第4話 就職いろいろ

 前回のお話がちょっと怖かったので、今回はゆるい感じにしたいんですけどね。

 ところで社会人の皆さん、就職ってどうやってしましたか。学生の読者の場合だと、「就職活動」を思い浮かべると思うんですが。ニュースとかでよく見る、黒いスーツ着た学生がいっぱいいるような。たぶんあれは、大企業の光景なのですよ。世の中には色々な職場があり、スーツを着て面接に行く職場もあれば、スーツを着て面接に行ったらおかしい職場もあるのです。今回は、スーツを着て行かない職場の話をします。


 私がコープの総菜部門の社員だった頃、配送係の姉ちゃんが


「もっと給料いい仕事あるよ、○○ちゃんはまだ若いから社員になれるし、行ってみなよ、紹介するから」


 と言うので、転職することにしたのです。その頃私は、毎日毎日豚ロースを叩いてパン粉を付けたり親子丼を作ったりソースを煮たり玉ねぎの皮を剥いたりする事に飽きていたので、どっか違う所で働きたかったのです。十九歳の頃だったかなあ。同年代の社員が辞めてしまって、詰まんなくなっていたのもありました。職場には勤続年数何十年のベテランのオバちゃんしかいなくて、一日中AМラジオや演歌・歌謡曲が流れてて。油の臭いが毛根まで染み付いてた。まあ、若者が居つくような職場じゃ無かったんです。


 で、専務に「辞めます」って言ってから約ひと月後、私は弁当の工場にいました。工場は建て替えたばかりで、当時最新式の設備。コンビニの弁当などを作っていたので、新商品のベーグルとか「え、こんな風に作るの」と、物珍しく面白かったんですが……工場には、高校生から老人まで幅広い年代の人が働いていました。二十四時間操業なので、どの時間帯も募集していたのです。

 私が最初に配属されたのは「パスタ」。調理部門から運ばれてきたコンテナいっぱいのパスタを、決まった量だけトレーに入れ、ベルトコンベアで流す。ソース、トッピング、蓋、ラップ、ラベル、コンテナ詰め、運ぶ、って感じで、配送時間に間に合わせるためにリーダーは怒鳴る。「ちゃっちゃとやって!」「あんたあの人と変わって!」「間に合わない!」。トロいおばあさんが怒られている。

 こりゃあ大変だ、などと考えていると「ボーっとしないで!」と私も怒られる。しまいには「あんたこの仕事向いて無いよ」などと、ベテランパートのオバちゃんに言われる。就職して二日後だったかなあ。余ったパスタを皆でこっそり食べるのだけが楽しみだった。ちなみに工場では、余った食材は食べてはいけないのですが。


 そのうち「弁当に行って」と言われ、お弁当のラインやサンドイッチ、おにぎり、寿司、配送など色々回るうちに、何でも出来るようになったのです。その頃には「あんたこの仕事向いて無いよ」と言った人とも仲良くなっていました。まあ、こういう事はどの職場でもあるんだと思います。なので、就職したての方は早く仕事に慣れる事です。先輩というのは酷い事を言っても忘れてしまうものなのですから。


 ある日、職場に車を停めたところ、キーを取ったのにエンジンが止まんないという珍事が起きまして。そのうち車全体が震えて、下から油が流れ始め、エンジンから黒煙が上がったんですよ。「やべえ」と思って、父親に電話しました。


「おとん、職場で車が燃えてる」

「なんやってか!」

「どうしよう」


 そんな会話の後、上司に事情を説明する。


「すいません、車が燃えてるんで家に帰ります」

「おいちょっと待て!」


 私は家に帰り、職場の駐車場に嫌がる父親を連れて来て車を任せ、そして仕事場に行きました。


上司「お前どこ行ってた!」

私「家に帰ってました」

上司「何で!」

私「車が爆発しそうだったんですよ。あとは父に任せたんで大丈夫です」

上司「爆発?!」


 まあこんな感じで、その日は普通に仕事をして帰宅。車は廃車になりました。こんな事をやってるのにクビにならないダメ社員。呑気な時代だったのだろうと思います。


 ところで工場には「実習生」と呼ばれる人たちがいました。主に中国から来ていた彼らは、学生っぽい人もいれば中年もいました。何も知らない私は「学生なのに学校に行ってなさそうだよなあ」と思っていたんですが。その中の一人、「リーさん(仮名)」は、一日十六時間働いているとの事で、いつも飯炊き場にいました。

 リーさんの時給は五百円との事で、当時の田舎の最低時給六百五十円を下回っていました。その理由に関しては職場では「外国人だから」という事で認識されていましたが、まあ、おかしいのです。今から二十年前の話です。今、「外国人技能実習生」の待遇が問題になってるんですが、一体どういった仕組みでこうなっているのか、あの頃から改善されているのか。真面目に働いて、礼儀正しかった彼ら。仕事をサボって男子大学生のケツ見て触ろうとしてたババア(後に私はそいつと喧嘩)よりもよっぽど役に立っていたんですがね、実習生。工場は未払い分の賃金を要求されても仕方ないんじゃないかなあ、と今になって思うのです。

 


 

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