第14話 妖精
「クククっ。最高だな」
ルシウスは、私の声が出ないことがわかると、不気味に笑った。
そして私が恐怖に怯えていると、私の首筋に、ルシウスの唇が
気持ちが悪い。
……怖い。
嫌だ、もう嫌だ。
誰か……、誰か……、セイフィード様、助けて!
その時、どこからともなく突風が吹く。
ルシウスは、急に慌てて立ち上がり、あちこち視線を動かした。
「チッ」
ルシウスが悪態を
腕輪は光を失い、バラバラに壊れてしまった。
私の大事な腕輪が壊れてしまった。
悔しくて、悲しくて、私の目から涙が、こぼれ落ちる。
「このこと、誰かに言ったらタダじゃ済まないぞ」
ルシウスは、私を脅すと、倉庫から出て、どこかに行ってしまった。
ルシウスが居なくなっても、不思議と、私の周りには風が舞っている。
私はゆっくり立ち上がり、壊れてしまった腕輪を拾う。
その壊れた腕輪を持ち、出口に向かったが、扉を開けることができなかった。
閉じ込められてしまった。
声も出せないので、助けも呼べない。
この倉庫には、
絶望的な状況に、恐怖し、私は全身の力が抜け座り込んでしまった。
どうしよう……。
どうしよう……。
ここから出る方法を考えなきゃいけないのに、何も思いつかない。
ただ、涙だけが、冷たい雨のように、とめどなく
しばらくすると、私の周りに吹いていた風が止み、足音が聞こえきた。
誰かが来る。
また、ルシウスが戻ってきたのかもしれない。
私は隠れようとしたが、うまく体の力が入らなかった。
そして、足音は倉庫の前で止まり、扉が開く。
開かれた扉の先には、セイフィード様がいた。
泣き腫らした私を見ると、すぐにセイフィード様が駆け寄って来てくれた。
「アンナ、どうした? 何があった?」
私は声が出せないので首を横に振り、手で喉を指す。
「魔法かっ。くそ」
セイフィード様は私の喉を手で優しく触り、目を閉じた。
そしてすぐに呪文を唱える。
『ソール・ビ・セーパー』
一瞬、私の喉がほのかに暖かくなった。
「アンナ、どうだ。声出せるか?」
「っ、セイフィードさま。うっ、うっ、うでわが、うでわが……」
私は、涙を流しながら、壊れた腕輪をセイフィード様に見せる。
セイフィード様は私の涙を拭い、優しく私を抱きしめてくれた。
「大丈夫だ、大丈夫だから。腕輪はまた俺がつくってやる」
「ご、ごめんなさい。わ、わたし、また迷惑かけて、ごめんなさいっ」
「迷惑だと思っていない。だから、アンナ、もう大丈夫だから⋯⋯、泣くな」
セイフィード様が、今度は強く私を抱きしめてくれた。
セイフィード様の鼓動が聞こえる。
「それで、誰にやられた?」
「…………」
私は首を横に振った。
言えない。
言ったらまた、ルシウスと関わることになる。
もう、これ以上、ルシウスと関わり合いたくない。
「アンナ、なぜ、言わないんだ。ジークか?」
「ち、ちがう。ジークさんじゃない」
「⋯⋯まぁ、いい。いずれ、すぐにわかる」
セイフィード様の声は、怒りに震えている。
私に対して怒っているわけじゃないのに、私の目から、また涙が溢れでる。
泣きたくないのに⋯⋯。
もう、大丈夫ですって言いたいのに⋯⋯。
「ゴーーン、ゴーーン」
終業時間を知らせる鐘が鳴り響く。
どれくらい時間が経ったのだろう⋯⋯。
私は、セイフィード様の腕の中で、だいぶ泣きついてしまった。
しかしその間、セイフィード様は、頭を撫でながら、赤ちゃんをあやすように私を、なだめてくれた。
「……も、もう大丈夫です。早く帰らなきゃ、シャーロットが心配しちゃう」
私は1人で立ち上がろうとしたが、力が上手く入らず、立ち上がれない。
すると、セイフィード様がやさしく私の腕を支え、立ち上がらせてくれた。
「セイフィード様、お願いです。ここであったこと、シャーロットや、コルベーナ家の人々には内緒にしてください」
