第19話 男が早死にする家

 アルバイトが終わっての迎えにお祖父ちゃんが来てくれた。今日は日曜日で道の駅のイベントがあったので夕方まで仕事をした。


 いつも帰り道に軽トラの中でお祖父ちゃんと色んな話をしながら帰る。道の駅のイベントで残った川魚の塩焼きをもらったといって、新聞紙の包みを見せるとお祖父ちゃんは笑った。


「そりゃあ楽しみじゃ、ビール飲むのに丁度肴が欲しかった所よ」


「うん、帰りにもらったの。まだ温かいよ」


 本当は衛生上の問題も有るから大っぴらには言えないけどね。



 そう言えば、お祖父ちゃんは月に一回整体に行っている。今日はその帰りに迎えに来てくれた。


 中国気功の整体の先生はとても腕が良いんだそうだ。


 本人の日々の身体の動きの癖なども有って施術で身体の歪みを治してもらっても、ひと月経つとまた身体が歪んで肩こりや腰痛が出るとお祖父ちゃんは言う。それでも整体に行くと身体が楽になるので毎月の楽しみの様子だ。


「先生は色んな事を知っとるし、話好きじゃけえよう喋るんよ。それで、今日はまた不思議な話をしよったわ」


「不思議な話?」


「先生の家の話での。先生は今70歳くらいらしいんじゃが、何でもその家の男が早死にする家じゃったらしい」


「早死にって?その先生は大丈夫なわけ?」


「おお、そうらしい」


「そんな話があるんだ?先生には兄弟とかは居なかったの?」


 すごく興味を惹かれたので、もう少し突っこんで聞いてみる。


「先生は一人っ子じゃったから、叔母さんが男の早死にをえらい心配して色んな専門の所を探したらしいで。先生の父親が42歳で亡くなったんじゃと。で、その父親には弟と妹が1人づつおったが、弟も五年後に同じ42歳で亡くなったそうでの、残った妹いうんが、その叔母さんじゃったわけなんよ」


「ええ、怖いね。どうして亡くなったの?病気?」


「聞いたら不慮の事故いう奴での、本人にはどうしようも無い怖い死に方じゃったわ」


 運転しながらお祖父ちゃんは一人でうんうん頷いている。


「どんな?怖いから早く言ってよ、お祖父ちゃん」


「先生のお父さんは、仕事で他県に用事があって、高速道路を会社の車で走っとったら... ...」


 お祖父ちゃんは、そこで言葉を止める。


「もうっ、お祖父ちゃん、そこでためるのやめてよ」


「はっはっは、いやの、ホンマ怖いんじゃけの」


「もーっ、じゅうぶん怖いから!」


「それで、運転しとったんは同僚で、先生のお父さんは助手席に乗っとったらしい」


「助手席に、それで?」


 何となくもしかすると、例えば同僚がスピード出しすぎて事故ったとかかも知れないと思った。


「追越車線のカーブで、鉄板積んだ大型車両が追い越し車線を通って、その時に助手席のお父さんが亡くなったそうじゃ」


「は?鉄板が落ちてきたの?」


「いいや、カーブで積んどった鉄板がズレてはみ出したそうじゃ。横を通る時になんちゅうんか、ぶうんとトラックの動きが膨らんで、はみ出した鉄板が会社の車の助手席のドアや座席、お父さんの腹を割いてしまったんじゃと。即死だっただろういうことじゃ」


「……そんな事、あるんだ」


 ゾッとする様な話だ。つまり、その先生のお母さんは子供を抱えて一人になったのだ。どれだけ大変だっただろうか。


「まあ、その後は大騒ぎだったらしいがのー。それに、お父さんの弟さんいうのも、やっぱり同じ42歳で鉄板事故に遭って亡くなっとるいうんじゃけ怖いわ」


「ええー!、本当に?」


「建設現場で、鉄板が落ちて来て亡くなったそうじゃ。先生は鉄板事故繋がりで不思議じゃろ言うて笑っとったが、まあ普通じゃあないよのー」


 偶然では絶対有り得ない様な話だ。でもこういう訳の分からない因縁めいた話は、だいたいが大元の原因が分からないことの方が多いと思う。


「そんな事が起こるんだ。怖いね… …でも、整体の先生は早死にを回避出来たんだよね」


「そうそう、叔母さんが色んなところを探して、聞いてまわったらそういう専門の人に、こうした方が良いから

そのようにやりなさい、言われたらしい」


「どんな事をしたら、大丈夫になったの?」


「どうやら先生のひいお祖父さんいうんが、婿養子に来たらしいの。それから男が早死にしとる」


「婿養子だとなんかあるの?」


「あるんらしい。自分の家の方の先祖に報告いうか、そういうんを全くせずにひいお祖父さんは嫁さんの家に来たらしいけな。まあ、報告いうんは墓参りで挨拶する程度でも良かったんじゃろうが、そういう手順を全く踏まずに婿養子に入ったそうな。専門の人が言うにはそれはまず絶対駄目なんじゃと。障りの強さは御先祖様にもよるらしいがのー」


 お祖父ちゃんは、「まあ、知らんけど」とか言いながら続けた。


「ふーん、そうなんだ」

 

 つまりは、先祖からの霊障って事なのか。それにしては恐ろしい障りだ。気づかせる為にあり得ないような事を起こせるなんて・・・。


「なんか代を跨ぐと障りが酷くなるらしいわ。それで、そのひいお祖父さんの実家の墓を探しての、家族を連れて挨拶に行って、声に出してひいお祖父さんの不義理を謝って、これから自分は毎年お墓参りに来ますから、どうか許して下さいと心から言うんが大事なんじゃと」


「それで、先生はそれからそうしてるんだ?」


「そうらしい。まあ、お陰様で、実際お父さんと叔父さんの歳を越しても元気にしとる、って先生は言うとった」


「実際に叔母さんのいう事を信じて行動した先生もすごいね。それにしても当人だけじゃなくて無関係の子孫に障りが出るっていうのは怖いなあ」


「障りじゃ祟りじゃいうたらそんなもんじゃろ。まあ、そんな話は置いといてもう家に着くし、早よ夕飯にしょーや。わしゃ腹が減ったのぉ」


「うん」



 

 私は、お祖父ちゃんとお母さんと今から美味しいご飯を一緒に食べる方に意識を向けて、重い気持ちを追いやった。信じる信じないは自由だけど、こう言う話を聞くと心が重くなるものだ。


「ああ、じゃけど先生が言うには、御先祖様は子孫の幸せを祈るもんなんじゃと。それは間違いない、言うとった」




 


 


 


 

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