第13話 結果

 魔法陣コンテストの応募締め切りから1ヶ月後の今日、学校のメイン広場で結果発表が行われる。

応募者は全員で27名。

その中から、優勝1名、特別賞1名、努力賞1名が選ばれる。

優勝すればトロフィーと鉱石が貰える。

私はシャーロットとともに、今か今かと結果発表を待っている。


 私は神様に祈りながら待つ。

ウー様お願い、私を優勝させて。

もし優勝させてくれたら、いっぱい供物捧げるから!

と一生懸命お願いしながら私は待った。


 その時はきた。

校長先生が壇上に上がる。

結果が書かれた用紙を手に持ち、眼鏡を掛け、広場に集まった生徒を見渡す。


「コホンっ。今回のコンテスト優勝者は⋯⋯、残念ながらいません」


 ガーーーーン。

私の頭の中に鐘がついたように、

ガーンガーーンガーーーンと鳴り響いた。


「駄目だった⋯⋯。シャーロット、駄目だったよ」


「でも、まだ他の賞がありますわよ。最後まで聞いてみないことにはわかりませんわ」


シャーロットはなぐさめてくれたけど、私は優勝しか眼中になかった。


「次に特別賞ですが、アンナ・フェ・シーラス。おめでとう。さぁ、壇上に上がって」


 満面の笑みをした校長が、私を手招きした。

シャーロットも大喜びして拍手している。

でも特別賞じゃ、駄目なんだ。

特別賞じゃ、セイフィード様にクーラーを実現してもらえない。

私は悲しみを抑えて壇上に上がる。


「最後に、努力賞はルシウス・ド・ヴェルジーナ。おめでとう。さぁ、壇上に」


 げげ、私の嫌いなルシウスだ。

ルシウスは私をにらみ、苛立ちながら壇上に上がった。

ルシウスも相当、私のことが嫌いなようだ。


 今までルシウスと2回もトラブルを起こしている。

なので、もうルシウスとトラブルはごめんだ。

一刻も早く、ルシウスの側から離れたい。


 そんな険悪な2人なので、壇上はなんとも重苦しい雰囲気だ。

私は一生懸命、笑顔を作ろうと努力しているのに、ルシウスはニコリともしない。

でも、気持ちはわかる。

悔しいよね。

なにせ、ルシウスの努力賞より、私の特別賞の方が上なのだから。

でもでも、私だって悔しい。


「アンナ、特別賞おめでとう。とても画期的な魔法陣だったよ。ただ画期的すぎてこの魔法陣を実現できるものは、そうはいないだろう。多くの人が発動できる魔法陣を作成できたならば、次こそは優勝できるはずだ。これからも精進したまえ」


校長先生は私の魔法陣についての評価、感想を述べた。

⋯⋯そっか。

私は魔法使えないからよくわからないけど、私の魔法陣って実現が難しかったんだ。

魔法もなんとなくお菓子作りと似ているのかな。

作るのが難しいシュークリームは、レシピや作り方が分かっていても、いざ作ってみると大半の人が失敗しちゃう。

魔法もそうなんだな。

でも、その感覚って、魔法が使えない私には一生取得できない。

なんだか物凄く落ち込んできたが、気を取り戻し、精一杯の笑顔を作りながら私は応えた。


「ありがとうございます。これからも頑張ります」


「それで、特別賞の景品は、この杖だ。この杖には古老の精霊が眠っていると言われる。丁重に使いなさい」


 校長先生は有難そうに杖を持ち、私に授与してくれた。


「ありがとうございます」


 と私は答えたが⋯⋯、杖って、私、使えないし。

もし使えたとしても、古老の精霊でなおかつ眠っているって、役に立つのか大いに疑問だ。

また、たとえ古老の精霊が目覚めたとしても、私には見えない。

それに、この杖、見栄えがまったく良くない。

150センチほどある長い杖で、海とかに打ち上げられていそうな流木みたいだ。

もう、この景品、本当にいらない。

とりあえず私は、見栄えしない杖を持ち、壇上から降りようとすると、遠くの木陰にセイフィード様がいるのが見えた。


 セイフィード様は腕組みしながら木に寄りかかっている。

セイフィード様は私と目が合うと、どこかに行ってしまった。


 校長先生が咳払いをし、今度はルシウスの魔法陣について評価と感想を述べる。


「次は努力賞。ルシウス、おめでとう。君のは逆に誰でも実現できる点が良かった。次は何かきらめきを感じられるような魔法陣を作れると素晴らしい。応援してるよ。それと賞品はフェニックスの羽根で作られた羽根ペンだ」


 なんだか、ルシウスが不憫ふびんに思えてきた。

煌めきって平凡のルシウスが1番追い求めているものじゃないかな。

でも、フェニックスの羽根ペンなんて素敵。

この杖と交換して欲しいわ。


 結果発表が終わり、私とシャーロットが帰ろうとした時、魔方陣学の助手のジークさんが、広場に現れた。

どうやらジークさんは結果発表会場の後片付けをするようだ。


「シャーロット、悪いけど先に帰っていて。私、ジークさんに結果報告してくる」


「わかりましたわ、アンナ。先に帰って、お祝いの準備をしていますわね」


「ありがとう、シャーロット。なるべく早く帰るね」


 ジークさんは1人で後片付けをしていた。

流石に1人では大変そうだ。


「ジークさん、ご機嫌よう。コンテストの結果ですが特別賞でした。優勝狙っていたんですが、ダメでした」


「こんにちは、アンナさん。特別賞でも充分凄いですよ。おめでとうございます」


「ありがとうございます。でも私の魔法陣、実現不可能のようです」


「そうですか⋯⋯。よければ私に、アンナさんが応募した魔法陣を見せていただけますか?」


「はい。もちろんです」


 私は “クーラー・魔方陣” が書かれた用紙をジークさんに渡した。


「これは⋯⋯。見事です」


ジークさんは私が書いた “クーラー・魔方陣” を真剣に見ている。


「ジークさんにそう言って貰えて嬉しいです。それで、もしよろしければ私も、お片付けのお手伝いします」


「そう、それは有難いです。では、申し訳ないけど、あそこにある箱を本館地下倉庫に運んで頂けますか。それが終わったら帰宅して大丈夫です」


「はい。わかりました」


 私はそんなに重くない箱を持ち、本館に向かう。

本館地下倉庫には誰もいなかった。

まぁ、大抵誰もいない。

なぜなら年1、2回しか使用しないような行事用の道具しか置いてないからだ。

それにしても、ほこり臭い。

早く出ようと思った時、私が入ってきた扉が開いた。

振り向くと、ルシウスがいた。


 私は警戒しつつ、ルシウスの機嫌を損ねないように丁寧にお辞儀をした。


「ご機嫌よう。ルシウス様」


「ふんっ。なんでお前が特別賞なんだ」


ルシウスは怒りに満ちた目で私を見る。


「……努力が認められたんだと思います」


私が何を言ってもルシウスの怒りは、おさまりそうもない。

どうすればいいんだろう。

シャーロットもセイフィード様もよく考えて、物を言えと言っていたけど、何も浮かばない。


「ふざけるな、何が努力だ。魔法使えないくせに。お前じゃなく、あの闇付きが作ったんじゃないか? あの魔法長官の息子が」


「違います! あの魔法陣は私が1人で作成しました……。それに、もしセイフィード様が作った魔法陣なら優勝してました」


「優勝……ほんと、お前は俺を苛つかせるな」


ルシウスは私に一歩近づき、私を睨みつけた。


「だったらもう、私に構わないでください」


私は怖くなり急いで出口へ向かおうとした時、ルシウスに手を思っ切り掴まれた。


「痛い!離してください」


 私は精一杯、手を振りほどこうとしたが、ルシウスの握力には全く敵わない。

それどころか、手を思っ切り引き寄せられ、腰も捕まれ、完全に身動きができない状態になった。


「ははっ。ほら、前みたいに俺を押し倒したらどうだ。できるわけないか、お前は女だもんな」


「いい加減にしてっ」


 私は全身の力を使ってルシウスの体から離れようとしたが、全くビクともせず、反対に私は押し倒され馬乗りにされた。


「どいて⋯⋯、お願いだから離して!」


私は恐怖を感じ声が震える。


「俺が怖いか、いいザマだな」


ルシウスは片手で、私の両頬を強く掴み、自分の顔に引き寄せる。


「ううっ、もう離して⋯⋯」


私は声が震え、涙が頬を伝わる。


「はは、いいね。お前のその怯えた顔、じゃあもっといいことしてやるよ」


 ルシウスが私の耳元でささやく。

そしてルシウスの気持ち悪い手が、私の胸へとう。


「イ、イヤダ、やめてっ」


「チっ、うるさいな。 『シ・ジューム・デアボリ』 」


 ルシウスが、突如、呪文を唱えた。

すると、私の声が出なくなった。

声が出せなくなり、助けも呼べなくなる。

怖い⋯⋯、いやだ、こんなの。

誰か⋯⋯、助けて!

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