第14話 時に善意は悪意寄りも厄介な物で在る。

 旅の途中でガランさんから聞いた話だと筆記試験は基本的に五十点取れれば合格と話して居た。


 本当の難問は格闘実施試験だとも話して居たっけ。


 確かガランさんの話しだと格闘実施試験は運任せの要素が強くて運しだいでは良い試験官に決まって護衛者適性検査試験は問題は無く通過するらしい。


 しかしガランさんの話を返せば、運悪く良く無い試験官だった場合だと簡単に不合格にされてしまうと言う事だ。


 其の良く無い試験官と言うのが・・・。




「格闘実施試験の場所は此所だ。

 ドルフ君。」


 副ギルド長のダタンがドルフと呼ばれる明らかに成人に成り立てと思われる男の子をギルドの建物の裏手に在る訓練用の広場へと連れて来るのが見えた。


 私も丁度、ドルフと呼ばれた男の子と同年代くらいの男女合わせて五人の護衛者に成る事を希望する若者達の格闘実施試験を終了させた所だ。


「ダタンさん其の子は?」


 護衛者適性検査試験の審査を終えた私は、機嫌が良いのかとても嬉しそうな笑顔を見せて居るダタンに声を掛ける。


「護衛者希望のドルフ君だ。

 筆記試験が通ったので今から格闘実施試験を行うんだ。」


「え、適性検査試験は今終わりましたが?」


 私がダタンに適性検査試験が終了した事を伝えるとダタンは私の後ろに整列して居る今回の適性検査試験を終えた子達をジロリと睨むとため息混じりに私に一言告げて来た。


「ギルドの決まりで適性検査試験を個別に遣っては行けない何て事は無いだろ?」


「え、えぇ確かにギルドの規定ではそうですが・・・。」


「フッお優しいポップズ様の事だから、どうせ其処の連中も全員合格させたんだろ?」


「えぇ、それに私が優しいからと言う分けでは無く彼等全員が筆記、格闘共に及第点を取ったからです。

 問題は全く在りませんよ。」


「はぁ~此れだから頭でっかちは困るぜ。

 良いかポップズよ。

 護衛者ってのはな見習い期間を通して確り学んでこそ本当の良い護衛者に成るんだ。

 分かるか?」


 ダタン副ギルド長は私に向かって何時もの持論を展開し始めた。


 彼曰く、見習い期間を遣った護衛者と遣らなかった護衛者ではかなりの違いが在るらしい。


 今では古い考え方と言われる新人護衛者の育成方法だが、一様ダタンの様な考え方の持論にも一理在る為に否定は出来無い。


 例えば未熟で経験の少ない者を直ぐに新人護衛者として実戦に出した際、新人護衛者の事故や死亡する数が跳ね上がるのは周知事実だ。


 其の為に新人護衛者に対して事故や死亡の数を減らす為に、在る程度の見習い期間としての教育が必要だと言う事なら私でも十分理解する。


 そして本来の護衛者適性検査試験とは試験を受ける者が新人の護衛者として遣って行けるだけの知識や経験が在るのかを確りと吟味する為の試験なのだ。


 言う為れば、新人護衛者として安全に遣って行けるだけの知識や経験が在るかを護衛者適性検査試験に寄って見極めて居るのだ。


 だからこそ適性検査試験が不合格に成った者達には再試験の為に一年間ベテラン護衛者の下へ見習いとして学ぶ為の制度に成って居る訳だが。

 

 ダタンの様な持論を持つ者達は何故か適性検査試験の結果に関係無く護衛者に成る為には見習い期間を経なければ為らないと素で思い込んで居る節が在る。


 そしてそんな考えの元にダタンは護衛者を目指し適性検査試験を受けに来た若者達を如何にして適性検査試験に寄って「落とす」かと考え始めた。


 例え其れが適性検査試験を受ける前に知り合いの護衛者の下で見習いとして確りと学んで来た将来有望な若者で有っても「初めて適性検査試験」を受ける者はダタンに寄ってすべからく不合格のターゲットに成ってしまった。


 何故そう極端に成る!!


 馬鹿なのか!?


