第5話 病と仕事

 今回は、高校生の頃のアルバイト先で見た事を語ろうかなあという事で。


 私が通っていた高校では、学校の許可なくアルバイトをする事は禁止されていたんですが、じゃあ学校は小遣いをくれるのかって話で。何かとお金がかかるのが高校生活と言うものですよ。CD欲しい、漫画欲しい、カラオケ行きたい、高校生クイズに出たい。そんなわけで私は、一年生の夏休みに学校に届け出て初めてアルバイトをした後は、自分でお金を稼ぐ面白さを覚えて校則を無視し始めたのであります。


 一件目はラーメン店「スガキヤ」、二件目は定食屋(潰れてしまった)、三件目の職場は雑貨屋さんでした。「アロマブルーム」っていうんですが、文字通りアロマグッズが多く置いてあるお店で、入浴剤や石鹸、ポプリや日用品に囲まれて働くのは幸せだったのです。プレゼント用のラッピングをするのも面白かったです。有線放送は当時、イエローモンキーの「JAM」が流れていたりして、仕事に行ってるっていうよりは半分遊びに行ってるような感じ。まあ、高校生のバイトなので、そんなに怒られたりしなかったっていうのもあるんですが、高校時代のバイト先で嫌な目に遭ったのはラーメン屋と蕎麦屋くらいですかね。機嫌悪いベテランのオバちゃんが、湯切りの際に熱湯をまき散らしてきたりとか。


 で、そんな雑貨屋さんの従業員は、母親くらいの年代の女性と、物凄い美人の店長、そして十九歳の女性がいたんですね。私は年が近い十九歳の女性、仮にKさんととしますが……そのKさんとよく話したんですが、他の二人はKさんの事が気に入らないのでした。どういう事かと言うと、こんな感じだったのです。


「Kさんまたボーっとしてたよね」

「薬のせいだよ」

「変な薬飲んでるからね」


 私は二人の会話を聞きながら、一体何の事だろうと思っていたんですが、Kさんが泣きながらどこかに行ってしまったので、追いかけて行き、店の下の階にあるフードコートにKさんがいたので話しかけたのです。そうしたらば、精神安定剤のせいでボーっとするんだ、って言って泣くのです。何だか悲しくなって、Kさんにきつく当たる二人を嫌いになりました。

 まあ、今思えば二人がKさんにきつく当たるのも仕方が無いのです。Kさんがボーっとしている分、他の人は忙しくなるんだから。ただ、社会人未満の高校生からしたら、おばさんたちが若い人をいじめる光景はあんまり気分のいいものでは無かったのです。

 しばらくして、Kさんは仕事に来なくなり、そのうち、店そのものが無くなると電話で知らされた私は、そのまま解雇になったのでした。


 Kさんの事を思い出すにつけ、病気の人が働くというのは大変だと思うのです。頑張っていないのでなく、頑張っても体がついていかないのです。なので怒られると泣いてしまったりするのでしょう。そういうのを、甘えだ、としか思わない人は、いっぺん病気してみたらいいんじゃないのかなあ、と思います。きっと、少し考えが変わると思うから。

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