第133話 火水祭・6 フローラへの手紙

No133

火水祭・6 フローラへの手紙



 親愛なるフローラさんへ


 手紙読みました。とても嬉しかったです。私は元気に毎日を送ってます。フローラさんも元気で良かったです。


 この手紙が届く頃はすでに火水祭も終わり、ルインマスの街は日常に戻ってると思います。


 今日は火水祭から2日が経った夜です。初日はアンリエッタさんの屋敷でこれからについての話をしていたら一日が終わってしまっていました。


 話の内容はまたみんなが楽しく過ごせるような話です。上手くいけば来年のこの時期には変わったルインマスの街になってると思いますよ。


 それで、2日目の今日は冒険者ギルドで観光ラリーなるものに参加しました。これは、各ギルドが主催してる催し物です。ギルド認定の木板を提示してる露店や店舗で買い物して、売り手のサインを貰います。


 そのサイン数によってギルドでは景品が用意されていているんです。ちょっと面白そうだったので参加してます。期限が明日まであるので良い景品がもらえるように祈っていて下さいね。


 それから、フローラさんに似合いそうなドレスを買いました。と、言ってもまだ制作中なので手元にないのですが....あっ、サイズは多分大丈夫です。私が覚えてる限りのサイズの話は店員と詰めましたから。きっと似合いますよっ! それと、髪飾りも買いましたからお土産を楽しみにしていてくださいね!


 それからは漁業場で珍しい魚を買いました。切り身ですが.....しかも金貨六枚ですよ! ビックリです! マダラが買え買え五月蝿いんですよ。困った従魔ですよ、ホント.....


 明日は火水祭最終日で、海上で演舞があるそうなので凄く楽しみです。その内容はまた手紙に書きますね。


 貴女に日々会いたい気持ちでいっぱいのセイジロウより


▽△▽▽▽△△▽


 翌日、火水祭最終日の朝も普段通りで、身支度を整えたら宿の食堂で朝食を食べたら街中へと出発した。


 昨夜書いたフローラさん宛の手紙を冒険者ギルドに出しにいく。冒険者ギルドへと続くメイン通りは、陽が昇ってから数時間しか経っていないのにすでに人で溢れている。


 冒険者ギルドに行く途中の露店で、ケバブ風の食べ物を売っていたので数個程買ってマダラの影に保管した。目についた物をその場で買っておかないと売り切れになれば手に入らないのから。


 俗に言う、数量限定や期間限定販売なわけだ。用意した材料が売り切れたら店仕舞いで、次に同じ素材の同じ味の料理が食べれるとは限らない。


 前の世界とこの世界では、長期食材の保存や一定量の食材確保、定期的な生産量などの安定性は難しくて"旨かったからまた明日食べよう" と思っても食べれるものは少ない。


 なので、気になった料理、食べて旨い料理は常に多めに買っておくのが俺が出した結論だ。


 まぁ、マダラの能力あっての事だけどね。マダラにはちゃんと感謝してるよ....マジで!


 そんなこんなで冒険者ギルドに着き、並びの少ない受付に並んで数十分後に順番が回ってきた。

「おはようございます。こちらの手紙をハルジオンの街で届けてもらえますか?」

「おはようございます、手紙の配送ですね。では、配送料金をお願いします」


 すでに何通もフローラさんに出しているいるから、手慣れた感じで手続きをすませる。


 この手紙出す瞬間ってちょっと緊張するよね? 実際、恋人? 彼女? とかに手紙を出す事なんて前の世界ではほとんど無かったし.....出す方も緊張すれば受けとる方も緊張するのかな?


 そして、手紙の配送の手続きを済ませるとメイン通りへと歩き出す。

 マダラと思念で話しつつ露店を見ていく。

『マダラ、今日が火水祭の最終日だから思いっきり楽しもうな!』

『当然じゃ! 昨日食べ損ねた旨い料理をたくさん食べるんじゃ。昨日入手した魚の切り身も食べなければならんからな』


『そうだな、アンリエッタさんのとこで調理してもらうのが一番なんだけど、それだけの為に行くのも悪いからな。火水祭が終わったら行くか?』


『それでは、それまでおあずけではないか! 別に良いではないか、アンリならワレが行けば喜んで調理してくれるはずしゃぞ?』


『それはちょっと厚かましくないか? 日本人は謙虚な姿勢を大事にしてるんだぞ? 旨そうな食材が手に入ってから作ってくれなんて言えるか?』


『なにが謙虚な姿勢じゃ。セイジロウはいつも突然に訪問するではないか。それに、昼食や夕食も遠慮せずに食べておる。これがセイジロウの言う謙虚な姿勢なのか? ん?』


 クッ.....今は俺の影の中に入ってるから姿は見えないがマダラのドヤ顔が目に浮かぶ! 自分の発した言葉がブーメランのように返って来るとは....そのドヤ顔に一撃入れたい!


