第7話 ジャケット
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ハルのジャケットを借りてから約二週間が経った。
返さないと、と毎日それを見ては思うけど、
どうやって返せば良いのか分からない。
ハルについて知っていることは、
ホストクラブ【M】で働いているということ、あのコンビニが彼の住んでいる所から近いということだけ。
これまでハルと会ったのはすべて偶然。
その偶然に賭けて毎日重いジャケットを持ち歩くのは効率が悪すぎる。
でももう二週間も経ったし、そろそろどうにかして返さないと。
考えを巡らせたが二つの案しか浮かばなかった。
一つは、あのコンビニに前と同じくらいの時間帯に行ってハルを待ってみる、というものと。
もう一つは、【M】に行って彼に会う、というシンプル極まりないもの。
でも1人でホストクラブに行く度胸が見当たらない、勿論一緒に行く子もいない。
お店の前で待ち伏せするのは、なんだかなあ。
とりあえず、コンビニの案かな。
会える可能性はかなり低いけど。
そうしてあのコンビニに今夜行くことに決めた。
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0時過ぎ、
最終電車に乗り、二駅目で降りた。
徒歩でコンビニまで向かう。
「いらっしゃいませー」
またホットミルクティーを買い、コンビニ内のイートインスペースに座った。
入店のベルの音が聞こえるたびに顔を上げて確認するが、やはりハルは来ない。
1時間ほど待ったところで、さすがに長居しすぎたなと、コンビニを出る。
「ありがとうございましたー」
やっぱり難しいよなあ。
電車はもう無いので、徒歩で帰路につく。
明日、もう一回だけ来てみよう。
そう決めて歩くスピードを少し速めた。
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次の日の夜、昨夜と同じように終電に乗り、コンビニに向かった。
またミルクティーを片手にイートインスペースで彼を待ってみる。
私、側から見たらただのストーカー...。
でもなるべく早くこのジャケットを返すためにはそんなことは気にしていられない。
コンビニの目の前の横断歩道が赤になり青になりを繰り返すのを永遠と見つめる。
人通りも全くなくなってきて、携帯で時間を見ると、深夜3時。
あー、ダメだったかあ。
もう少しだけ待ってみたら、ハルが現れるかもしれないという想像に、後ろ髪を引かれながらもコンビニを後にする。
どうしよう、考えないと。
あ。
少し申し訳無いけど、ヒカルくんに仲介してもらって、返してもらおう、そうしよう。
案外すぐに答えは出た。
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土曜日、バイトのシフトが入っていた。
深夜2時を過ぎ、お客さんも減ってきた頃。
そろそろ店仕舞いかなと思っていると、
「ヒカルさあんっ!」
急に、普段よりワントーン高いユズコの声が聞こえた。
仕事終わりか、スーツを着ているヒカルくんが店にやって来た。
あ、ジャケットのことお願いしなくちゃ。
「やっほー、ユズコちゃん、ユリアちゃん!」
「ヒカルくんこの間はありがとうございました。今日はお仕事終わりですか?」
「いえいえ!そうだよ疲れたからユリアちゃんに癒やしてもらおうと思って」
「お疲れ様です、私で良ければ幾らでも。」
ヒカルくんに微笑み返す。
それから少ししてユズコがオーナーに呼ばれ控え室に行った。
今がチャンスだと思い、ジャケットの話をヒカルくんに切り出す。
「ヒカルくん、私こないだ色々あってハルさんにジャケットを借りたんです。早く返したいと思ってるんですけど、どうやって返せばいいか分からなくて...。もし良かったらなんですけど、ヒカルくんから渡して貰えませんか...?」
少し驚いた様子のヒカルくん。
「え~ハルってそういうことするタイプじゃ無いと思ってたんだけどな!..ちょっと驚いたわ。全然俺から渡すのも良いけど、多分あいつ呼んだら来るよ?」
俺一応ハルの先輩だしね、とヒカルくんが笑う。
「えっ」
予想外の提案に普段の私らしくなく慌ててしまった。
「何その反応!ユリアちゃんが俺慌ててるとこ初めて見たかも。もしかして、ハルに惚れちゃったりした?」
「いや、全然、そんなんじゃないです」
冷静になってそう返す。
「なーんか、ハルずるいなあ。俺の方が先にユリアちゃん見つけたのに。」
携帯をいじりながら、すねたような、あきれたような口調のヒカルくん。
「...ジャケット、お願いしても良いですか..?」
するとキョトンとしたヒカルくんが一言。
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「あ、ごめん、もうハル呼んじゃった。」
あなたがくれた光 [毎日執筆中・コメントいいね待ってます☺] 堕天使ちゃん @cielgoutte
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