アンナ特製魔法陣ノート

第20話 爆弾

 神殿から家に戻ってからというもの、私は完璧にのぼせ上がってしまった。

ただ、手を繋いだだけなのに⋯⋯。

しまいには、セイフィード様とキスしちゃう妄想なんかもしたりして、終始、頬がゆるみっぱなしだ。


 恋愛経験がない私は、この状況をどうすれば進展できるか、知りたい。

⋯⋯ググりたい。

[格差婚 どうすれば]とか、

[告白 方法]とか、

[好きな人 進展]とか、

ググりたーーーい。

この世界はもちろん、PCもインターネットもないから簡単には知識の取得はできない。

恋愛のハウツー本もない。

恋愛に対して、知識を深めるとすれば、人に聞くしかない。

私が恋愛相談できる人物は、シャーロットぐらいしかいないが、シャーロットも恋愛にうとそうだ。

前世で一回くらい恋愛してたら、違っていたんだろうな⋯⋯。


 そういえば、セイフィード様が、私の魔法陣ノートの中で実現できたら褒美が欲しいって言ってたけど、何がいいんだろう。

やっぱり、あれかな⋯⋯ケーキかな⋯⋯。


そして時を待たずに、私はチーズケーキを作り始めた。

鼻歌を歌いながら、ケーキを作っていると、シャーロットが話しかけてきた。


「まぁ、アンナ。もしかしてまた、セイフィード様のお屋敷に行くおつもり?」


「どうしてわかるの?」


「そんなニヤけた顔をして、お菓子作りしていらっしゃるんだもの、わかりますわよ」


「シャーロットの分も、ケーキ作るよ」


「ありがとう。ついでだとしても嬉しいわ」


「今回のケーキは、チーズケーキだよ!」


「ウフフ、アンナは神殿から帰ってきてからとてもご機嫌ね。でも、アンナ、忘れているようだけど5日後には舞踏会があるのよ、ダンスの練習をしなくてはダメよ」


 完璧に忘れた……。

ダンスなんて大の苦手だし。

忘れていたかった。

今回の舞踏会は2番目の王子が主催だとか。

どうやらコルベーナ侯爵は、シャーロットを第2王子に嫁がせたいらしい。

ただ、第2王子は、武闘派で野生的らしいし、将来は辺境の地を治めるはずだから、シャーロットの好みじゃなさそう。

それにしても、ダンスか……気が重い。

一挙に憂鬱ゆううつな気分になってしまった


「アンナは、ほんと思ったことが顔にでるわね。貴族としてはよろしくなくてよ。そうそう、その舞踏会、おそらくセイフィード様も出席なさるわ」


「わ、わたし、ダンス頑張る!」


⋯⋯もしかしたらセイフィード様にダンス誘われちゃうかも。

考えてたらドキドキしてきた。

ダンスの練習、頑張ろっと。


 話をしている間に、チーズケーキが出来上がり、私はドキドキ、ワクワクしながら、セイフィード様のお屋敷を訪れた。

もちろん、“アンナ特製魔法陣ノート” を持って。


「ご機嫌よう、セイフィード様」


相変わらず、セイフィード様は図書室にいる。

セイフィード様は、私の腕輪を一瞥いちべつすると、いつものように魔力付与してくれた。


「ありがとうございます」


私はいつものようにお礼を述べる。

そして私はすかさず、セイフィード様に “アンナ特製魔法陣ノート” を見せた。


「じゃじゃ~ん、アンナ特製魔法陣ノートです。神殿に行った時にお話したノートです。見てもらえますか?」


私は得意げに見せた。


「あぁ、見せてみろ」


「この魔法陣ノートは、私の6年間の研究成果です」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


暫くの間、セイフィード様は“アンナ特製魔法陣ノート”を見入っている。


「俺以外に誰か見せたか?」


なぜかセイフィード様は険しい表情をしている。

声もトゲトゲしい。


「いいえ、見せてません」


どうしたんだろ、セイフィード様⋯⋯。

私、変な魔法陣書いたかな~記憶を一生懸命辿たどっていた時、セイフィード様はあるページでじっと目を留めた。


「これは、なんだ!」


セイフィード様は怒鳴った。

ものすごく怒っている。


「あ、それは⋯⋯」


それは前世の知識の原子爆弾⋯⋯ウラン爆弾を基にした魔法陣だ。

しまった、つい出来心でなんとなしに書いてしまった魔法陣だ。

それも、普通の爆弾じゃなくウラン爆弾というとんでもない代物を⋯⋯。

化学者を目指す人なら誰でも一度は爆弾に興味を持つはずで、私もその一人だった。

そのため、私は、爆弾系の知識は一通りある。


「アンナは、これがどんなものか、わかって書いたようだな」


「その、あの、出来心でつい⋯⋯⋯⋯」


「これは、出来心で済まされるような魔法陣じゃない」


とセイフィード様は、言うや否や呪文を唱えた。


『アグルディート』


呪文を唱えると同時に、セイフィード様の手の中にあった、“アンナ特製魔法陣ノート” は燃えた。

赤い炎が“アンナ特製魔法陣ノート”を包み、一瞬で私のノートは灰になった⋯⋯。


「燃やすなんて⋯⋯⋯ひどい、いくらセイフィード様でも、ひどすぎます」


「いいか、これが他の誰かに見られたら、アンナは捕まっていたぞ。そればかりかコルベーナ家や、アンナの大好きなゾフィー兄様にも、みんなに迷惑かけることになったんだぞ」


セイフィード様は私の両手首を掴みながら叱責しっせきした。


「それに、こういう魔法陣ノートは、誰にも見られないようにする魔法をノートにかけておくものだ」


「わ、わたしは魔法を使えないんです、しょうがないじゃないですか!」


私は怒りで涙ぐみながら、セイフィード様に抗議した。


「だったら、もう魔法陣なんて勉強するな!」


「ひ、ひどい⋯⋯セイフィード様、言ってくれたじゃないですか⋯⋯、私の魔法陣実現してくれるって⋯、それなのに勉強するなって⋯⋯ノートを燃やしちゃうなんて、ひどいです⋯⋯」


私の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。


「⋯⋯⋯⋯アンナ」


流石さすがにセイフィード様は言い過ぎたと思ったのか、気まずそうに私を見つめ、私の涙をぬぐおうとした。

しかし、私はセイフィード様の手を払いのける。


「セイフィード様の、バカーーーっ!バカバカバカ!」


私は大きな声でわめき、セイフィード様の図書室を飛び出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る