第4話 君と居る将来が
「ん? どうしたの?」
「休みの日になると毎回家に来るけどなんもないから暇だろ?」
「日向が居るじゃん」
「………」
日向は照れると無言で顔を逸らして目を合わせようとしてくれない。私がのぞき込むように無理やり目を合わせようとすると少し乱暴に頭を撫でて髪の毛をくしゃくしゃにして来る。そんな何気ない一瞬一瞬も日向と一緒に居るから楽しいし幸せだって思える。
ずっと感謝してるんだけど言葉にするのは恥ずかしいから、今までの『ありがとう』は告白と一緒に言うんだって決めてる。
「理想……か」
日向がテレビを見てぼそっと呟いた。テレビの内容は理想の人が目の前に現れて、そこから恋に発展していく恋愛ドラマだ。日向がテレビを見ている姿は滅多に見たことが無い。このドラマが好きなのかな?
「このドラマ好きなの?」
「いや、偶然やってた」
という割には真剣に見ている。せっかく日向の家に来てお喋り出来ると思ったのに、ドラマが終わるまで私が暇になるじゃん。
「ねぇ、日向は理想の人とか居るの?」
「俺の理想は俺の横でテレビを見ている人だよ」
テレビから視線を逸らさずにそんなことを急に言うから、ビックリしたというより恥ずかしすぎてどうにかなりそうだった。普通そんなことを真顔で言えないし、急に言われたら恥ずかしさで目も合わせられない。けど、なんだろう? 今まで生きて来た中で一番嬉しかった。
「私の理想の人も横でテレビ見てるんだ」
テレビからは視線を逸らさないけど、私とは絶対に目を合わせない恥ずかしがり屋さん。理想の人って事に関しては嘘じゃないけど。
「告白かぁ……俺からしちゃダメなの?」
「ダメ。あ、でもプロポーズは……プロポーズも私からが良い」
「わがままだなぁ。でもそんなところが「だめ」」
いつもそうだ。私が気を抜くとこうやって好きだって言おうとしてくる。告白は私からってあれほど忠告したのに、こうやって言ってくる。
「日向は将来何になりたいの?」
「夫」
真顔で即答する日向に対して何とか真顔で対応できた。気を抜けば笑みが零れそうだったから。
「そうじゃなくて、お仕事」
「消防士とか救急救命士が良いけど、月奈と居られる時間が減るのは嫌だから普通のお仕事かな。月奈は?」
「人を笑顔に出来るお仕事かな」
携帯の壁紙にしているアイドルを見て微笑む。このアイドルの名前は星月 輝夜(ほしづき かぐや)っていう人気のアイドルで、ファンの人をたくさん笑顔にしている。アイドルは憧れの職業だ。
「アイドルとか」
「アイドルはダメだ」
「なんで?」
「一緒に居る時間が減ってしまう。せめて家で出来る小説作家とか」
「小説? 確かに人を笑顔に出来るけど………」
なんて話して居たら日も暮れてきて、その日は家に帰って将来の目標についてじっくりと考えた。今まで目標にしてきたのは胸を張って日向と肩を並べるって事だけだった。
「将来の夢? 今のところは無いかな」
「アイドルとかモデルとかは?」
「現実味が無いしなぁ」
ちなみに説明しておくと、桜ちゃんが小さい頃よく遊んでいた近所のお姉さんが星月さんで、中学の時の一番の親友が全国的に有名なモデルの赤羽 有彩(あかはね ありさ)って人で、この二人は桜ちゃんが居るからって理由でこの高校へと転校している。そんな桜ちゃんが現実味の有無を語るのはなんか違う。
「小説って書いてて楽しい?」
「うん! 自分の理想をばーって書けるから楽しいよ」
「やってみようかな?」
「それなら文芸部へおいでよ! 紹介するよ!」
見学に行っておいて損はないかも知れない。それなら日向も誘って行こう。でも日向はいろんな部活の助っ人で忙しそうだし、一人で行ってみよう、これも自信を付けるためのトレーニングになるはず。
そう意気込んで向かった私を返り討ちにするような場所だってことを今の私は知る由も無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます