第15話 鉱石

 私の腕輪が壊れて数日後に、セイフィード様から、新しい腕輪が完成したので取りに来るようにと連絡が来た。


 私は急いで、セイフィード様のお屋敷に向かう。

お礼のケーキを持って。

このケーキは、もちろん、私が手作りした。

私が、6年前にケーキを作った時、コルベーナ家の人が、私のケーキ作りの実力を認めてくれ、私がケーキを作ることを許してくれている。

それから、私は、暇を見つけては、ケーキ作りをしていた。

そして、今回、手作りしたのは、コルベーナ家全員に好評のチョコレートケーキ。

本当は1人で全て作りたかったけど、私の腕輪がなかったので、メイドさんにお手伝いしてもらった。

ほんと、腕輪がないと、私は、何もできなくなる。


「ご機嫌よう。セイフィード様」


今回は、いつもの図書室ではなく、庭園にあるガゼボに案内される。

ガゼボは日本のあずま屋だ。

セイフィード様のお屋敷にあるガゼボは白く、屋根が円形で、柱が5本ある。

その柱は全て大理石だ。

とても高級そうなガゼボ⋯⋯、そのガゼボに佇むセイフィード様は今日もカッコイイ。


「あぁ。ほら、新しい腕輪だ、つけてやるよ」


セイフィード様は、私の手を取り、新しい腕輪をつけてくれた。

新しい腕輪は前回と同じく銀色で、美しい。

でも、以前と違い何か光っている。

よく見てみると、鉱石が埋め込まれていた。

ダイヤモンドだ。


「こ、これってダイヤモンドだ」


「そうだな」


「こんな高価なもの⋯⋯、頂いちゃっていいんでしょうか」


ダメと言われても、もう手放す気はないが、一応、私は訊いてみる。


「アンナが持ってきたケーキと、交換でいいさ」


「嬉しいです。ありがとうございます」


私はその腕輪を太陽の光に当て、反射するきらめきを見て楽しんだ。

キラキラ輝いて素敵。

ダイヤモンドのきらめきって永遠なんだよね⋯⋯、永遠の愛⋯⋯、きゃー、なんか照れる。


「アンナ、早く食べるぞ」


セイフィード様は、私がなかなかケーキを取り分けないので、業を煮やしたようだ。


「はい。お茶もいれますね」


ダージリンだろうか、香りがさわやかに香る。

紅茶を一口飲むと、紅茶の暖かさが、私の心まで温める。

幸せ⋯⋯。

セイフィード様と、ゆっくりお茶をいただけるなんて、本当に幸せだ。

チョコレートケーキも、セイフィード様の口にあったようで一瞬のうちになくなった。

嬉しい。

自然と顔がほころぶ。


また、セイフィード様のお屋敷で使われている食器は全て、白地に、美しい青色の藤の花が描かれている。

とても上品で高価そう。

私まで上品になった気分だ。


「もう⋯⋯、大丈夫そうだな」


セイフィード様はつぶやいた。


「あっ、あの時は、助けて頂いて、ありがとうございました」


一瞬、ルシウスのことを思い出してしまい、笑顔がこわばるのを感じる。


「そうでもないようだな⋯⋯。で、特別賞だって。褒美欲しいんだろ。アンナの作った魔法陣見せてみろよ」


「⋯⋯優勝は、できなかったんですけど」


「褒美いるの?いらないの?」


「いります!」


私がいつも持ち歩いている “アンナ特製魔法陣ノート” にはさんである “クーラー・魔法陣” が書かれた用紙をセイフィード様に渡した。

やった!特別賞だったけど、セイフィード様はクーラーを実現してくれそう。

期待に胸がふくらむ。


「⋯⋯⋯⋯これ、俺の他に誰かに見せたか?」


“クーラー・魔法陣”を見せた途端、なぜかセイフィード様の機嫌が悪くなった。

なんとなく雲行きが怪しくなってきた。


「えっ、えっーと、コンテスト審査員とか?」


ジークさんにも見せたけど、言ったらなんとくセイフィード様の機嫌が、さらに悪くなりそうだから言いたくない。


「そんなのわかっている。審査員の他だ!」


セイフィード様はプチ切れだ。

そりゃそうだよね。


「え、別に見せてませんよ⋯⋯」


私はセイフィード様を直視できない。


「アンナ、お前は嘘つくの下手だから、嘘つくな」


「⋯⋯ジークさんに見せました」


私は小さい声で、正直に答えた。


「やっぱりな。いいか、今後、あいつには近づくな」


セイフィード様は怒ってしまった。

でも、なぜそんなにセイフィード様はジークさんのことが嫌いなんだろう。

以前、セイフィード様が魔法陣学の授業を受けた時、何かあったのだろうか。


「⋯⋯でも、」


「でもじゃない。いいか、アンナは俺の奴隷なんだから言うことを聞け。わかったか」


「⋯⋯⋯⋯はい。わかりました、セイフィード様」


