魔法陣コンテスト

第12話 褒美

 15歳になった私は、今日もセイフィード様の図書室にいる。


「あの、セイフィード様、この本を開いて欲しいです」


 私がセイフィード様に差し出した本は“、魔法陣学における精霊の特殊な作用”

魔法陣学の勉強が進むにつれて、私が開くことのできる本はほとんどなくなっている。

そのため、私は本を開いてもらう名目で、腕輪の魔力付与関係なしに、図書室に出入りしている。

本当はセイフィード様に会いたいからだけど。


「⋯⋯」


セイフィード様は無言でその本を開いてくれた。

セイフィード様が近くにいないとその本も閉じてしまうため、私とセイフィード様は常に並んで勉強していた。

その勉強中に、私はセイフィード様を、ついつい、チラ見してしまう。

17歳になったセイフィード様は、美少年からイケメンに変貌し、相変わらず影がある雰囲気をまとっていて、それが妙に色っぽい。

また成長とともに体つきが男らしく、筋肉質になってきていて、身長だってもう180センチ近くある。

声も低くセクシーで、首回りとか、手とか、男性フェロモンを感じる。

目は憂いを帯びていて、女心をくすぐる。

ほんと、見惚れちゃう。


「おい、アンナ」


「はっ、はい」


私はセイフィード様との妄想にふけっていたら突然、声をかけられてビックリしてしまった。


「話、聞いてなかったろ。アホズラしてるぞ。で、アンナ、この頃いやに魔法陣の勉強に熱心だな。何たくらんでいるんだ?」


「もともと、魔法陣の勉強は熱心ですよ。な、何も企んでません」


実は近々、宮廷学校主催の魔法陣コンテストがあり、その応募をするために私は熱心に勉強している。

そのことは、セイフィード様には絶対に内緒だ。

なぜなら、自分一人で魔法陣を作ってみたいし、自分の実力を知りたいからだ。

セイフィード様は、意外に優しいから助言とかくれちゃうかもしれない。

またセイフィード様は天才だから、ただの助言レベルではなく、そのもののひらめき、本質を言ってしまうかもしれない。

なので、絶対に秘密なのだ。


「また、へんなことやらかすなよ」


「しませんよ⋯⋯」


実は、私はクーラー(前世の日本の夏に大活躍するエアコンのクーラーである)の機能を構成している魔法陣を作りたい。

もし魔法陣コンテストでその “クーラー・魔法陣” が優勝したら、ご褒美をセイフィード様から、ねだるつもりだ。

そのご褒美とは、その “クーラー・魔法陣” をもとに、セイフィード様の魔法でクーラーを実現してもらうことだ。

それが実現できたらこの図書室もかなり快適になるはず。

なぜなら、この世界の夏は前世同様暑い。

私は暑いのが大の苦手だ。

暑いと勉強できないし、それに貴族の服は基本、暑い。


 魔法陣の勉強に夢中になっていたら鐘がなった。

もう、そろそろ帰る時間である。

私はいつもI時間程勉強してから、帰宅するようにしている。

ほんとはもっと一緒にいたいけど、うざがられても嫌なので渋々帰宅する。


「そろそろ帰ります。セイフィード様、今日もありがとうございました」


「あぁ」


私が帰るとき、いつもセイフィード様は私を全く見ない。

本に目を落としながら、一言だけ返事をする。

私は、それが少しだけ寂しい。


 セイフィード様の図書室から、家へ帰るとシャーロットが待ち構えていた。

シャーロットは私と同じ15歳になった。

“立てば芍薬しゃくやく座れば牡丹ぼたん歩く姿は百合の花”は、まさにシャーロットを体現している。

私も、自分で言うのもなんだが、そこそこ可愛いと思う。

しかし、シャーロットと並ぶと私の存在はかすれる。

私には気品というか貴族感が欠如している。


「未婚の淑女が、そう何度も男性のところに行くのはおやめなさい。何度言えば済むのかしら」


シャーロットがいつものように怒る。


「ごめんなさい。反省してます」


いつものように、私は反省してないが謝る。


「もう、お茶の時間よ。早く着替えて来なさい」


シャーロットは可憐な白いドレスを着ている。

私が着るドレスもシャーロットのお下がりだが、どれも洗練されていて素敵だ。

ただ、この頃、私の胸が発育が良すぎて、どうも胸が苦しい。

そのせいで、私がシャーロットの服を着ると、服のサイズ感がおかしいグラビアアイドルみたいになる。

それが、どうも恥ずかしくてしょうがない。


 貴族のお茶の時間は非常に大事らしい。

私はお茶を飲むより勉強していたいが、コルベーナ家では許されるはずもなく。


「シャーロット、アンナ。貴方達は15歳、そろそろ縁談について考えなければなりません」


