第11話 天界

昼と夜に長さが同じになるメデオ日が過ぎ、その日から間もなくして、ゾフィー兄様は帰郷ききょうした。


守り人に関する調査結果だが、内密らしく私には一切教えてくれなかった。

ただ世間的には、守り人は体調不良になったが回復し今は問題ないと公表された。


あーぁ、知りたかったなぁ。

守り人が、どんな人か、どんな所に住んでいるのか、どんな物を食べているのか⋯⋯興味深々だったのに。

写真とかあったらなー。

写真とかあったらゾフィー兄様に撮影してきてもらえたのに、残念。


 ゾフィー兄様が帰郷後まもなく、エレナ様は可愛い男の子を出産した。

男の子の名前はスカイ。

コルベーナ家全員、スカイにメロメロだ。

スカイは、ゾフィー兄様に似ているから、将来イケメンになるに違いない。


 そのスカイを連れて今度、神殿に赴く。

神殿は天界にあり、天界には神々が住んでいる。

神々が住んでいる所は、人間は立ち入り禁止だ。

また、天界にある神殿は誰でも行くことができる。

もちろん私も行ける。

ただ、天界への道は、城にある庭園の天空園からしか行けない。

そのため、事前申請が必要で、その申請はコルベーナ侯爵が行った。


私と、コルベーナ侯爵家全員と、なぜかセイフィード様も一緒に天界の神殿に行くことになった。

セイフィード様も、まだ一度も神殿に行ったことがないので、ゾフィー兄様が誘ったらしい。

政治的に、コルベーナ侯爵は、セイフィード様の父親、魔法長官と仲良くしたいので都合が良いそうだ。



そして、いよいよ出発日である。



「神さまに会えるかな? 楽しみだな~」


私は、浮かれながら、セイフィード様に話しかけた。

セイフィード様は闇の精霊を気遣ってか、離れた場所にいるので私だけ話しかけ放題である。

なんとなく、セイフィード様を独り占めできているようで、嬉しい。


「さあな。ちなみにどの神に会いたいんだ?」


「もちろん、ウー様です」


 この世界は、本当に神々が実在する。

神は12神いるが基本、人間界に無関与だ。

天界も、人間界も、魔界も精神界と物質界がある。

神の気が向けば自身を物質化し、神殿に現れて食べ物を食べたり、酒を飲んだりする。

なので供物が多い時には、数多くの神が物質化し、神殿に現れる。

また神の気が向けば、願い事を叶えてくれるらしい。

その12神の中で、なんと私を転生させた神、ウー様がいる。

ウー様は商業の神であり、 旅人の神であり、 使者の神である。

どことなく、前世のオリンポス十二神の1人、ヘルメスを彷彿ほうふつさせる。


「なんで? アンナ、お前商売でもしたいのか? ⋯⋯いや無理だな」


「今度、旅でもしたいなぁ、なんて」


前世で出会って、こっちの世界に転生してくれた神だから、なんて言えるはずもなく⋯⋯私は適当に答えた。


「一緒に行く奴は気の毒だな」


セイフィード様は意地悪な笑みを浮かべた。


「そろそろ時間だよ、アンナ、セイフィード。魔法陣の輪に入って」


ゾフィー兄様が私達を呼び掛けに来た。


 城にある天空園には、大きな魔法陣が書かれており、その魔法陣が発動すると天空の神殿までワープする。

ファンタジーな展開に、私は心臓バクバク、心踊りまくっている。


 そして神殿に行く時間になると鐘が鳴り、魔法陣が光り、優しい風が舞う。

風が舞うと同時に、私たちは神殿の広場にいた。

広場はカラフルな花々が咲き乱れ、まるで天国にいるようだった。

またその広場では他の国々の人や、エルフなどの違う人種もいる。

広場の先にある神殿は前世の時に見た国会議事堂みたいだった。

建物は白く、丸い柱が中央に12本あり、建物は凹凸の凸にそっくり。

ただ大きさは、物凄く大きい。

おそらく城よりも大きい。


 びっくりしたことに、その広場には露店がいっぱいある。

神々のマスコットや、神々が描かれたクッキー、サンドイッチや飲み物も売っており、全てホビットが経営している。

その中に、綿アメが売っていた。


「綿アメ、食べたい!」