 正に本末転倒だ。


 私は行き過ぎた教育思想を其の口から垂れ流し私を批判するダタンを見て密かに頭を抱える。


 最悪なのはダタンの様な持論を展開する者達が悪意を持って不合格を行って居る訳では無いと言う事だ。


 そう彼等は、あくまでも新人護衛者達の安全を思うと言う善意の思いに寄って遣って居るのだ。


 善意から出た考えの為に自分達の考え方の問題点を反省し思い直す事が無いのだ。


 自分達は正しい事をして居るんだ。


 そう言った独善的な思考が彼等に根拠の無い自信を育て、己の間違いを決して認めると言う事が無く成ってしまう。


 更に副ギルド長と言う権力的な立場にダタンが居る事に寄って領都の護衛者組合ギルドへ適性検査試験を受験しに来た若者達をわざわざ不合格にすると言う馬鹿な茶番劇へと仕立て上げ様として居る。


 最初から不合格にする積もりなら若者達が適性検査試験を受ける意味が無いではないか。


「可哀想に・・・。」


 何も知らないで在ろう此れからダタンの格闘実施試験を受けるドルフと呼ばれた男の子を見て、私はダタンに聞こえないように小さく呟いてしまう。


 私が哀れみの視線を送った事に気付い居るのか居ないのかは判らないが、ドルフと呼ばれた男の子は私と視線を会わせると未だ呆気あどけない子供の様な笑顔をニコリと見せて頭を下げて挨拶して来るのだ。


「宜しくお願いします。」


 うっ・・・良い子じゃないか、こんな良い子をダタンの奴は自分の教育思想の観点から無理矢理不合格にしようとして居るのか。


 そう思うと私の心が罪悪感でキリキリと締め付けられ物凄く痛く成る。


 思わずダタンの奴を睨み付けてしまうがダタンの奴は私の視線に気付く事も無く笑顔でドルフと言う男の子に話し掛けて居る。


 あっ!ダタンを睨んで居たのにドルフ君と目が合ってしまった。


 違うからね。べ、別に君を睨んでた訳じゃ無いからねドルフ君。


 私が睨んでたのは其処のダタンと言う馬鹿だからね。


 ドルフ君に対して必死で誤解を解こうとするダタンの背後で無言のジェスチャーをする私に何故かダタンの奴が振り返って睨み返して来た。


「あ~ドルフ、アイツはポップズって言う頭の固い奴だから気にすんな。

 性格が悪くて新人を育てる気も無い同しょうも無いボンクラだ。」


 お、お前が言うかぁ~~~!!


 思わずそう絶叫しそうに成る私だったが此処は大人の自制心を総動員し何とか絶叫しそうに成る我が口を閉じた。


 ぐぬぬぬっ~視線でダタンの奴が殺せたらどんなに気持ち良い事か。


 嗚呼~魔眼が欲しいと私は今、心底願ってしまう。


 あっ!今のも別に君を睨んでた訳じゃ無いらねドルフ君。


 ウッ、そ、そんなにドン引かなくても・・・。


「ポップズ試験官?」


「は、はい何ですか?」


 ダタンの奴を睨んで居たせいか私は自身の背後に試験を終えた五人の若者達を待たせて居た事をすっかり忘れて居た。


「どうかされましたか、先ほどから何かダタンさんと話した後、物凄く睨んで居ましたが・・・。」


「す、済まない実は・・・。」


 私は心配そうにしている五人の若者達にドルフ君の事を説明した。


「えっ!?

 あの子ってダタンさんの適性検査試験を受けたんですか?」


「ま、マジかよ。

 知らないって不幸だな。」


「可哀想に・・・。」


 五人の若者達はダタンが故意に受験者を不合格にする事を先輩護衛者達から聞いて居る為に何も知らずダタンの適性検査試験を此れから受けるドルフ君に対して哀れんだ目を向けるのだった。


「仕方ない。

 此処は何とか私がドルフ君に加勢しょう。

 あぁそれと君達は適性検査試験に全員合格したからね。

 此の書類を受付の方に渡して合格講習を受ける様に。」


「「「有り難うございますポップズ試験官。」」」


「さぁ挨拶は良いから早く行きなさい。」


「「「はい!」」」


 適性検査試験の合格通知を渡されると五人の若者達は先ほど迄の不安そうな表情を一変させ嬉しそうに私に頭を下げて感謝を述べるとギルド内の受付へと走って行った。


 そんな未来在る若者達を見送り私は直ぐにドルフ君の加勢をする為にダタンへと声を掛けた。

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