第19話 紅茶

 ウー様が消えて、すぐにセイフィード様が私のいる部屋に戻ってきた。

手には紅茶のセットを持って。


「誰か来たか?」


 セイフィード様は、何かを感じ取ったらしく、私に尋ねた。


「ウー様がきました」


「アンナって、意外と凄いんだな」


 セイフィード様はビックリしてる。

そりゃそうだ。

わざわざ神さまが私に直接会いに来てくれたんだから。


「私に魔力がないことを、心配してくれたんだと思います。御守りも頂きました」


 セイフィード様にウー様から頂いたビー玉のような石を見せた。

セイフィード様は無言で、その石を見る。


「どんな、お守りかわかりますか? ウー様、その石について詳しく教えてくれませんでした」


「俺も、わからない」


 セイフィード様は、お守りの石を私に返してくれた。


「私、ウー様に魔力を授けてくれるように、お願いしたんです。でも、ウー様でも無理でした⋯⋯」


「そうか」


 セイフィード様は、熱い紅茶をカップに注ぎ、私に手渡してくれた。


「ありがとうございます。わぁ、セイロンティーだ。私、これ好きです」


 熱い紅茶が、身体の中に行き渡り、私はほっとし、気が緩む。


「あ~ぁ、もし、ウー様に魔力を授けて貰ったら、色々と変わっていたんだろうなぁ~」


「アンナは、変わらなくていい」


セイフィード様は、そうつぶやきながら、ソファーに座っている私の隣に腰掛け、真剣な眼差しを私に向けた。


「⋯⋯でも、セイフィード様は変わってしまう」


気が緩んだ私は、感情のふたも緩み、思っていることが口かられ出る。


「どう変わるんだ?」


セイフィード様は少しムッとしてしまった。


「それは⋯⋯」


 セイフィード様が、私じゃない誰かと結婚したら、私なんて見捨てるでしょ、なんて言えるわけがない。


「なんだ?」


 セイフィード様は、じっと私を見つめてる。


「それは……、私はいつもセイフィード様に迷惑かけてばっかりだから、そのうち私のことをうとましく思もって、放り出しますよ」


 こんな、ひねくれたこと私は言いたくないのに。

セイフィード様のこと大好きだから、ずっと私の側にいて欲しい、セイフィード様には変わらないで欲しいって素直に言えれば、どんなにいいだろう。


「残念だが、もう放り出せないな、アンナは重すぎて無理だ」


セイフィード様は悪戯ぽく笑う。


「そんなに、さっき重かったですか?」


私は、セイフィード様の笑顔を見た瞬間、さっきまでのジメジメした感情が消え、気分が明るくなった。


「あぁ、重い」


セイフィード様は即答した。


「ダイエットします⋯⋯」


 確かに、この頃お菓子を食べすぎたかも⋯⋯。

運動も嫌いだから、食生活から見直さないと。


「だから、アンナは変わらなくていいんだ」


 セイフィード様は私の頭をでてくれる。

セイフィード様って、本当に優しいな⋯⋯。

でも、変わらなくていいってことは、太っても駄目なんだよね。

太ったら、セイフィード様に何言われるかわからない。

物凄く、からかわれそう。


「そろそろ、帰り支度するぞ、アンナ。後ろ向け」


 セイフィード様は、私の肩に掛けてあったジャケットを取りながら指図さしずした。

貴族の女性の服は一人で着られないものばかりだ。

今、私が着ているドレスも、もちろん一人では着られない。

私のドレスを着直すためには、セイフィード様に手伝ってもらうしかない。

私は、素直に後ろを向いた。


 セイフィード様がコルセットの穴に緩んだ紐を通し、組み上げていく。

その際、セイフィード様の指先が、私の背中に触れ、くすぐったくて、肌がビクビクしてしまう。

恥ずかしい。

とても、恥ずかしい。

身体が火照っている。

最後にセイフィード様がコルセットの紐を結び終え、フゥーっと一息ついたとき、その息が私の首筋に当たった。

その拍子に、私は思っ切りビクついてしまった。

きっとセイフィード様にも、わかってしまったはず


 すると、セイフィード様は後ろから、私の肩に頭を乗せ、私を優しく抱きしめた。

その時、セイフィード様の髪の毛が、私の首や頬をかすめる。

くすぐったい、セイフィード様の髪が、猫じゃらしのように、私の首や頬に触れて、くすぐったいよ。

でも、くすぐったいけど気持ちがいい。

セイフィード様の腕の温もりも、暖かくて、なんて心地がいいんだろう。

ずっと包まれていたい。

私が、幸せにひたっていると、セイフィード様のこれまた心地よい声が、私の耳にひびく。


「俺が、アンナの代わりに魔法を使ってやるから、お前は魔力がなくても、いいんだ。」


 セイフィード様は、私を強く抱きしめた。


 その後、私はまるで着せ替え人形のようにセイフィード様にドレスを着なおしてもらう。

その間、私の頭はすっかり茹で上がり、ボーッとしていて、私は一言も話せなかった。

そして、天界の神殿から人間界まで戻る際、私はセイフィード様に手を引かれながら無言で歩いた。

帰りの馬車に乗った時、ようやく私の頭が動き始めた。


「あの、今日はありがとうございました。なんだかんだでウー様にも、会えて嬉しかったです」


「あぁ」


 セイフィード様は私を見ずに馬車から景色を眺めている。

しかし、隣に座ったセイフィード様と私は、手を握ったままだ。

嬉しい、ドキドキする。


「さっき、私の代わりに魔法を使ってくれるって言ってくれましたよね?」


「あぁ、言った」


「私、魔方陣学を習い始めて、自分なりに色々な魔方陣を書いてみたんです。その書いたノートを今度、見てもらえますか? その中で実現できそうな魔法があったらセイフィード様に実現して欲しいです」


「あぁ、わかった。でも実現できたら今度は俺が褒美を貰うぞ」


そう言うと、セイフィード様は熱のこもった視線を私に向けた。

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