 侯爵夫人は、優雅にお茶を飲みながら、私達に話を切り出した。

私は縁談というか結婚なんて、考えたくない。

どうせ魔力がない私には縁談なんてないだろうし。

もし私に縁談が来たとしても、相手は奥さんを亡くした初老の貴族とかだろう。

私の将来ってなんか惨めだ。

それにセイフィード様のことを考えると胸が痛む。

私とセイフィード様が結婚するなんて、きっと無理だろう。

セイフィード様は、魔力が高いステキな貴族の女性と婚約して、結婚するに違いない。

考えれば考えるほど胸が苦しい。


 「アンナ、わたくしは、貴方を本当の娘だと思っています。ですから縁談についてもコルベーナ家の総力を持って取り組みたいと思っています。そんなに気落ちしないでね」


 私を気遣って侯爵夫人は優しく私のほほでてくれた。

侯爵夫人は、言葉通り、私をいつも本当の娘のように接してくれる。

そんな侯爵夫人は、私とって、かけがえのない第2の母だ。



「そうよ、アンナ。わたくしも貴方のことを本当の妹だと思ってますわ。もし縁談がなかったらわたくしの話し相手として、ずーっと側にいなさい」


 シャーロットも私をなぐさめてくれた。

でも、妹って・・・・私の方が前世分を足したらはるかに年上なのに。

いつのまにか私は、友人から妹になっていたらしい。

私のことを、よりみじかに感じてるのかな。

まぁ、私もシャーロットのことを生意気な妹と思ってるけど。


「もし、貴方がた2人にお慕いしている男性がいるなら、わたくしに必ず言うのですよ。わかりましたね」


「はい」


 シャーロットと私は返事をした。

私は嘘をついた。

なぜなら、私はセイフィード様の気持ちを打ち明けた途端、私の恋は終わってしまうだろう。

侯爵夫人に、無理だから諦めなさいとたしなめられる筈だ。


「シャーロット、貴方には縁談が何件か来ています。後ほど詳しくお話しします」


 やっぱり、シャーロットには縁談来るよね。

そりゃそうだよね。


 お茶会が終わり、私は魔方陣コンテストに向けて “クーラー・魔方陣” の作成に取り掛かった。

魔方陣コンテストは一週間後に締め切りなので、急がねばならない。

縁談の事を考えなくて済むので、私は一心不乱に取り組んだ。


 次の日の今日は、魔法陣学の授業がある日なので、私は朝からワクワクしていた。

あの魔法壁の事件以来、私は魔法陣学の授業を受けていて、すでに6年目に突入してる。

単位を取るためには最終試験があり、その試験とは魔法陣を自分で作成し、それを発動させるというものだ。

もちろん、私は魔力がないので発動できない。

そのため単位取得はできない。

けれど、私は魔法を一番感じられるこの授業が大好きなので、恥ずかしながら私は受け続けている。

また、魔法陣学の先生、ラウル先生は、魔法陣学に対する熱意が半端なく、研究熱心の素晴らしい先生だ。

ラウル先生の見た目は50歳くらいで、いかにも研究者というなりをしていた。

髪の毛ぐちゃぐちゃ、服はシワシワ、分厚いレンズの眼鏡をかけている。

でも、一応、貴族らしい。

そして6年間授業を受け続けているが私に対して、いつも特別な課題を出してくれる。

本当にいい先生だ。


 またラウル先生には助手がいて、名前はジーク、年齢は若く26歳だ。

ジークさんも、生徒から好かれている。

ジークさんは中性的な美しい男性で、彼の青黒い艶やかな長い髪は溜息ためいきものだ。

また魔力が高く大きな痣があるが、平民なので先生になることは難しい。

実力も才能もあるのに、先生になれないなんて理不尽だと、私は常々思っている。

だから私は密かに、ジークさんが平民初の宮廷学校の先生になって欲しいと応援していた。

そのジークさんが、私に魔法陣コンテストに出てみたらと背中を押してくれた。

そして、魔法陣学の授業が終わると、ジークさんは、私に話しかけてきた。


「アンナさん、どうですか? コンテストには間に合いそうですか?」


「はい! なんとか間に合いそうです」


「そうですか、それは良かった。頑張ってください」


「ありがとうございます。ジークさん」


 魔法陣コンテスト締め切り当日に、私はとうとう “クーラー・魔法陣” を完成させた。

私はこの魔法陣学で習った6年分、プラス前世の知識を総動員して完成させた。

かなりの自信作。

前世のクーラーのように省エネで人感センサーつきで、なおかつ外出先からネット経由でスイッチが入る最新式だ。

こっちの世界で言うと、魔力が少なくてもパワフルで、ピンポイントで冷風を送ることができ、なおかつ外にいてもある魔法陣を作動させれば、離れた場所にある “クーラー・魔法陣” が作動する。


