第41話 百家くん家のルーツ

 その日は護符の強化やその他の下準備を終えると東神家を後にした。


 一度、百家神社に戻り、準備を整えてから夜に再び東神家に訪れる約束をしたのだ。


 帰りもベンツに乗せて貰い、先に家に寄ってもらう事になった。その後一緒に神社に戻り、打ち合わせをしてから夜に東神家に行く予定だ。


 後ろの座席には百家くんと私の二人だったので、気になっていた事を聞いてみた。


「あのさ、五芒星ペンタグラムのお守りなんだけど・・・、どうして百家くんの所は神社なのに五芒星なのかな・・・っていうか、それとも桔梗ききょう紋にあやかってるとか?」


 私はこれを貰った時、違和感を感じたのだ。神社には神紋しんもんというのがある。全国の神社で圧倒的に多いのが巴紋と呼ばれる文様だ。これは八幡宮に多い。平安時代末期ごろから神社に神紋が使われるようになり同じ系統の神社などには同じ紋が使われたようだ。他にも梅花紋や桜花紋、だけでなく色々な神紋がある。


 そして、百家神社は稲荷神社で神紋は確か稲紋だったと思う。


 有名な家紋も後に神紋として使えるようになり、天皇家の菊のご紋や天皇家から授与された豊臣の桐紋、徳川の葵紋等も神社で使われる様になっている。


 私が百家くんにいった桔梗紋とは、家紋にある桔梗の花をかたどったものではなく、晴明桔梗と呼ばれる星形の方だ。そう、まさに五芒星。


 陰陽師で有名な安倍晴明を祀った清明神社にはこの星形の桔梗紋が使われている。これは安倍晴明を祀ってあるからその家紋が使われているのだ。桔梗の花の形が星形に見える所から桔梗紋の一種に数えられるようだ。


 この世に存在するあらゆるものを「木・火・土・金・水」にあてはめる「五行」の考え方を形にしたものらしい。


 

 


 でも、安倍晴明は陰陽師だ。陰陽道と神道、つまり陰陽師と神職は別物だ。普通は神社で九字は切らない。


 百家くんの家は神社なのだ。どうして五芒星を用いるのか不思議だった。




 陰陽師は律令制下における国家の官職だった。中国の陰陽五行説に基づいた陰陽道を使う祈祷者だ。


 御霊鎮魂ごりょうちんこん祭祀さいしの役目も担った。


 ※御霊:恨みを残して死んだ人の霊や怨霊


 ※鎮魂:死者の霊を鎮める事


 

 陰陽師は陰陽寮に所属した。(陰陽寮は天武天皇の時代、七世紀後半に設けられたと考えられている)


 ※陰陽寮とは、陰陽師が所属していた日本の律令制において中務省に属する組織の一つで、その主な仕事は4つ。天文気色の観察、暦の作製(造歴)、各種の占い、時刻の管理だという。



 一方神職は各地の官社の神祗祭祀じんぎさいしつかさどる神祇官だった。別々の官職という話になる。だから神社で九字を切るのは大変珍しく、現在では稲荷鬼王神社ならそれを見る事が出来るらしい。こういうのを『一社の故実』(いっしゃのこじつ)という奴らしい。



 ※一社の故実(いっしゃのこじつ):その神社の特殊な由緒、或は古儀により、明治以降継続して行はれてゐる事柄を指す。

 『神社祭式同行事作法教本』


 

 なぜ私がそんな事を知っているのかというと、とにかく陰陽師が好きで興味があり調べまくった時期があるからだ。私の中には少々病的は程の、このようなへきが詰め込まれている。


 

 陰陽師といえば、明治の初期まで、土御門家つちみかどけが陰陽師の免許状を与えていたが、明治政府が陰陽寮を廃止して以来、日本にはもう陰陽師を名乗れる存在はいない。陰陽寮で修行をして陰陽師の「免許」「免状」を持つ人だけが、「陰陽師」を名乗れたからだ。つまり現在名乗っている人がいるとすればそれは自称陰陽師という事になる。


 

 回りくどくなったけど、私の疑問は、百家くんの家は神社なのに彼のやっていることは神職というよりは陰陽師っぽいのはどうしてだろう?という事だった。


「まあ、ざっくり話すと、過去の文献では百家家の先祖は白狐の血を引く陰陽道を使う祈祷師らしい。だけど昔は結構宗教自体がアバウトな感じで神仏習合思想とかで寺と社が混ざっていたり、神職と僧侶の区別が曖昧だった。だけど明治政府が神社神道を国家の宗祀にする為の政策を立てたんだ。それで神仏は分けられて今の形になったってわけだ。それから陰陽道は明治政府にとって厄介な迷信を生む民間信仰だったから廃止されたらしい。家は『百家さん』っていう民間信仰だったけど、こっちの村では神様のお使いをする神職だと思って大した区別はついていなかった。だから時代に合わせて生きやすく上手く神社に移行した感じかな」


 なるほどざっくりだけど、なんとなく言いたいことは分かった気がする。つまり、百家くんは神社の跡取りだけど、九字も切れるということか・・・。そして白狐が守護している。


 すごく心強いと思った。彼が居てくれて良かった。私に何か出来るのなら頑張りたい。心からそう思った。




 




 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る