思わず私は、綿あめを指差しながら、大きな声をあげた。


「アンナ、そんな大声で叫んではダメよ。淑女じゃなくてよ。それにここに来た目的は、スカイの誕生報告を神々にするためよ。遊びに来たのではなくてよ」


私はシャーロットに冷たく制されてしまった。

セイフィード様も離れたところにいて、笑いをこらえている。


 そもそも、貴族は外で食べたりしない。

でもでも、ホビットが作るお菓子って絶品らしいし、是非食べたいのに、貴族って損だわ。


「まあまあ、せっかく天界に来たんだし、ちょっと待っていてね。買ってきてあげる」


ゾフィー兄様が私に言ってくれた。

もう、ゾフィー兄様、大好き。


 ゾフィー兄様は3つ綿アメを買ってきた。

私とシャーロットとセイフィード様の分。

シャーロット様とセイフィード様は恥ずかしそうだ。

恥ずかしそうにしてるが、食べてる。

食べ歩きなんて、シャーロットとセイフィード様は初めてに違いない。


「と~っても美味しい」


私は、思わず声が出ちゃう。

それに綿アメなんて、なんか懐かしくて涙が出そうだ。


 そうこうしているうちに神殿についた。

中は教会のようになっており、中央奥に神官がいた。

神官はエルフだ。

そのエルフは長い銀髪、透き通るような白い肌、尖った耳、切れ長の目、そして何故かほのかに光っている。

光のエルフ族なのだが、神を除けば一番尊いものと自負している。

その自負があるからこそ、悪に対して厳しい。

生粋の聖者だ。

その神官に、スカイの誕生報告をした。


「スカイに、神々の祝福を」


神官はスカイの頭に手を置きながら、静かに言葉を発した。

この時に運が良ければ神々が本当に来るらしい。

王家の子とかだと、来る確率が高いらしい。

今回は神様はこなかった。

残念。

納めてる金額や供物の違いなのかなと、私は冷静に思った。


 スカイの誕生報告した後、私たちは別室で休憩をすることになっていた。

でも、私は、まだまだ神殿の中を探索したくってしょうがなかった。


「私、まだ神殿の中を見て回りたいっ。シャーロット、セイフィード様、一緒に行こうよ」


「わたくしは、行かないわよ」


優雅にお茶を飲みながら、シャーロットは私の誘いを断った。


「俺も行かない」


隅っこにいるセイフィード様も、:そっぽを向きながら断った。

みんな冷たい⋯⋯⋯。

しょうがないので、私1人で見て回ろうと思い、ゾフィー兄様に声をかけた。


「じゃあ、私1人で行ってきます」


「アンナ、1人で行動はしてはいけないよ。セイフィード、申し訳ないけど、アンナと同行できないかな」


ゾフィー兄様は、セイフィード様の肩に手を置きながら、お願いをした。

そういえば、ゾフィー兄様はセイフィード様の周りにいる闇の精霊を怖がっていない。

大人だからかな⋯⋯。

それにしても、なんだか私って、ワガママ娘みたいだ。

ただ、神殿を見て回りたいだけなのに。


「しょうがないな。少しだけだぞ」


セイフィード様は、やれやれという表情をし、私を連れ立って、別室から出た。


「で、アンナ。神殿のどこに行きたいんだ?」


「もちろん、神殿の東にある塔です。そこから天界が一望できるらしいし、神々が住む居住も見えるって聞いたんですっ」


「神々の居住が見えたって、アンナにはどうせ物質化してない神々は見えないだろ」


「⋯⋯そうですけど、住居だけでも見てみたいんです」


話しているうちに私達は塔の入り口に到着した。

でも、どうやらお金を取られるらしい。

私はすっかり失念してた。


「お金必要だったんだね。私、お金持っていなくって。セイフィード様、ごめんなさい。せっかくついてきて貰ったのに」


「⋯⋯ふぅ。しょうがないな。俺が払ってやる」


セイフィード様がそう言うとコインを2枚出し、塔の入り口にいる係のホビットに渡した。


 しかし、私は塔に入ったことを物凄く後悔した。

階段が螺旋階段で目が回るし、狭くて急斜でなおかつ段数が片道約400段もある。

もう、足がプルプル、息もゼエゼエ、目はクルクル、かなりしんどい!

