第2話 バイト先

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バイト先に着いて控え室で制服に着替えていると、ユズコが入ってきた。


確か、同い年で、学校は違う。


彼女は色落ちした茶色のミディアムヘアをいつもしっかり巻いていて、


またいつも唇にはたっぷりグロスが塗られている。


そして自分が一番でないと、気が済まないといった性格だ。


私を嫌っている女、とはこのユズコのことだ。


ユズコは私を一瞥したがイヤホンを外す気はなさそうだ。


でも私はそんな彼女を無視するわけにはいかない。


彼女を敵に回したところで良いことは1つもないからだ。


「ユズコ、おはよう」


と声をかけたが


「....」


案の定ガン無視されてしまった。


私、彼女に何もした覚えないのにな。


無視されることは中高でしょっちゅうだったから、そこまではこたえないけど。


そして無言のままユズコは先に控え室を出て行った。


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深夜、店が賑わってきた頃、

来店のベルが鳴った。


入ってきたのは、ここら辺の繁華街では有名なホストのヒカルくん。


少し長めの金髪がよく似合っている。


数ヶ月前からこのバーに通ってくれている。


「こんばんは、ヒカルくん。」


「こんばんは!ユリアちゃん相変わらず今日も可愛いね!」


「またまた、ホストみたいなこと言って」


「だって俺ホストだもーん」


「今日はお仕事お休みなんですか?」


「うん、今日ユリアちゃんいるって店長に聞いたから休んだ!」


「えーまた上手い冗談やめてください」


「ホントだってば、俺何ヶ月前からかユリアちゃんのこと口説いてるのに全然効いてないじゃん」


なんて返せばいいのかわからなくて軽く笑ってごまかす。


そんな私たちをユズコが横目で睨んでいる気がする。


ユズコがヒカルくんのことをカッコいいって言ってたのを前に聞いた事があるから、多分そう。


気のせいでは無さそうだ。


彼女からの視線が怖すぎて、ヒカルくんから離れドリンク作りに専念することにした。


それを見たユズコがすかさずヒカルくんの正面に移動し話しかける。


「ヒカルさあん、ユズコのこと覚えてますかあ?」


「...あーたぶん?」


ヒカルくんが営業スマイルで誤魔化す。


明らかにショックを受けているユズコを横目にドリンクを作る手を動かし続ける。


「たぶんってなんですかあ!ユズコです!ユ!ズ!コ!忘れないで下さいよお!」


「おっけー、ユズコちゃんね!」


「っていうかあ、ヒカルさんって、カッコいいですよねえ、〜〜‥」


猫撫で声でヒカルくんに話し続けるユズコの声が頭の中に響いてまた頭痛がし始める。


勘弁して...。


これだから女の子苦手。


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「..リア!ユリア!いいよね!?」


???


まさか今になってユズコから話しかけられていると思わず、首をかしげた。


散々無視しといて何の用だろう。


相変わらずユズコはヒカルくんの隣をキープしている。


「ヒカルくんが働いてるホストクラブ連れてってくれるって!ユズコとユリアのこと!」


なるほど、そういうことね。


ホストクラブか..興味ないなあ。


「うーーん、私は-」


「えー!ユリアちゃん来ないの?」


ヒカルくんが私の言葉を遮った。


ちらりとユズコを見ると、YESと言えよ、と言いたげな目で私を見ていて、目が合った。


「...長居しなくてもいいなら..?」


ユズコの視線に耐え切れず、そう言ってしまった。


「決まり!じゃあ金曜の夜に2人で来てよ!特別待遇するからさ!」


「わあいっ、ユズ超楽しみ!」


「..わかりました!(ニコリ)」


嬉しそうなユズコとは反対に作り笑いを浮かべる私。


ワクワクする、とか、楽しみ、という感情がほとんど消えてしまっている淋しい私には


また金曜もユズコと会わなきゃいけないのか、


それしか頭になかった。



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