閑話『一瀬 護』


閑話ーー



 一瀬護いちのせまもる。大学二年生。


 彼についての話を少しだけ。


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 小さい頃から彼は勉強ができた。小学生の時は学校で一番頭がよかった。中学に上がってからも、ろくに勉強はしていなかったが学年で順位はトップだった。性格も明るく勉強もできたため、友達も多かった。このまま何もかもうまくいくのだろう、そう思っていた。


 彼はやはり勉強ができたので、受験勉強もせず、地域で一番の進学校である高校に入学した。


 しかし、彼の思ったように順風満帆にはいかず、高校生になってから人生で初めて挫折というものを味わった。勉強が全く追いつかなくなったのだ。

ずっとトップだった彼は、勉強せずともここまで来た。それがいけなかったのだ。


 努力しなくても一番を取っていた彼は努力の仕方を知らなかった。自分を天才と思っていた。


 背負わされた期待に、今までは難なく応えてきた。それが突然できなくなってしまうと、不安に押し潰される。周りからみんながいなくなってしまうのではないか。期待に応えられない俺はいらないんじゃないか。


 そんな不安でいっぱいだった。


 すると実際に、今までは勉強をしていなくてもできていた彼が徐々に沈んでいく様を見て、喜んでいる者も現れた。その者達は彼の友達だった。


 彼は、そんな友達がいることに気付いて、塞ぎ込んでしまった。


 その時に「悔しい」と思って、頑張る原動力にすることができればよかったものの、彼はそれができなかった。そこが彼の弱さだった。彼は今まで順調に来れていた分、挫折を乗り越える力を持ち得ていなかった。頑張ろうと思っても頑張れない。そんな日々が続いた。


 それから、彼は不登校になってしまった。


 母はそんな彼を励ましてくれた。「やればできるんだから」と。嬉しかった。しかしその反面、「やめてくれ」とも思った。


ーー頑張りたいのに頑張れない。頑張り方を知らない。そんな自分を励まさないでくれ。


ーー思いっきり貶してくれ。叱ってくれ。見放してくれ。


 そんなことを考えながら、彼は部屋で一人泣いていた。


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 不登校になりつつも、ギリギリで高校は卒業できた。こんな状態になってしまった彼への先生からの配慮もあるだろう。


 彼は大学受験はしなかった。もししたとしても受かる気がしなかったからだ。


 一年浪人してから大学に行こう。彼はそう決意し、高校を卒業してから一年間、受験勉強に勤しんだ。


 一年後、彼は大学へ入学した。人生で初めて少しだけ努力した時間だった。


 大学は実家から離れていたので一人暮らしを始めた。そして、入学してからまもなく、サークルに入った。大学は楽しくやっていこうと思っていた。しかしうまく馴染めなかった。高校の時、友達関係がうまくいかなかったことから人間不信になっていたのだ。友達もできず、大学は全く楽しくなかった。サークルも仕方なく行っていたようなものだった。そんな中、サークルの一人の女の子と少しだけ話すことがあった。


 彼女は彼の話をよく聞いてくれた。他の人よりも彼女に心を開いた彼は「人のことを信じれない」という話をした。すると「無理に信じなくてもいいよ。私が信じさせてあげるから」と言ってくれた。彼はその言葉に救われた。高校の友達が自分の成績が落ちていく姿を笑ってきたことが原因で、友達を信じられなくなってしまった彼にとって、そう言ってくれた彼女はとても大きな存在になっていた。


 二人で会うことも多くなり、徐々に惹かれ合い、しばらくして彼は彼女と付き合うことになった。


 人生で初めて彼女ができた彼は、全ての原動力が彼女になっていた。何かを頑張る時、つらいことがあったとき、彼女の存在があったおかげで乗り越えられた。もうこんな人とは出会えない、ずっと一緒にいるんだ、そう思っていた。毎日が楽しかった。


 そして、付き合ってから一年が過ぎたある日、彼女が浮気していることがわかった。大学の知り合いが教えてくれた。「お前の彼女が他の男と腕を組んで歩いてるところ何回も見たぞ。」そう言われた。彼は彼女に問いただした。嘘だと言って欲しかった。しかし彼女は浮気を認めた。


 彼女とはその日を境に別れた。連絡も取らなくなった。


 唯一信じることができた人に裏切られてしまった。


 彼は人を信じることをやめたーー


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 しばらくして、彼は深夜にパンツを脱いでエロサイトを漁っているときに下半身裸のまま異世界召喚される。



ーー彼女に浮気され人を信じることをやめたら異世界で露出狂になった男の物語。



ーー休題


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