第1話 日常
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ガシャッ。
深夜2時、シンクの中で食器が少しだけ音を立てた。
ああやってしまった。
寝室でママが寝てるのに。
どうかママに聞こえていませんように。
と考えた瞬間、
「おいクソ女!!
うるせーーんだよ!
いい加減にしろよてめえ!」
怒声が寝室からキッチンにいる私に向けられる。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
どうかママが寝室から出てきませんように。
殴られませんように。
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今日はママの機嫌が悪い日。
分かっていたから気をつけていたのに。
キッチンで身体を硬直させる。
幸いにも、今日は怒鳴られただけでママは寝室からは出てこなかった。
でももうこれ以上ママを刺激したくなかった私は
財布と携帯だけを持ち、いつものようにそっと家を出た。
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頭痛い。
歩くたび痛むこめかみを押さえた。
一瞬恐怖に晒されたために起きる緊張性の頭痛。
薬持ってくれば良かった。
何しよっかな。
勿論この夜中に開いている店はほとんど無い。
フラフラ歩いていると近くの海岸にたどり着いた。
冷たい冬の風が私の長い髪を揺らす。
海がキラキラと月と星の光を反射している。
綺麗、沈んでしまいたい。
生きてても何も楽しいと思えない。
私は誰にも愛されず、こんなにも無価値だ。
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また朝が来た。
携帯の通知を見ると数人の男の子からのライン。
そのほとんどが俗に言うセックスフレンド。
自分でも男性依存をしている自覚はある。
女から逃げてたどり着く先はいつも男だった。
でも誰に対しても独占欲は湧かないし、恋愛感情は持てない。
お互いにただの都合のいい関係だ。
自業自得なのは分かってる、けど時々それも私に虚無をもたらす。
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学校に向かうバス。
いつもこちらに視線を向けて来る気持ちの悪いおじさんが今日もいる。
おじさんを横目にバスを降り、笑顔のスイッチをONにした。
「おはよ、アヤちゃん」
「あっユリア!おはよ〜!」
同じ科のアヤちゃんと他愛のない話をしながら教室に向かう。
学校での私は明るいキャラを演じている。
女の子たちに敵に回されることを恐れ必死に気を遣い、合わせる日々。
言うまでもなく、帰る頃には毎日どっと疲れが押し寄せてくる。
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あ、そういえば今日バイトだ。
授業を終え、校門を出たあたりでふと思い出す。
なるべく家に居たくない私は、ママと家にいる時間がすれ違うよう、深夜までやっているバーでバイトをしている。
普段ならここまで足取りは重くないのだが今日は違う。
今日は私のことを嫌う女と働かなければいけないからだ。
噂によると、私が客にチヤホヤされているのが気に食わないらしい。
目に見えた危害は加えられた事はないが、彼女は気が強いので、そのうち何をされるかと想像すると気が重い。
はあ、行きたくない..。
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