 その “クーラー・魔法陣” を、コンテストを取り仕切る事務局に提出した。

そして私は、その帰り道にセイフィード様の図書室を訪れた。


「ご機嫌よう。セイフィード様。今日も腕輪に魔力付与お願いできますか」


「あぁ」


いつものようにセイフィード様は、瞬時に魔力付与してくれた。


「宿題⋯⋯ありませんか?」


「ないな」


そうなのである。

もう私が出来るようなセイフィード様の宿題は皆無だ。

でも、セイフィード様は私の魔力付与を嫌がらずにしてくれる。


「そうですか。実は、今日は1つ報告があるんです」


「なんだ?」


珍しくセイフィード様は私を見る。


「実はですね。私、魔法陣コンテストに応募したんです」


「ふーん」


セイフィード様は、なんだ、そんなくだらないことか、と言いそうな表情をした。


「それで、ですね。お願いがありまして⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


セイフィード様は無言のまま、私を見つめる。

さっさと早く言えと、心の中で思っているに違いない。


「もし、私が魔法陣コンテストで優勝できたら、褒美ほうびが欲しいんです」


「図々しいやつだな。で、何が欲しいんだ?」


「物ではないんです。魔法陣コンテストに応募した私の魔法陣をセイフィード様に実現して欲しいんです。お願いします!」


私は、YESと言ってと思いながらお願いした。


「その魔法陣を見てみないと、なんとも言えないな」


セイフィード様は誠にもって正論を言った。


「確かにそうですよね」


「まぁ、でも善処ぜんしょしてやるよ」


「あ、ありがとうございます」


私は、一気に気分上昇だ。

そう言って貰えただけでも嬉しい。


「それにしても、よく応募なんかしたな」


「魔法陣学の助手のジークさんが、私の背中を押してくれたんです。感謝です」


「6年前から働き出した助手か」


「はい。あ、ジークさんも大きいあざがあるそうです。なので魔力も高いそうですよ」


「ふーん」


セイフィード様はなぜかムッとしてしまった。

一瞬にして雰囲気が悪くなってしまった。

さっきまでいい感じだったのに。

私はその雰囲気を変えようとセイフィー様に変な質問をしてしまった。


「そーいえば、セイフィード様のあざってどれくらい大きいんですか?」


「見たいか?」


射るような眼差しでセイフィード様は私を見つめる。


「あ、はい」


 私は何も考えず思わず返事をしてしまった。

すると、セイフィード様がシャツを脱ぎ始めた。

ボタンを1つ取るたび、私の胸の鼓動こどうが速くなる。

あ⋯⋯いや、あ、う⋯⋯わ⋯⋯⋯ちょっと、これは、かなり⋯⋯恥ずかしすぎだろーーー。

私は見たいけど、見られない。

手で目をおおううけど、覆いきれてない。

顔の温度が急上昇し火照ほてるのを感じる。


「アンナ、手で目を覆ってたら見られないだろ」


「いや、その、もう充分です。はい。もう大丈夫です」


自分でも、何言っているかわからない。

でも、私はバッチリ見てしまった。

セイフィード様の上半身を。

凄くセクシーだ。

筋肉質で引き締まっている。

あ、あざはよく覚えてていない⋯⋯が、首から背中一帯にあり、お尻までありそうだ。


「ふーん。そう」


セイフィード様は優雅にシャツを着直した。

私は心臓が爆発するかと思った


「で、アンナ。俺も見せたんだから、お前も見せろよ」


「!!!!」


「ほら、早く」


「わ、わ、わたしには、痣はありません」


「本当にないかどうか確認してやるよ。アンナ、早く脱げよ」


セイフィード様はこれ以上ないくらいの意地悪な顔をしている。


「いい加減、からかうの、やめてくだしゃい」


肝心かんじんなセリフを、私は最後言い間違えた。


「くくくっ、あはははは」


セイフィード様はお腹を抱えて笑った。


「もう、私、帰ります。失礼します、セイフィード様」


私はセイフィード様の返答を待たずに、恥ずかしさと怒りと興奮で、全身がたこ

のような状態で急いで、帰宅した。

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