『なら、今後は謙虚な姿勢で昼食と夕食を断るよ。それで、マダラは満足なんだろ? せっかく旨い料理が食べれるのにマダラが謙虚な姿勢を馬鹿にするから、食事を断らなくちゃならないなんて.....仕方ないか謙虚な姿勢は大事だからな。今後は旨い料理を食べる機会が減るなー。あー、どうしよう? 露店料理が増えるなー。ハルジオンの街に戻ったらもっと減るなー』


 どうや? 旨い料理が食べれなくなるとお前も困るだろ? 俺が謙虚な姿勢を取れば食べれなくなるんだ! どやっ! まいったか!!


『それは仕方ないのぅ。なら、アンリにはそうワレから伝えておこう。ワレは別に謙虚にはこだわっておらんから、アンリには食事を所望するぞ。セイジロウは、ワレが食い終わるまで待ってるがいいぞ』


 はっ? なんでそうなるの? 別に俺は謙虚な姿勢は大事だと思うけど、そこまでじゃないよ.....


『そっ、それはちょっと酷くないか? 別にどっかの修行僧じゃ無いんだから....それにマダラだけが食べるのはズルくないか? 俺はマダラの主人だろ? 主を差し置いて従魔が料理を食べるのはどうかと思うけど?』


『ん? ワレはセイジロウに問いたではないか。それがセイジロウの謙虚な姿勢なのかと。そして、先のように答えたんじゃからそのようにすれば良かろう。それが、セイジロウの謙虚な姿勢なんじゃからのぅ』


 はっ?! クソッ! やられた.....俺は自分で自分の首を絞めていたのか....すでに最初の時点で言葉の意味に気付けなかった俺のミスだったのか....


『えっ....と、ですね。謙虚とは言っても一般的な事を言ったんですよ....はい。最初に日本人はって言ったじゃないですか? まぁ、俺も日本人だけど.....でも、友人に変な遠慮は逆に失礼かなって.....だから、まぁ食事をしながら交流を深めるべきでは....』


 はぁ.....何言ってるんだろ俺....今さら謙虚とか遠慮とか言っても遅いし、そもそもそんな事を言っていたらすぐにこの世界では淘汰される弱者になっちまうだろ。


『さっきからなんじゃ? モジモジとしおって。言いたい事はハッキリ言わんと伝わらんぞ、セイジロウ』


『.....俺は旨いものが食いたい。だから、旨い料理を作ってくれるアンリエッタさんの料理人に料理を作ってもらう!』


『ふん、最初からそう言えばいいんじゃ。下手な考えに思考を割くからドツボに嵌まるんじゃ。そうと決まればアンリの屋敷に向かうのじゃ! ついでに、露店も巡るんじゃぞ!』


 と、何やらマダラに諭されたが、この世界は前の世界じゃないんだ。自分が生きる為、苦しまない為、楽しむ為、幸せになる為には自分から行動しなきゃならないんだ。


 改めてそうマダラに教わった気がする。


△△△▽▽△△


 朝からマダラとの論争? があったが、昼過ぎまではメイン通りで露店巡りや店舗巡りをした。観光ラリーのサインも貯まったので、早めに冒険者ギルドで景品に交換した。


 交換した景品はフローラさんにプレゼントとだ! その景品の説明を聞いた時には驚いたが、その可能性を失念していただけだった。


 ギルドで景品を手に入れたあとはアンリエッタ邸に向かった。アンリエッタ邸に着くといつものように執事のシバスさんが出迎えてくれた。


「急な訪問ですみません、シバスさん」

「いえ、セイジロウ様にはお世話になってますので。して、本日はどのような用件でしょうか?」


「実は昨日、漁業場の売り市で珍しい食材を手にいたのでみんなで食べようかと思いまして」

「それはそれは、ありがとうございます。アンリエッタ様に聞いて参りますので待合室でお待ち下さい」


 と、いつものようにシバスさんの案内に従い待合室で待たせてもらう。


 今回の食材は金貨6枚もしたんだ! どんな料理でどんな味なのかが楽しみだな

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