虚言癖
二一人
第1話
私は虚言癖を患っている。これは病気と変わらないもので、私の意思とは無関係に口が動いてしまうものです。
なんせ、嘘は良くない。私の中にはそんな考えが大前提としてあるというのに、それでもなお、口から出まかせとはタチが悪い。
しかし、そんな病気とも長く付き合えば、それなりの対処法というものもあります。それは、無意味な嘘を吐くことです。
この病気は、嘘を吐けばしばらく満足してくれますから、やれ、人の会話をよく聞きよく考えれば、それなりに無意味な嘘を吐くことは可能です。
というより、そういう技術を身につけることができます。はい。
しかし、時には意味のある嘘を吐いてしまうこともあります。例えば、友人が何か探し物をしている時です。
「アレ、どこにあるか知らない?」
突然ですが、私が虚言癖を患ったのには理由があります。それは、一言で語るというにはあまりにも複雑かつ、大きな理由ですが、敢えて一言で表すとするならば、これまでの人生経験からくる人間不信に違いありません。
人間不信。それは一体なんだ、と聞かれれば難しいことですが、大通りを歩いている時、歩行者に心の中で、こいつ邪魔だなぁ……と言われている気分になり、電車に乗っている時に、隣の人がいきなり襲ってくるのではないか?という疑問が尽きない、といったような状態のことでしょうか。
私は、そういう状態にあるわけでして、先ほどの友達からのなんの感情も入っていないような質問が、私にはなんだか責められているような気分になるのです。
ですから、焦って、口から出まかせを言ってしまうというのも、やはり嘘を言う理由の一つなわけで。
そういうことなので、私の質問の回答は、特に脳を回転する間も無く、ほぼ反射的にこう答えることになるのです。
「え? 知らない」
そう発言して後悔するのです。あ、実は失せ物の在り処、知ってるな、と。
しかし、今した発言を即撤回するというのも違和感の塊。何より、適当に答えてしまったことが相手に伝わってしまう。そうすると、自分がいい加減に生きている人間なのだと、思われてしまう。
そんなちっぽけな自尊心がその時、胸を食い荒らして体を止めるのです。そうして、次はこう言う。
「私も探すよ」
本当に救えない人間がいるとすれば、神様はどのようにその者を救おうとするのだろうか。
果たして、嘘というものは自分を苦しめる何かにしかならないもので。
私は、嘘というものは口から出て、そして上に昇り、己の肩に漬物石のようにのしかかり、積み重なっていくものではないかと思うのです。
私は、いつか自分が吐いた嘘に押し潰されてしまう、そんな自覚を抱きながら、日々生きているのです。
虚言癖 二一人 @tamatama114514
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます