第159話 マダラとキャンプ・1

No159

マダラとキャンプ・1



 翌日、目を覚ますといつもの"餌付け亭" のベッドではなく【ルインラクス】の湖の畔だった。


 今日からしばらくこの場所でのんびりとキャンプをしつつ、天装具や魔法の訓練をして過ごす。


「マダラ、おはよう....昨夜はどうだった? 特に問題はなかった?」

『うむ、静かなもんじゃったぞ。セイジロウはゆっくり休めたようじゃな。朝の食事をしたらさっそく訓練を見てやろう』


「そうだな、それじゃあ朝食の準備を始めるか」

 俺は昨夜の鍋のスープに火をかけて温めなおしつつ、少なくなった具材を足して露店で買い溜めしておいた料理をマダラの影から出してもらった。


 朝食の準備が終わり受け皿に盛り付けてマダラと朝食をとり朝の時間をゆっくりと過ごした。


△▽▽△△▽△


 朝食を食べ終わり訓練の準備が出来たらマダラに改めて【透縛鎖靭】と【黒衣透翼】の使い方を教えてもらう。

「マダラ、さっそく透縛鎖靭から教えてくれ」

『いいじゃろ、では透縛鎖靭に魔力を流し込むのじゃ』


 俺はマダラに言われた通りに腰に装備してるウォレットチェーンに似た天装具・透縛鎖靭に軽く魔力を流し込んだ。


 ちなみに、周囲の魔物の警戒はマダラの犬狼達が行ってくれている。


 魔力を流した透縛鎖靭は、外見上は特に変化はないがちゃんと魔力を纏っているのが自分で分かる。自身の体の一部のような感覚で分かる。


『ふむ、前回より滑らかに魔力を流せているようじゃのぅ。次に自分の使いやすい長さになるように念じるのじゃ。この時に必要以上に魔力を流し込まないようにするんじゃ。ただ、魔力を流せば良いと言うわけではなく、必要に応じた分だけを流すように意識するじゃぞ』


 俺は三メートルほどの長さになるように念じながら、少しずつ必要な魔力を流し込んでいった。すると、透縛鎖靭はジャラジャラと小さな音を立てながら、手元から鎖が垂れ下がっていく。


「こんな感じかな.....あまり長過ぎても短すぎてもあれだから。中距離的って言うか、魔物の接近しない距離かな」


『そうじゃな、セイジロウは近接より中遠距離で魔物と対峙するのが良いじゃろ。基本は魔法での攻撃に重きを置き、間合いが近くなれば透縛鎖靭で倒せばよいじゃろ。なら、透縛鎖靭の基本の長さを決めておけばよい。あとは、瞬時にその長さに調整出来るように訓練するんじゃ』


 一度、透縛鎖靭を元の長さに戻してからまた自分のイメージした長さにする訓練を繰り返し行った。

 やっている事は透縛鎖靭の長さを調整する地味な訓練だが、魔物との急な戦闘になった時にこの動作が早ければ早いほど自分の命を守る事に繋がる。


 マダラの能力で俺の影の中には数匹の犬狼が念のために潜んで警護してくれているが、それとこれは違う。常にこの世界では命危機が隣り合わせだ。自分が強くなる事は無駄ではない。


 それから、小一時間ほど透縛鎖靭の長さを調整する訓練は続いた。何度も何度も繰り返し行う事で俺のイメージは確固たるものなっていき、動作は滑らかに素早くなっていった。


『ふむ、そのぐらいでよいじゃろ。最初にしては上出来じゃ。やはり、血の契約をしたかいはあったようじゃな。魔力も少しずつ無駄がなくなってきておるぞ』


「そういう訓練だからな。魔力は俺にとって生命線だからな。魔力切れを起こしたら死に直結するから必死にもなるさ。それで、長さ調整の訓練はそろそろおわりか?」


 俺は透縛鎖靭を元の長さに戻す。長くするには一、二秒はかかるが元の長さに戻すのは一秒もかからない。まだ、課題はあるがとりあえずの及第点はもらえたようだ。 


『そうじゃ。そればかりをしていてはしょうがないからのぅ。基礎的な事はセイジロウが満足するまで訓練すれば良い。次は、透縛鎖靭の基本的な使い方じゃ。透縛鎖靭は持ち主の意思によって自由に操る事が出来るのは以前にも話したじゃろ?』