「⋯⋯わかった」
「私が間違えて腕輪を壊してしまったことにします」
「わかった。腕輪はなるべく早く作ってやるから安心しろ」
「セイフィード様、ありがとうございます」
「さあ、帰るぞ」
「あの……、扉を出たら、私1人で帰ります」
「なぜだ? 俺と一緒なのが嫌なのか?」
「違います。前、セイフィード様が言ったじゃないですか。魔力なしと一緒にいるのは恥ずかしいって……」
「あれは……、違うんだ。いいから一緒に帰るぞ」
私とセイフィード様は馬車に乗り、家路を急いぐ。
ようやく家に帰れる。
一時、もう帰れないかと絶望したけど⋯⋯。
良かった。
セイフィード様が助けに来てくれて、本当に良かった。
ようやく私は落ち着きを取り戻したので、笑顔で、セイフィード様に話しかけた。
「あの、セイフィード様。どうして私が倉庫にいることがわかったんですか?」
「あぁ、俺にまとわりついている闇の精霊ストラス3号が教えてくれた。昔、お前にくっついて行ったやつだ」
「ストラス3号さん、ありがとうございました」
私はストラス3号が、どこにいるかわからなかったがセイフィード様の方に向かってお辞儀をした。
「ストラス3号は、今お前の肩に乗っている。どうやらストラス3号はお前のこと気に入っているようだ」
「わぁ~。嬉しい! 闇の精霊に好かれちゃうなんて、素敵」
私は肩に乗っているというストラス3号を、撫でる真似をしてみる。
見えないから、勘で。
「フンっ、アンナ、ほんとお前ぐらいだ。闇の精霊に好かれて喜んでいるやつは。ちなみにストラス3号は今アンナが撫でている肩じゃなく、反対側にいる。」
セイフィード様は目を細め、優しく笑う。
私は指摘されたのが恥ずかしくて、撫でるのをやめた。
そして一番聞きたかったことを、勇気を出して聞いてみる。
「それと、さっき……、すぐわかるって言ってましたけど、何がわかるんですか?」
「それは、気にするな」
とセイフィード様は言うと、そっぽを向いてしまった。
どうやら、これ以上訊いても答えてくれそうにない。
話に夢中になっていると馬車が家に着き、セイフィード様は家の玄関まで私を送ってくれた。
そして私は、転んで腕輪を壊してしまい、そのせいで大泣きしたと、コルベーナ家のみんなに説明した。
「まぁ、大変だったわね。怪我はしてないのかしら?」
シャーロットが心配そうに私の腕を見る。
「うん、大丈夫。腕輪もセイフィード様が作り直してくれるって」
「そう、それなら良かったわ。では、気を取り直して、これからアンナの特別賞のお祝いを致しましょう。アンナの好きなメニューばかりなのよ」
シャーロットは私のために色々と準備をしてくれていた。
優勝じゃなく、特別賞だったけど、私は初めて賞が取れて良かったと思った。
しかし、その夜はなかなか寝付けなかった。
何度も何度もルシウスのことを忘れようとしているのに、ルシウスのあの感触が私にまとわりつく。
その感触に怯え、涙が瞼を濡らし始めた時、窓を叩く音が聞こえた。
窓を見ると妖精がいる。
妖精は大人より子供を好むため、私はここ最近、妖精を見てなかった。
「こんにちわ。妖精さん」
私は窓の戸を開け、妖精を部屋に招き入れた。
すると、妖精は飛び回りながら小さな星のかけらのようなものを部屋中に、ばら
それは、夜空の星のように
「わぁ、キレイ。ありがとう」
私は妖精にお礼をいうと、妖精は手を振りながらすぐに外に出て行ってしまった。
きっとセイフィード様が私を気遣ってくれたに違いない。
その優しさに、私は心がぽっと温まる。
そして、私はその星の瞬きを見ながら、無心で眠りにつくことができた。
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