第6話 面接必勝法などない
私は散々転職をしたんですが、今まで面接を受けて受からなかったのは葬儀屋だけです。受かったけど行かなかったのはお茶屋さんと焼肉屋さん。お茶屋さんは、その頃丁度コンビニの店長になる話があったので、迷った末断ったのです。焼肉屋さんは、面接受けに行った際の担当者が明らかにカタギに見えなかったから怖かったので断りました。私は喫茶店の経験以来、ヤクザが怖いし嫌いなのです。
よく「面接で数十社断られた」とか見聞きするんですが、一体何でだろうと思うのです。求人って、常にあるじゃないですか。どこかには入れるのですよ、誰でも健康な限りは。
「行きたい職場がある」っていうのはいいのだけど、じゃあ例えば、かなり不愛想で声が小さすぎて聞き取れない感じの人が遊園地の面接に受かるのか。ふてぶてしい態度で警視庁の面接に行き、さらに面接中に冗談を言って帰ってきた人はその後不採用だったみたいです。これは、面接を受ける側に問題がある例ですね。
面接する側に問題があることも。例えばある役所の面接は、「犬の鳴きまねをしろ」というような圧迫面接があったらしく。なおかつ待合の場所が別に用意されている求職者がいたとかで、受かったのはその「特別枠」だけだったとか。一体何のための面接なのか分かんないですが、こういう事する会社はコネ面談だけやればいいと思う。
ところで、唯一断られた葬儀屋の面接の際、私は「だめだろうなあ」と思っていたのです。志望動機なんか無かったし、面接受けてる最中は目の前にいる女性の顔が気になってどうしようもなかったのです。何というか、今まで見たことも無いほどの陰気な雰囲気を感じて「ここは合わないなあ」などと、面接受けながら思っていたら、案の定不採用の通知で。
「やっぱりな」と納得し、その後すぐに古本屋へ面接に行こうとしたのです。そうしたらば知り合いから「私のお母さんがその店の店長だから頼んであげる」と言われ、「いいよ」と思わず断っていました。私はそいつが嫌いだったから。
何かこういう事が続く時期というのは、今から思えば焦っていましたね。稼がなきゃ来月どうしよう! 返済が! 自転車操業が! っていう焦燥(しょうそう)といら立ち。眠れないし怖いし寒いし。金が無くてギリギリで生活するって辛いです。本当に辛かった。追い込まれるといいアイディアなんか思い浮かばないし、坂を転がるように悪い状況に落ちるきがする。
そんな貧乏生活をしていてもたまに、更に貧乏な若者と立ち食いソバ食べながらお喋りする事があって。私の方が五歳上だったし、何となくこちらが奢りますわね。そうしたら、何でか家のお風呂の話になったのですよ。
貧友「家出る時、お風呂のスイッチ入れ忘れた。お母さんに怒られる」
私「え、スイッチって何」
貧友「え、スイッチやで」
私「お風呂って、スイッチ入れたら湧くの?」
貧友「そうやで」
私「うち、お風呂無いで知らんかった」
貧友「うそやん」
私「ホントや」
貧友「ウケる!」
私「六畳二間の長屋に五人住んでるんや。しかも風呂無し」
貧友「なんやそれー」
私「知らんがなこっちが聞きたいわ」
貧乏過ぎて心がささくれ立っていた私はその時、「もう二度とこいつには奢らない」と思ったのであります。狭い心!
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