「あぁ、覚えてる。長さはもちろん、太さや重量、透明にも出来るんだっけ?」


『そうじゃ、じゃが厳密には透明ではなく視界から極度に認識しづらくする事が出来るじゃな。あとは、長さや太さに重量の有無。さらには、魔法を纏うことも出来るのじゃ。持ち主の練度次第で石にも宝石にでもなるのが透縛鎖靭じゃ』


 持ち主次第でか.....宝の持ち腐れにならないようにしなきゃな。


「そうする為にはどうすればいいんだ? マダラなら使い方を知っているんだろ?」


『もちろんじゃ。元はワレが使っていた訳じゃからな。だか、ワレと同じように使ったからといってそれがセイジロウの最善の使い方であるとは限らん。ワレとセイジロウでは身体的に能力的に多々違うからのぅ。自分の行動にあった使い方を独自で編み出さねばならん』


「......そうか、そりゃそうだよな。今は俺が持ち主で自分の身を守る為に訓練してるんだから」

『そうじゃ、セイジロウが持ち主で使い手なんじゃ。自身の使い方を編み出さねばならん。じゃが、急にやれと言って出来るものなら教えなど必要ないないが、それは酷と言うものじゃ。じゃから、基本の教え方をまずは身につけるのじゃ』


 俺は透縛鎖靭をイメージした戦闘状態にした。長さを三メートルほどにして鎖の太さを調整する。鎖の太さはよく車の駐車場とかで目にする通常の太さをイメージした。

『その状態からあの木に向かって鎖を鎖ならせるように打ち込むのじゃ。自分で振るうのではなく鎖を操り打ちつけるイメージをするんじゃぞ』


 マダラに言われて頭の中でイメージする。前の世界で鎖なんて扱った事などないから、多少イメージするのに時間がかかったがそれでも朧気にイメージはできた。


「いけっ! 透縛鎖靭っ!」


 と、手に持つ透縛鎖靭を上から下に木に向かって振り下ろした。すると、二十メートルほどの距離に立っていた木に向かって鎖が曲線を描きながら向かっていった。

 現状の鎖の長さでは距離が足りないが、そこのイメージで魔力を流しながら長さを変化させていった。


 すると、透縛鎖靭が鎖を長くしながら離れた場所に立っていた木の幹に打撃音を出して木の幹に傷をつけた。鎖がぶつかった場所には外皮を弾き中身が剥き出しになった木の幹が現れた。


「おおっ! かなりの威力だな!」

 と、俺は鎖が傷をつけた場所を見ながら驚きの声を出した。

『ふむ、些か動作に無駄が多いが悪くはないじゃろ。しばらくは、それを繰り返し訓練するんじゃ。魔力がなくなってきたらはすむんじゃぞ。ワレはちょっと狩りに出掛けてこよう。昼時に一度戻るから食事を用意しておくんじゃぞ』


 そう言ってマダラは湖の回りに拡がっている森の中に向かって駆けていった。


 まったく、落ち着きのない従魔だ。でも、今はマダラよりこの透縛鎖靭を訓練する方が大事だし、何よりちょっと楽しいっ!


 別に鎖を木に打ちつける快楽とか、Sっ気があるとかじゃないぞ。俺はどちらかと言うとMっ気でソフトなやつが好きなんだから! ちょっと焦らされり焦らしたりするぐらいがって言わせんなっ! 



 そのあとは、ひたすらに透縛鎖靭を操り試行錯誤をした訓練をしていった。

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