第5話 二歳にして迷わず

 二歳に成った。


 今でも「灯り」の魔法を使う事は出来ないが「身体強化魔法」に関してはかなり上達している。


 伊達に「身体強化魔法」に寄る高速ハイハイで鍛え上げた訳ではない。


 コーナーリングも物凄い勢いで難なく走り抜ける事が出来る程には、俺のハイハイテクニック略してハイテクは完璧だ。


 しかし二歳に成った今は普通に二足歩行へと移行して居る。


 立ち上がった所を母上に見られて以来、歩き出すタイミングに丁度良いと考えた俺は、其れから少しずつ親の前で立って歩く姿を見せる事にした。


 勿論いきなりスタスタと歩き出した訳ではない。


 産まれたての小鹿の様にプルプルと脚を震わせる等の演技をしながら徐々に二足歩行して行くと言う前振りを見せたのだ。


 お陰で今世の俺は演技派だ。


 毎日少しずつ歩く事が出来て行く俺の迫真の演技に、親バカな母上からは「キャーキャードルフちゃんったらしゅっごぉい~』と声援を貰って居るくらいだ。


 フフッ今の俺なら主演男優賞も目じゃぇぜ。


 そんな事を考えると俺はニチャリとした野望に染まるベビースマイルを浮かべてしまう。


 天才・・・正に天才!!


 ヤベェまた、鼻と顎をにゅぃ~んと伸びるノリに成りそうだヤメヤメ!!


 兎に角俺は半年前から歩き始め、それに伴いオムツプレーも授乳も卒業した。


 今ではオマルでたまに子供ポッく排泄して居るが、実は母上は目を盗んで家の外に設置されて居る我が家の汲み取り式トイレで足して居る。


 何故、俺が授乳やオムツプレーを卒業する事に為ったかと言うと、実は半年前に親父殿が母上に対して赤ちゃん言葉で甘え捲る、そう禁断の赤ちゃんプレー姿を見てしまい「キモッ!!」と本気で思ったからだ。


 親父殿は母上に対して歪んだ愛情が強すぎてイチャ着く為なのか、それとも赤ちゃん返りしてしまったのか単なる性癖なのかは分からないが、良い歳した親父殿のバブッて居る姿は本当にキモッかったのだ。


 人の振り見て我が振り直せと言うことわざが在るが、今回親父殿の赤ちゃんプレーを見るに限り本当に直したいと思った。


 今は転生して赤ん坊の姿で在る筈の自分だが、記憶だけなら既に二十歳過ぎなのだ。


 客観的に見たら親父殿と変わらない。


 そう思うと母上の膝枕上で「ボクもママのミルクほちぃでちゅう~」と甘えて母上の胸を触ろうとして居た親父殿の姿が自分とダブってしまうのだ。


 俺としてはあんな大人には成りたく無いと言う思いから一大決してオムツプレーと授乳を卒業する事にしたのだ。


 まぁ最初俺が一歳と半年でオムツと授乳離れをする事に、母上は驚き戸惑うかとも思ったが・・・家の母上は想像の斜め上の親バカだった様で「家のドルフちゃんしゅっごぉい~!?」の一言で片付いてしまった。


 ちょっと家の母上、実は親バカじゃなくてバカな親なのでは?と少し母上の頭の出来を疑ったくらいだ。


 まぁあの父親殿と結婚し赤ちゃんプレーにも付き合って居るくらいだから多少は頭のネジが緩んで居る可能性は在る・・・と思う・・・ちょっと心配になるよ母上。


 兎に角、身体強化魔法に寄って強化された俺の身体は生後二歳とは思えない程に成って居る。


 とは言っても姿形は赤ん坊のままなのだが、普通に離乳食では無く硬い筈の黒パンも肉もモシャモシャと食べて居るが今の処は身体に対して何の支障は無い。


 同やら身体強化魔法の影響は内臓等にも及ぶらしく俺は至って健康で在る。


 身体強化魔法のお陰で、現在では健康優良児真っしぐらだ。


 筋力に関しても凄く、二歳なのに普通に百メートルの距離を十秒台で走り抜ける。


 因みに高速ハイハイだと百メートルを移動するのに五秒を切って居た。


 ま、まぁ・・・二足歩行し始めたのはごく最近だからね・・・仕方ないよね。


 それで訓練も兼ねて、調子こいて家の周囲をシュパパパパッと駆け回っていたら、其の姿を畑仕事帰りの親父殿に目撃されてしまった。


 ヤバいと思ったが、次の瞬間には親父殿は自身の頭を軽く左右に振った後に、自身の両目を擦りながら現実から逃避する様に叫んで居た。


「疲れてる、俺何か最近かなり疲れてるんだきっと・・・。

 ママぁ~今日ボクちんちょっと疲れてる見たいでちゅう~!!」


 叫んだ親父殿は混乱して居たのか語尾が赤ちゃん言葉に成って居た。


 其の後直ぐ家へと駆け込むなり母上に引っ付いて赤ちゃんプレーを始める始末だ。


 ヤレヤレ全く熊みたいな大きな体格をしてる癖に情けない親父殿だ。


 我が家に飛び込む親父殿の姿を見送りながら俺は何処の赤ん坊らしかぬ顔で両手のひらを肩辺り迄上に向けて上下に振りながらクイレバーしげにヤレヤレを披露する。


 端から見ると二歳児とは思えない自分自身の行動を棚に上げ振る舞いながらも、最近の俺は親父殿を見る目が残念な生き物を見る様な目付きに成ってしまう。


 しかし翌々考えて見ると親父殿が母上に対して赤ちゃんプレーを求め始めたのって、俺がこっそりと身体強化魔法の訓練をして居る処を親父殿に見られてしまった時期と一致する。


 もしかしたら親父殿の奇行の原因って俺に在る可能性が高い。


 そう思うと親父殿の心の安寧の為には赤ちゃんプレーの様な恥ずかしい性癖の一つや二つくらい見なかった事にして上げるのも吝かではない。

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