第3話 君の優しさは誰かの笑顔に

 小さい頃の記憶。絵本に出て来た世界はもの凄く綺麗で、こんな世界があるなら一度は行ってみたいって思った。お菓子の家や、ペガサスとかの幻の生き物、宝石で出来た星。色々読んで来たけど、一番好きなのは白馬に乗った王子様。どこからともなく颯爽と現れてお姫様を助けて結ばれる。絵本の世界ではどれだけ残酷でも最後には絶対救われるから好きだ。どれだけ涙を流しても、どれだけ苦しい思いや痛い思いをしても最後には救われる。悪い奴らは居なくなる。

 そんな夢物語なんてある訳ないって思ってた。みんなが私を敵視する。この世界では数が多い方が絶対的な正義になる。そんな状況でも迷わずに助けてくれた日向が居るから私が居る。私はその時心に決めたんだ。困ってる人が居るなら誰よりも早く助けてあげようって。一人ぼっちが寂しいのは誰よりも知ってるから。泣いてる人が居るならずっと隣に居て励ましてあげたい。自分は不幸だって嘆くなら、私が笑顔になれることをいっぱい教えてあげたい。それが日向の隣に居る資格だって思っているから。

 私が話しかけたあの日以来、立花さんは他の人と話しているのを見たことが無い。時々、教室に来る文芸部の先輩や先生と話しているのを見かけるけど、クラスの子とは話そうとしている姿を見たことが無い。


「月奈」


「どうしたの?」


「行ってこい!」


 満面の笑みで力強くそう言った日向は私の背中を押してくれた。私は日向の優しさにそっと微笑みながら立花さんに話しかけた。


「お昼ご飯一緒に食べよ!」


「え? うん……」


 不思議そうに首を傾げる立花さん。迷惑だったかなとかうじうじ考えるのは止めた。私には日向が居る。誰であろうと助けてあげられるヒーローが居る。そんな人とずっと一緒に居るなら私も手助けをしてあげたいし、私自身がそうなりたいって強く願うのは当たり前の事。


「なんで私を誘ったの? 二人きりの時間を邪魔しちゃうし……」


「私も日向も桜ちゃんと一緒にお昼を食べたいの!」


 日向にごめんねってか細い声で呟いた桜ちゃんに日向が満面の笑みで強く言った。


「それじゃ苦しいよ。楽しいこと話そうぜ!」


 日向の言葉も笑顔も人に幸せをもたらすのは本当にすごいと思う。桜ちゃんも満面の笑みで大きく頷いていた。そんな光景が私も嬉しくて、みんなで笑いあえるって凄く幸せな事なんだって強く思った。


「二人は付き合ってるんだよね?」


「躊躇なく聞くんだね……」


「付き合っては無いよ。月奈との約束があるからな」


「約束?」


「告白は私からさせてって約束したの」


 目を輝かせながら話を聞く立花さんはきっと恋愛物語が大好きな普通の女の子みたいだった。いや、失礼な意味じゃなくて。立花さんはなんて言うかクールなイメージがあったからギャップ萌えって言うかなんて言うか、芸術的な物が好きなんだって勝手に思ってたし。


「凄い! 凄いよ! それ小説に使っても良い?」


「良いけど……そっか、桜ちゃん文芸部だもんね」


「うん! なんだか恋愛小説みたい!」


 ここまで喜んでる立花さんを初めて見た。普段から無口だから感情的になることが無いんだと思ってたから余計に驚きだ。それでも、私たちの関係でここまで喜ばれると少し恥ずかしいかな。


「二人が一生一緒に幸せに居られるようにお祈りしとくね!」


「俺たちも桜が笑顔で話し合えるような親友で居るつもりだから、よろしく!」


「うん! ありがとっ!」


 人を見かけで判断しない。困ってる人が居たら誰でも良いから話しかける。一人ぼっちにさせない。迷ったら笑顔になれる方を選ぶ。不安なら手を繋げ、繋ぐ人が居ないなら助けてって叫べ。今まで日向が教えてくれたこと。人と人を結んで笑顔を作る。これは一生大事にしていきたい教訓だ。

 笑顔で話し合って食べるお昼ご飯はやっぱり美味しいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る