対照的にセイフィード様は涼しい顔をして、私の後ろをついてきてる。


「なぁ、アンナ、もうちょっと早く歩けないのか?」


セイフィード様は、ゼエゼエハアハア言っている私に、容赦なく言葉を投げかける。


クソっ。

やばい、貴族の淑女なのに、苦しくて頭の中にはクソって言葉しか浮かばない。

私が心の中でクソって言葉を100回くらい連呼した時に、ようやく頂上に着いた。


 頂上に着くと光が差し込み、その眩しさで目を覆う。

私は息も絶え絶えだったか、なんとか目を凝らし景色を見てみる。

遠くの方に数多くの島が浮かんでいた。

その島の1つからは滝が島から流れ出て、その水が光をまとい虹を作り出していた。

まさに絶景。


「わぁぁぁぁ。きれい」


私はその景色をみた瞬間、息苦しさも忘れて、爽快な気分になった。

しばらくその景色に感動していたら突然、突風が吹いた。


「光の精霊が群れをなして飛んでいる」


セイフィード様はまぶしそうに目を細め、呟いた。


「⋯⋯いいな。私も見れたらいいのに」


きっとセイフィード様の目には、私なんかが見た景色より、数倍ファンタジックで素晴らしい景色が写っているんだろうな。


「アンナ⋯⋯いつかお前に、精霊が見える眼鏡を作ってやるよ」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯本当ですか!!! 私、もう一生セイフィード様についていきます!」


「当たり前だ。アンナ、お前は俺の奴隷⋯⋯、いや俺のものだからな」


と後ろを向いてセイフィード様は言う。

後ろを向いてしまったのでどんな表情をしてるかわからない。


⋯⋯⋯⋯うん?

俺のもの?

俺の物?

物?

奴隷から物⋯⋯私って昇格したの?降格したの?

よくわからないけど、なんだっていいや。

だって精霊が見える眼鏡なんて、素敵すぎる。

セイフィード様、ほんと大好きです!


まだまだ、私は頂上に居たかったけど、風も強く寒いし、あまり遅いと、待っているみんなに心配かけちゃうので、私達は塔を降りることにした。


 塔は下りも、登りと同様に地獄のように過酷だった。

今度はセイフィード様が私の前を歩いた。

階段の最後の方は、私の足がグラグラし、感覚がなくなっていた。

私って運動不足だなと思いながら、とうとう最後の一段に差し掛かった。

私の気が緩んだ瞬間、力がフッと抜け、その拍子に足首を思っ切りひねってしまった。


「グギ」


 鈍い音が私の足首からしたと同時に、私はセイフィード様に倒れ込んだ。

しかしセイフィード様はうまく私をキャッチしてくれた。


「わ、わ、わ、ごめんなさい。セイフィード様」


私は体を起こし、セイフィード様から離れようとするが、足首を捻ったため、うまく体が動かない。


 セイフィード様は私の両脇に手を入れ優しく抱っこし、私を座らせてくれた。

そして、セイフィード様はおんぶする格好をし、私に指示した。


「俺におぶされ」


「あ、でも、いやその⋯⋯あ、そうだ! セイフィード様は回復魔法できますよね。足首を治して頂けないですか?」


「神殿は、光のエルフ以外魔法禁止だ。いいから、早く俺におぶされ」


「うぅ。ほんと、すいません」


私は恐る恐る、セイフィード様におぶってもらった。


「まったくだ」


「重いですか? セイフィード様」


「とてつもなく重い」


「ごめんなさい、本当にごめんなさい。セイフィード様」


私は心から謝った。

私はそれ以上、恥ずかしくて何も話せなかった。

ただ、私の胸の鼓動がうるさく響いた。

セイフィード様にも私の胸の鼓動が伝わっているに違いない。


 私達は無言のまま、みんながいる部屋に向かった

しかし途中、ゾフィー兄様が探しに来てくれ、私を救護室まで連れてってくれた。

救護室では光のエルフがいて、すぐに私の足首を治してくれた。

救護室から帰ると、侯爵夫人にまたもや怒られた。

その後、私たちは天界の神殿から家に戻った。


 今日一日、色んなことがあったけど、やっぱり私はセイフィード様のこと、好きなんだなと自覚した。

そうして、私はセイフィード様の淡い恋心を秘め、私とセイフィード様の関係が変わらないまま6年の時が過ぎた。

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