第4話 一歳にして立つ

 生後一年過ぎた。


 俺の体内魔力の質と量、共に絶好調なくらい増えて居る。


 しかし、未だに「灯り」の魔法を使う事が出来ない。


 やはり何か、魔法を使う上で何等かの触媒や呪術的な言霊が必要なのだろうか?


 思い悩みながら、体内の魔力を強化する為の呼吸鍛練法を実行して居る中で俺は在る事に思い至る。


 一瞬の違和感。


 ザワ・・・ザワ・・・ザワザワ。


「あっ・・・あ、ああぁぁぁ・・・。」


 気付き・・・からの天啓!! 


 正に天啓!!


 圧倒的閃き、そして逆転への悪魔的発想!?


 赤ん坊の俺の顔が、途端に鼻と顎がにゅい~んと尖る気がした。


 ザワ・・・ザワ・・・ザワザワ。


「クッ.・・・クククッ・・・へ、魔法へびめ!

 澄ました顔をして平然とあの一瞬で・・・ったな・・・毒を。

 魔法こいつは蛇だ!!

 とんだ毒蛇だっ!!」


 刺す!! 此の世界の理で堅められた魔法と言う名の圧倒的牙城の隙を・・・俺は・・・刺す!?


 ザワ・・・ザワザワ・・・ザワ。


 とまぁ少し大げさに言ったが、単に俺が大きな勘違いをして居たと言うだけの話だ。


 最初に「灯り」の魔法を見た事で俺は「灯り」の魔法を使う事へと意識が固定されて居た様だ。


 正に固定観念、そう別に魔法を使うのに「灯り」の魔法だけに拘る必要性は無かったのだ。


 体内の魔力を練り上げ全身に巡らせる事が出来るのなら、其の体内に巡らせた魔力で身体を強化する魔法、所謂「身体強化魔法」は使えないのだろうかと遅ればせながら思い至ったと言う訳だ。


 物は試しと身体中に魔力を巡らし立ち上がって見る事にする。


「だぁっ!!」


 気合いを込めて声を出し立ち上がったのだが、身体中に魔力を巡らせた為か、声帯も強化されて赤ん坊らしからぬ中年のオッサン見たいな野太い声が出してしまう。


 同時にすっくと問題無く立ち上がる事も出来たのだから身体強化魔法への俺の推測は間違って居なかったようだ。


 ヤったと小さくガッポーズを取った瞬間、立ち上がった俺の背後でカランと乾いた木のお盆が落ちる音が聞こえた。


「あっああぁぁぁ!?」


 背後から聞こえた驚きの声へと振り返って見ると其所には手に持って居た木のお盆を落として驚き戸惑う母上が居た。


 や、ヤバい。見られた!?


 イヤっもしかしたらオッサン見たいな野太い声を出したのを聞かれたのかも知れない。


 ど、どうしょう?


 俺は咄嗟に可愛いらしいベビースマイルを浮かべて誤魔化す事を試みる。


「ダァ~?」


 ふぅ~何とか今度は普通に可愛い赤ん坊の声が出せた。


 な、何とか誤魔化せたかな?


「きゃぁ~~アナタぁ~~!!」


 悲鳴を上げて親父殿を呼ぶ母上。


 クソッ!?だ、駄目だった。


 遂に俺が転生者だとバレたか。


「どうしたぁ!!何か有ったのかぁ!?」


 母上の悲鳴を聞き付けて親父殿がすっ飛んで来た。


 嗚呼もう駄目だ俺・・・終わった。


 転生者として正体がバレた事で迫害される未来を予感し絶望した赤ん坊の俺は力が抜けた為か、ストンと腰から落ちて座り込んだ。


「アナタ見た!?み、見たでしょ?ド、ドルフが立ったのよ。」


「へっ?あぁ確かに一瞬だけど立って居たな。」


「でしょう~すご~ドルフちゃん凄いわぁ~。」


 違った母上は俺が立ち上がった事に驚き喜んだだけだった様だ。


 良かった単に家の母上は親バカだったようだ。


 逆に親父殿は、そんなハイテンションな母上にちょっと驚いて居る様だったが、ふぅ~何とか俺の正体は気付かれ無かった様だ良かった。


 しかし、今度からは注意しょう。


 身体強化魔法が使えるとしても俺は今は只の赤ん坊なのだから。


 出来るだけ赤ん坊らしく振る舞う方が無難だろう。


 ここは直ぐに立って二足歩行するのは、まだ早計と考えて身体強化しながら赤ん坊らしくハイハイ移動する方が良いかも知れない。


 そう結論着けた俺は身体強化の魔法を使いながらハイハイで移動して回る事にする。


 そして身体強化の魔法に寄るハイハイに寄って行動の範囲が広がった俺は自分が転生した此の世界の現状を更に探る事にした。


 カサカサカサ。


 身体強化の魔法を使ってハイハイで移動したら俺の思った以上に凄い速さで移動する事が出来た。


 処が俺が不快害虫のGの様な動きで高速移動式ハイハイをしながら家の中を移動して居るとタイミング悪く畑仕事が終わって家に帰って来た親父殿に出くわしてしまった。


 カサカサカサカサと親父殿に気付かす高速ハイハイで走り抜けて行く俺。


 親父殿はそんな高速ハイハイをする赤ん坊の俺を見て驚きビクッと体を震わせ挙動不審な状態に成った。


 俺は誤魔化す為に咄嗟にあざと可愛いベビースマイルを浮かべてヨチヨチ動きに切り替える。


 親父殿は自分の両目に手を当て軽く揉む様に動かすと「俺ちょっと疲れてんのかな?」と呟きながら母上の元へ「膝枕お願い~!」と叫んで甘えに向かって行った。


 危ない危ない、今度からは身体強化魔法の訓練の際には、母上だけでは無く親父殿の目にも気を付ける事にしょう。

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