? 演劇部に行くって文芸部の先輩が言ったからついて来たんですけど」


 さっき先輩は確かに演劇部へ行くって言っていた。じゃあ私は今どういう状況なんだ?仲の良い先輩たちと初対面の私。これは非常に気まずいし恥ずかしい。何か話題を変えないと。

 桜色の髪の毛の先輩の首元にある指輪のネックレスと金髪のモデル先輩の左手の薬指にある指輪は同じものだし、仲良しであることを話題に出せば自然とそっちの話になるはず。


「先輩たちの指輪って同じものですよね! すごく仲良しさんなんですね!」


「これ、これはね婚約指輪なんだ」


「?????」


 めちゃくちゃ嬉しそうに笑顔で話す金髪モデル先輩とめちゃくちゃ顔を真っ赤にして恥ずかしがってる桜色先輩。え? これは聞かなかった方が良いタイプの質問だった気がする。


「えっと……お相手は?」


 お互いに指を差し合ってるのを見ると私の頭の中での理解は正しいってことになる。こんなこと簡単に聞いて良かったのかな? いや良くはないな。


「あ、ごめんなさいっ! そういうデリカシー的な物への配慮が足りてませんでした!」


「気にしないで! ボクたちは気にしないから」


「うん。私も気にしないから」


 この先輩たちは良い人なのかも知れない。それよりも、ここに居ると文芸部の先輩や他の先輩にも迷惑が掛かるから早く出て行った方が良い。先輩たちにはお邪魔してしまった事を謝らないと。


「ごめんなさい。お邪魔しちゃいました!」


 勢いよくお辞儀をして帰ろうとすると、金髪先輩に肩を掴まれた。気付かないフリをして無理やり帰ろうとしても力が強すぎて一歩も前に進めなかった。金髪先輩の力の強さが半端なかった。


「君のことも知りたいな」


 あっ……アイドルやモデルが大好きな私にそんな美貌で言われてしまったら断れないっ。

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