はぁ、セイフィード様と私の仲もだいぶ改善されたと思ったのに、また奴隷に転落してしまった。

でも、奴隷っていう言葉の響きに、ときめいてしまう私って、やっぱりMだわ。


「それで、あの、私の魔法陣、実現して頂けるんでしょうか?」


私は勇気をだして、機嫌の悪いセイフィード様に訊いた。


「これ、外でやっても意味ないんじゃないか」


そりゃそうだ。

クーラーを外で稼働しても無意味だ。


「はい。出来れば図書室で実現して欲しいです」


「⋯⋯わかった。移動するぞ」


セイフィード様が言った瞬間、ガゼボが光り輝き、図書室にワープした。


「すっ、すごーい」


私はワープしたことが嬉しくって子供のように飛び跳ねてしまった。


「そんなに、喜ぶことか⋯⋯」


セイフィード様は少し呆れながらも、笑顔だ。

しばらくの間、セイフィード様は”クーラー・魔法陣“を凝視すると、その用紙を床に置いた。


「アンナ、ちょっと離れろ」


とセイフィード様が言うと私に向かって呪文を唱えた。


『プロテイヤ・プロテイヤ・集え・光の精霊』


どうやら、私にバリアみたいな魔法をほどこしてくれたらしい。


「念のためだ」


きっと魔法が失敗した時のことを思って施してくれたに違いない。

やっぱり、セイフィード様って何だかんだ言っても、優しい。


「あの、私の魔法陣、実現不可能だ、みたいなこと言われたんですけど、やっぱり難しいですか?」


「あぁ、そうだな。風と水の精霊を召喚して、なおかつ融合させるからな」


普通の人だと、1種類の精霊しか召喚できない。

また、精霊同士を融合するには強い魔力が必要だ。

もともと、私はセイフィード様に実現してもらおうと目論もくろんでいたので、難易度は全く考えずに作ってしまった。


セイフィード様は、”クーラー・魔法陣“が書かれた用紙に手を置き、呪文を唱えた。


『コリジェンス・ウ・テイミー・コリジェンス・ウ・テイミー・我の力となれ・我に従え・精霊よ』


すると私が書いた”クーラー・魔法陣“は光を帯び、用紙から魔法陣だけが浮かび上がる。

その魔法陣は風を吸い込みながら3倍くらいの大きさになった。

そして、魔法陣の光が消えると同時に、床にその魔法陣は焦げ跡のように刻み込まれた。

暫くすると、涼しく心地よい風がその魔法陣から吹き出してきた。


「成功したな」


とセイフィード様は言うと、私にかけていたバリアの魔法も解いた。


「わぁー、ありがとうございます! うれしぃ。とーっても嬉しいです」


私はセイフィード様が施した“クーラー・魔法陣”の上に立ってみた。

私の周りを、風がふわっとそよげばいいなと思いながら。

しかし、私の思いに反して、突如強風が発生し、私のスカートが思っ切りたくし上げられた。

まるで傘が強風で反り返った時と同じように。


「きゃーーーースカートが、スカートが」


スカートがめくれ過ぎて視界が塞がれる。

私は、スカートをなんとか下ろそうとするが、強風すぎて全く下がらない。


「バカアンナ、何してるんだ!」


セイフィード様が怒鳴った。

そしてすぐにセイフィード様は“クーラー・魔法陣”の魔法を停止させた。


「うぅ、ごめんなさい」


「もう、この魔法陣は発動させない」


セイフィード様は、そっぽを向きながら言う。

気のせいか、少し耳が赤い。


「えぇ! それだけは許してください。お願いします。夏に、真夏に必要なんです!」


「⋯⋯2度目はないぞ」


 それにしても、セイフィード様だって私の手をわざと触って、からかったりするのに、スカートがちょっとめくれたくらいで、こんなに怒るなんて理不尽だ。

まぁ、スカートはちょっとじゃなく、かなりめくれちゃったけど。


「ありがとうございます。私、そろそろ帰ります」


「あぁ」


セイフィード様はいつものように返事をする。


「では、失礼します。セイフィード様」


「次は15日に来い」


「え、あ⋯⋯、はい。もしかして、ウー様の誕生日ですよね」


「あぁ、神殿に連れてってやる」


神々の誕生日は毎月あり、その日は大勢の人で賑わう。

しかし、あまりに人が集まりすぎるため、抽選になっている。


「わぁー、すごい。抽選が当たったんですか。ウー様の誕生日に神殿に行けるなんて、嬉しいです。ありがとうございます」


 嬉しい、嬉しすぎる。

それに、もしかして2人きりかな。

ドキドキしてきた。



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