第6話 三歳にして知る

 三歳に成りました。


 今日も元気です。


 元気過ぎて三歳児とは思えない速さで走り回って居ます。


 俺が独自に発見した地球の古流武術式呼吸法を持ち居た体内の魔力強化増強法の効果は、俺の想像以上に成果を出して居た。


 「灯り」の魔法は未だに使えないが新たに感知の魔法が使える様に成った。


 始めは身体強化魔法に寄って耳や目等の感覚器官の強化する事に寄り、魔法鍛練中に親父殿や母上が近づいて来てる事を警戒し物音等を注意深く探って居ると、自身の体内魔力を感じるのと同じ様に周囲の生き物の魔力を感じ始めたのだ。


 此の世界には魔法が在る事から此の世界の生物には地球の生物と違って何等かの魔力を感知する器官が在るのではないかと考えて居たが、まさか身体強化魔法に寄って其の魔力を感じ取る感覚器官も強化されて居た様で、俺を中心にして周囲に居る生き物が体内に持つ僅かな魔力を感じ取る事が出来た。


 始めは半径一メートルしか感知する事しか出来無かったが、此所一年で半径百メートル内の生き物の体内魔力を感じる事が出来る様に成って居る。


 しかも生き物の種類や同種個別の持つ体内魔力の違いも感じられる様に成った。


 感知始めの俺は自身の周囲に居た虫やネズミ等の体内魔力を感じて其の多さに驚き戸惑ったが、更に一年もの間に感知魔法を鍛え上げる事に寄って生物固有の魔力を感知仕分ける事に成功した。


 細菌や微生物等は小さい為か、相当数の数に成って初めてモヤッとした感じで捉える事が出来る。


 虫やネズミ等の小動物は小さいがハッキリと分かる。


 大型の家畜等の動物も個別に大小の魔力の大きさに違いは有るが個体別の魔力質の違いは殆ど同じで変わりは無い。


 まぁ此の結果は、俺が感知して感じた範囲内での生き物の事なので全ての生き物がと言う分けでは無い。


 実際、人間は個々人に寄ってかなり違いを感じる。


 家の家族でも、母上の体内魔力は小さいが安定した様な魔力で、親父殿は大きいが変化が激しい体内魔力をして居る。


 たまに遣って来て母上と俺の健康状態を確かめる産婆さんは、母上と同じ様に安定した魔力だが魔力の質と量が親父殿と同じ程だ。


 今の俺寄りも遥かに体内魔力の量と質が少ないのに魔法を使えると言う事はやはり魔法の行使に於いて何等かの触媒が必要だと推測出来る。


 後、此の世界の文明レベルは地球での十二から十四世紀辺り中世ヨーロッパ地域と似て居るが異世界の為に違う点も多々有り全く同じと言う訳でも無い。


 魔法と言う技術が在る為か、地球の歴史上では見られ無かった文化や中世紀の地球とは異なる発展んした思想や技術が在る様だ。


 其の為か地球の歴史で有る中世ヨーロッパの十二世紀から十四世紀以上に進んで居る側面も多々見受けられる。


 俺の生活環境から知った範囲でも医療知識や衛生観念等も産婆さんの発言から地球の中世時代寄りも進んで居る事が分る。


 例えば、清潔な環境と言う概念も地球の中世時代と比べて此方の世界の方が遥かに進んで居る。


 実際、此方の世界の産婆さんは手洗いや衛生面に関して患者等に奨励して居る。


 因みに現在の地球上での手洗いや衛生面に関する重要性の考え方は、地球の歴史でも十九世紀始め頃に気付いた事で在る。


 兵隊が戦場で死ぬ寄りも実はちょった怪我を負った兵隊が、後方の野戦病院で死ぬ事が多いと言った原因を不潔な衛生面から来ると言う事実を統計学の観点から突き止めたのは彼の有名なナイチンゲールだったりする。


 其れまで何と無くと言った事象をナイチンゲールが数字でハッキリと示して見せた事で衛生面の重要性が理解されたのだ。


 因みにナイチンゲールは医療の知識は殆ど無かったと言われ、驚くべき事に医療知識寄りも数学的な知識が高かったと言われて居る。


 其の事からナイチンゲールの医療活動に関する期間は短く僅か数年で有り、当人も感染症に掛かって人生の大半を病気の為に苦労した。


 ナイチンゲールが有名に成ったのは当時のイギリスメディアの宣伝の影響で有り、ナイチンゲール自身はメディアの宣伝で作られた誇張された自身のナイチンゲール像を強く否定して居た。


 話しが逸れてしまったが、兎に角この世界の文明の発展は必ずしも地球上の歴史的文明と同じ様な道を辿っては居無い様だ。


 似た所は随所に見られるが全く同じとは言えない為、此の世界の文明レベルは中世ヨーロッパ風、そうあくまでも「風」なのだ。

 

 そんな世界で我が家の親父殿の仕事は、直接小作人らしい。


 らしいと言うのは地球上の歴史に観られる小作制度と此の世界の小作制度には多少の違いが観られるからだ。


 我が家の親父殿が耕して居る農地は此処等辺ここらあたり一帯を治める領主様の土地らしく、今住んで居る家も畑も全て領主様から親父殿が借り受けた物との事だ。


 但し此の領主様から借り受けた家や畑は五十年以上住み、尚且つ税金を払い続けると借り受けた家と開墾した土地の半分の権利が借り続けた人の物に成ると言う変わった契約方式だ。


 しかし家も土地も現在の領主様から借りて居ると言う事で、五十年経つ迄は領主様に支払う税が所得の七割と言う割高に成る。


 自分の家と畑を持って居る人達の場合だと、領主様に払う税は四割程なので三割も高く思えるが、自分で土地を買い家を建てたり畑を作ったりする為には高額な金が必要と成り、買う為の資金を貯蓄するだけでも大変な年月と労力が掛かってしまう。


 また商人等から資金を借りたとしても借りた借金の利子を支払うだけで大変な物に成る。

 

 寧ろ商人からの借金の利子と領主様へ支払う税を合わせると普通に高額と思われる七割の税寄りも遥かに高く成る場合も在る。


 それに商人は貸した金や、その利子の取り立てが厳しく。下手をすると借りた側が金を返す事が出来ずに折角手に入れた家や畑を奪われ家族ごと借金奴隷へと落とされると言う問題も発生して居た。


 後先考え無い悪徳領主なら商人と組んで領民から絞り取ろうと考える手だが、領地運営するまともな領主様から見る其の手は悪手以外の何者でも無い。

 

 領主様からすると農村の住民は貴重な人的資源で有り、農村で作られる農産物は領地に取っても重要な物質でも在る。


 地球の古代中国で一般人を「民草」と表現するが、此れは当時の為政者が、一般人は草木や雑草の様に何もしなくても生えて来る何て言う考から発生した漢字と言う説も在る。


 しかし、そんな発想の為政者は此の世界でのまともな領主なら有り得ない考えと否定する。


 寧ろ、此の世界には魔獣とか魔物と呼ばれる存在が居る事からか人的資源の重要性が寄り重宝されて居る。


 魔獣と魔物・・・此の存在を知ってから俺は更なる体内魔力の鍛練を積んでいる。


 何せ親父殿が話す魔獣や魔物は、とても獰猛で人間や畑を良く襲う害獣と言った感じだ。


 其の為に街等の都市部と違い農村地域で生きて行くには命懸けな事から自身の身を守る為には、ある程度の力が必要らしい。


 体や能力を鍛えて於いて損は無いと言う考え方は、此の世界の農村地域に住む人達に取っても生きて行く上での基本的な考え方らしい。


 親父殿も普段から畑仕事と同時に此の村の自警団長をして居るらしく。


 親父殿は二の腕に力こぶを作って見せると「はっははは~お父さんはとっても強いんだぞぉ~」と子供の俺にアピールして来た。


 しかし俺の頭の中では赤ちゃんプレーで、母上にベタベタと甘ったれて居る親父殿の姿がよぎってしまい親父殿が余り強そうに思えない。


 話しを親父殿の事から戻すが、地球の中世紀ヨーロッパでも人的資源の重要性は為政者達にも解かれており奴隷の扱いは思った以上に酷く無かったと言う話しも在る。


 寧ろ中世ヨーロッパで奴隷の扱いが酷かった時代はローマ帝国が衰退してヨーロッパ地域の文化や文明が後退した中世初期と中世後期大航海時代以降で有ると言う話だ。


 実際、中世紀の中期頃には農奴制も改革や解放に寄ってヨーロッパ地域では縮小して行った。


 しかし、ヨーロッパ地域の農奴制度の改革と縮小も大航海時代に入り植民地から入って来る安い商品に押されて困窮したヨーロッパ地域内の人々が経済的理由から農奴制の復活を望み再度農奴制度が復活する事に成る。

 

 其の為にヨーロッパ地域で復活した農奴制度は十八世紀初期迄続く事に成った。


 更に言うとロシアは十九世紀初め頃まで農奴制度が有りヨーロッパ各国から非難の対象とされて居たが、ロシアを非難して居たヨーロッパ各国では普通に植民地で「有色人種」を奴隷として扱って居たのが実情だ。


 当時の地球上の奴隷制度は、決してヨーロッパだけの専売特許と言う訳では無い。中東やアジアでも奴隷制度は普通に有った。


 そしてヨーロッパ地域以外の奴隷に対する扱いは当時のヨーロッパの人々と対して変わらない酷い境遇の物で有ったと言う。


 寧ろ地球の歴史上に於いて奴隷制と言う制度システムが無い国の方が稀だったとも言える。


 そう言った意味では、此の世界でも奴隷制度は存在するらしい。


 らしいと言う曖昧な表現なのは今の処、俺が此の世界で奴隷を見た事が無いからだ。


 最も大きな村や街に行けば奴隷を見る事も在るかも知れない。


 しかし俺の産まれた此の村には奴隷の姿が皆無だった。


 村自体が貧しい為に奴隷を所有する人達が居ないと言う可能性も在るが、此の地域を治める領主様の領地運営が奴隷を必要としないない方式だからかも知れない。


 其の一環として領主達が行う領地運営の政策には、我が家の様な小作人の領民に対して領主が家や農地を割高な税と引き換えに提供し長い年月を掛けて払い渡しをすると言う物が在るのだ。


 領地運営に置ける第一歩は、領地内の人的資源の確保で有る。


 領民が少なけれ領主の資金源に成る税の実入りも必然的に少なく成ってしまう。


 其の為にも領主としては、実入りの税を増やす為には、どうしても多数の領民を確保する必要性が在るのだ。


 如何に広大な領地が在ろうと耕す者や生活を営む者が居なければ税は入らず、広大な土地も単なる無用の長物に為り寧ろ少数で此の広大な土地を管理するには、かなりの人手と管理する為の資金が必要と成る。


 しかし資金をケチって管理を疎かにすれば人を襲う魔獣や魔物などが大量に繁殖し兼ね無い。


 そう成ると領主としては、国王から与えられた土地をまともに管理も出来ない無能者との烙印を押されてしまう。


 最悪、無能者としての悪評だけでは無く、国王から領地運営の能力無しと観なされた領主は貴族階級の剥奪と自領その物を没収され兼ねない。


 其れだけに領地運営を行う領主達は、人的資源で在る領民を減らす様な無用な行いはしない。


 日本にも江戸時代頃から農民達に対して酷い扱いをする領主の下から農民達が一斉に逃げ出して領主を困らせる「逃散ちょうさん」為る言葉が在るくらいだ。


 更に此の「逃散」と言う行為は日本のみ成らず海外の歴史上でも同じ様な行為が有ったと言われて居る。


 現代だと形を変えて、ブラック企業に勤めて居る社員が、一斉に辞表を出して退職し会社の事業運営に打撃を与えると言う行為に成って居る。


 そんな「逃散」的な事態を避ける為にも領主達は、苛烈な罰則と重い税を貸して無理に領民から絞り取る寄りも、飴と鞭を使い分けて細く長く領民達から税を絞り取る方が最善と言えるのだ。


 重い税と苛烈な罰則に寄って下手に領民が「逃散」して仕舞えば、結局の処は領主の実入り足る税も入らず、更には領地から逃げ出した領民達の中から犯罪に走る者を出して他領に大きな損害を与えてしまう可能性も在る。


 そうなると領主としては他領の領主達から統治能力を疑われ責められる事に成る。


 そう成らない為にも、領民を土地に縛り付ける政策が必要と成る。


 そして領民に領主が、土地と家を貸し高い税を取りながらも将来農民に貸した家と耕した畑の所有権を与えると言った飴と鞭を使った制度が出来たのだ。


 人の心理として苦労して手に入れた物(此の話の場合だと家や土地等の持ち運び出来無い資産で在る不動産の事)は簡単には手放す事は無い。


 家や畑を手に入れたばかりに其所に定住し離れられなく成り農民は自らを其の土地に縛り付ける事に成る訳だ。


 そうすると土地の開拓と管理は領主が何もしなくても住み着いた領民達が勝手にしてくれる事に成る。


 後は永遠に税と言う名で領民達から上前を跳ねるだけの制度システムが出来上がる。


 まぁ思惑は同で有れ、領主と領民に取っては有り難い政策と言えるかも知れ無い。

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