第15話~「まだ早い」 それが彼女の答えだった。

「まだ早い」


それが彼女の答えだった。


彼女はこちらの手を取らずに立ち上がる。


俺は手を引っ込めるしかなかった。


どうにも気まずい雰囲気が二人の間に流れる。


そのまま、まだ見ていないところを回り、美術館を出る。


陽は高く、解散するにはまだ早い時間だった

これから別の場所に行こうか。

行けば気まずさは払拭され、お互い楽しかったで一日を終えることができるだろうか。

どこに行こうか


そんな考えばかりが俺の頭の中をぐるぐると回っている


バス停に向かって歩いている途中、彼女は道路の反対側にある自販機を指差し


「ちょっと寄っていっていーい?」


と聞いてきた。


喉が渇いて単純に飲み物を買いに行くのだろうと思っていた。


二人で道路を渡り、自販機の前へ行く。


彼女が飲み物を買い


さあ、行こう。歩き出そうと思ったら


「はい」


と缶を差し出してきた。


え?


何で彼女が缶を渡してくるのか、最初俺にはわからなかった。


手を握るのを断ったことについての、お詫びだという。


ああ・・・


と言いながら、受け取ったものの


手を繋ぐのを断られた上に、さらに缶コーヒーまで奢られるという

なんとも情けない状況となった。


そして再び歩き出す。

「次どこ行こうか~」という話題に当然なったが


思考が3割ぐらい停止している俺は、この後どこかに行こうにもいいアイデアが全く思い浮かばなかったので


別の場所で日を改めて、なんとか次のデートの約束を取り付けようとした。


とっさに頭に浮かんだのは、横浜や台場。カップルがよく行く場所である。


それを提案してみたのだが・・・


「ちょっと洒落たお店があって海が見えるだけじゃん」

(正確な言葉は記憶に残っていないが、とにかく興味ないという感じ)


横浜も台場もダメ。一般的なデートスポットを提案したが


じゃあ一体どこに行けばいいんだ???


鎌倉はもう何度も行ったことがあるって言ってたしな~。


台場なら、大江戸温泉に行ってみようかと思っていたのに(彼女が浴衣とか好きそうだから)

旅行は 風情のある温泉街(伊香保とか)を考えていたがそれこそまだ早いと言われるだろう。


こちらが考えを巡らしていると、彼女は言った。


「ラブホとか言ったら怒るよ」

「言わねーよ」(怒)


二人の間に再び沈黙が流れる。


もう決定的だった。


そのどうしようもない気まずさを打破するだけの提案力を俺は持っていなかった


次の約束も取り付けられず、気まずい雰囲気のまま「さよなら」することとなった。

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