第二章

第11話 中三の夏休み 

 

 中三の夏休みを迎えた。高校は今の中学の近くにある、公立高校に入るつもりでいる。


 夏休みはお母さんに塾に行きなさいと言われた。もう受講料は支払いすませてあると言われ、ついでに、お金の事は心配いらないと言われてしまった。顔に出ていた様だ。


「麻美はね、もうお金の心配はしなくて大丈夫。お母さんこっちに帰って来たし、家から通ってるから前みたいにお金もかからないのよ。おじいちゃんだっているし、普通の家位は稼ぎがあるんだからね」


「うん。おかあさんありがとう」


 そういうと、お母さんは私の頭を小さい子にするように、よしよしと撫でてくれた。


 なんか、田舎に帰っていろんな事でほっとする。それにお母さんが幸せそうなのが一番いい。


 良かったねお母さん。断捨離出来て・・・。



 週二回、水・金で午後二時から50分を二枠(ふたわく)だ。机と机の間に仕切りがあり、教室には生徒が何人もいるけど、勉強は先生対個人でやるというスタイルで自分の進み具合に合わせて勉強する。


 学校の勉強は真面目にやっているので、成績は悪くない。でもせっかくお母さんが申し込んでくれたので、しっかり勉強することにした。


 お昼ご飯を家で食べてから、おじいちゃんに道の駅まで送ってもらい、そこからバスに乗る。


 おじいちゃんは今でもシルバーの仕事をしていて、時々私に小遣いをくれる。遠慮すると、『孫に小遣いをやるのはワシの楽しみじゃけな、まさかいらんとは言わんよな?』と威圧を効かせてくるので、ありがたく貰っている。


 お昼を食べたばかりなので、バスが来るまでいつものベンチで座って小説を読んでいた。


 あのパン屋で働くお兄さんがいるのが見えた。何とはなしに見ていると、この辺ではあまり見ない様な小綺麗な恰好のおばさんがお兄さんのいるパン屋さんの所に歩いて行き、パンを買うのじゃなくて、お兄さんに声をかけた。


「春くん・・・」


「!ババア、何しに来やがった」


「春くん、もうそろそろ・・・」


「くんなって言ってっだろ!次、来たら家には二度と戻らないからな!」


「ごめんなさい、でもね、」


「次はないからなっ!帰れっ!」


 お兄さんはそこにあったカレーパンをおばさんに投げつけた。


「きゃっ」


 バフッとおばさんの顔に当たった。おばさんは周りを気にして見回し、私と目が合った。慌てて顔を押さえて駐車場の車まで走り、車に乗り、急いで道の駅から出て行った。


 車は、おベンツ様だった。おばさんは顔にカレーパン投げられて恥ずかしかったのかな。


 お兄さんはカレーパンを拾ってビニール袋に入れて、自分のエプロンのポケットに入れていた。


 投げたパンの代金は後で自分が払うんだろうなと勝手に思った。


 あの人、お母さんなのかな?子供のバイト先に現れて嫌われるパターンかな?


 でもいい年して親がバイト先に来たら恥ずかしいよね。


 それにしても、あのおばさんの周りには黒いモヤモヤが憑いている。あれは、良くないモヤモヤだ。


 そこまで、考えていた所で、バスが来たので乗って塾に向かった。


 ああ、でも気にしてもしょうがない。頭を切り替えた。ああいうモノの事を気にするのは良くない事だ。


 関係ないのだから知らんふりしているのが一番良い。


 


「よう、端宝(はなたから)」


 バスに乗ると、ほとんど乗っていない乗客のうち、一人が百家くんだった。


「百家くん。どっかに行くの?」


「ああ、尾根山と待ち合わせしてる。お前は?」


「そうなんだ。私は塾」


「塾ってあのスーパーの横のとこの?」


 田舎なので、そんなに沢山塾はないので、近くならそこしかない。


「そうそう。二時から二枠とってる」


「ふーん。真面目だな」


「知ってると思うけど、家、シングルで母が1人で働いてお金出してくれてるから、そういうの無駄にはしたくないんだよ」


「そうか、偉いな」


「・・・」


 何か面と向かって偉いなっていわれると、恥ずかしくなった。思わず黙ってしまった。


「ん?」


「いや、照れるからやめてよ」


「なんだ、お前意外に可愛いとこあるな」


「いや、可愛くないから」


「即答かよ」


 うん、ほんっとイケメン男子だ。この人が持って居る、純粋な日本人では持ちえない薄い色素の瞳や、顔が小さくて手足の長いルックスが、芸能人の様な特別な感じがして女の子は憧れるんだろう。顔も綺麗だ。


 一般人とは異質なものを恐れるのではなく、憧れに変えて見るような現代は、逆に生きやすいかもね?


 一昔前じゃ、『外人』呼ばわりされて、虐められたりしてたかもしれない。


「なんだよ、お前、その『観察』すんのやめてくんない?」


 つい、ジロジロ観察していたのが気に障ったらしい。やばいやばい、そういうの気を付けないと嫌う人多いから。


「え、分かる?ごめんね」


「分かるに決まってんだろ。明らかに他の女子と視線が違うからな」


 やはり、バレていた様だ。みんな百家くんを見る女子の目はハートマークだから。そりゃ私とは違うわ。


「バレバレだったか。そっちは尾根山くんと図書館にでも行くの?」


「そう、エアコン効いてるからな」


「いいよね、図書館。私も好き。本がいっぱいあるから」


「いつも本読んでるもんな」


「うん。本読んでるのが一番好きかな」


「そっか。好きな事があるのは良いよな・・・」


 その後は、駅までお互い外をぼーっと見て過ごした。


「・・・そう言えば、東神のオバサンが道の駅にいたな」


「えっ?」


「ほら、ベンツ乗ってたオバサンだよ。あれ東神の奥様だよ」


「・・・へえ。そうなんだ」


 じゃあ、あのお兄さんは、もしかしておじいちゃんが言ってた、ヒキニクって奴?


「いっぱい変なの憑けてたろ?」


「・・・うん」


 そうだった、百家くんは視える人だった。えーっ。






 


 

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