第8話 五歳にして欲する

 五歳に成りました。


 衝撃の事実です。


 どうやら俺は大きな勘違いをして居た様だ。


 其れが分かったのは俺が五歳に成った日の事だ。


 此の世界にも日本の七五三の様に子供の成長を祝う節目の年齢が在る様です。


 其の祝う節目の年齢が五歳と言う事なのです。


 祝う意味も日本の七五三と同じで、いくら魔法が有ったとしても、全体の文明レベルは地球の中世時代に似て居る事から、子供が産まれてから五歳に成る迄には病気などでかなり亡くなるらしく。


 其の事から、此の世界でも子供が五歳に成る迄は安心出来ない。


 そして五歳を節目にして此の子は大丈夫と言ったお墨付きを産婆さんから貰い祝う訳なんだけど、何故か五歳に成った俺の健康診断を始めた産婆さんが・・・。


「此れは・・・。」


「オルネさん、息子の身体に何か有りましたか?」


 俺の身体を調べて居た産婆さんが何か引っ掛るのか、診察の手を止めて険しい表情を浮かべる。


 そんな産婆さんの険しい表情に戸惑いながら親父殿が俺と産婆を不安そうに交互に見比べる。


「あぁ心配する様な事じゃ無いよトム。

 お前さんの息子何だが、プラーナが異常な程に高いんじゃよ。」


「プラーナ? 

 何ですかそれは?」


 産婆さんの言葉に親父殿が首を傾げる。


 親父殿の横で産婆さんの話に聞き耳を立て居た俺も親父殿と同じように首を傾げた。


 親子で在る俺と親父殿の同調した様な動きを見て苦笑しながら産婆さんは話を続ける。


「プラーナってのは生命が持つ力の事さね。

 ほら騎士や一部の護衛者達が戦う時に使う闘気術は知ってるだろ?

 其の根源に成る力をプラーナと言うんじゃよ。」


 何それ?何か聞き慣れない言葉を産婆さんが使い始めたぞ。


 俺は産婆さんの言葉に増々首を傾げる。騎士は判るが、護衛者って何?闘気術?プラーナ?今まで聞いた事の無い単語だ。


「闘気術と言うと騎士や護衛者が使う魔法の事ですよね?

 何でそんな物が家の息子に・・・」


 親父殿が良い疑問を産婆さんにした。


 グッショブだ親父殿、伊達に母上に対して甘えん坊さんしてる訳じゃないな。


「ん? トムよ。

 闘気術は魔法では無いぞ。

 魔法でも似た事は出来るが闘気術程には近接格闘に向いてはおらん。

 それにのぉ根源の力が異なるのじゃ。

 闘気術は生命の力、生命力プラーナを使い自身や武器の強化を行うが、魔法は周囲に在る魔力マナを集めて現象を発生させるの術じゃよ。

 似て居る様で方式も技術体系も異なる術じゃ。」


「ファッ!?」


「ん? 坊主どうした?」


 親父殿の側で産婆さんの話を聞いて居た俺は驚き内容に声を上げてしまった。


 もしかして俺が此の五年近く鍛え続けて来たのは魔力では無く・・・生命力プラーナ・・・だと言う事か?


 まさか、産婆さんの話だと生命力プラーナって戦闘に使うって事は地球で言う『気』見たいな物か?


「オルネさん、プラーナが強いと何か問題は有りますか?」


 今まで一言も発せずに親父殿の側で黙って居た俺だが流石に此れは聞いて置かねばと自分から口を開く。


 産婆さんは急に話だした俺に軽く驚くもすんなりと答えた。


「ウムッ特に無いのぉ、嫌ぁ在るか。

 強いて問題として上げるとしたら、生命力プラーナが強過ぎると周囲に在る魔力マナを集める事が出来ぬ。

 体内の生命力プラーナされて体外に在る魔力マナを弾いてしまうのじゃ。

 其の為に魔法が使えなく成るぐらいかのぉ?」


「へぁっ!?」


 産婆さんの口から語られたのは、驚愕の事実だった。


 クッ・・・何てこった俺は同やら此の五年近く、魔法とは真逆の力を鍛えて居た様だ。


 落ち込んだよ。産婆さんの話を聞いて俺は凄く落ち込んだ。


 魔法が使えないって事を産婆さんの話を聞いた後三日間ほどは落ち込んだ。


 何せ産婆さんの診察後に行われた五歳の祝いの事を何一つ覚えて居ないくらいに落ち込んだ。


 しかし俺は三日後には考え方を変えて立ち直る事になる。


 何故なら親父殿から聞いた話だと護衛者と言う仕事は儲かるらしく、更に護衛者として有名に為れば国から貴族へと召し抱えられる事も在るのだとか。


 庶民に人気の在る話や芝居等の英雄談は護衛者の成り上がり物語が多い程だと聞く。


 ならば異世界ハーレムのモテモテ伝説を成すべく俺が目指すは護衛者しかない。


 此処まで来たら魔法何てスッパリキッパリ完全に諦めて、生命力プラーナを極める方向で行く事に俺は決心するのだった。


 職に貴賤無しだ。


 こうして五歳にして欲にまみれたハーレムモテモテ伝説の野望を胸に秘めて、俺は勘違いから始めた魔法の訓練、改め生命力プラーナを使った修練を積む事にした。

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