第132話 火水祭・5

No132

火水祭・5



 【火水祭】二日目も昼を過ぎた頃、俺はメイン通りを歩く人のある言葉を聞き、漁業場に来ていた。


『マダラ、売り市には間に合ったかな?』

『話を聞いた通りなら間に合うじゃろ。それにしても、捕れたての魚介類を売りに出すとは姑息な....ワレが全部食ってやる』


『いや、全部は無理だから....どうして食に関すると極端になるの?』


『なんじゃ、セイジロウは旨いものを食したくないのか? 魚や貝、カニや肉があるではないか。ワレはずいぶんと長いあいだ食と離れていたからのぅ。旨いものが食べたいんじゃよ』


 まぁ、言ってる事は分かるけど.....それにしても食いしん坊過ぎじゃね?


『俺もその意見には賛成だからとりあえず旨そうな食材は買うけど、全部は買えないからな』

『分かっておるわ。まったくもう少し男の器量を見せようとは思わんのか? そんな器の小ささでは好いてる女に愛想をつかされるぞ』


 大きなお世話だよっ! フローラさんはそんな人じゃないし....そんな人じゃないよね? 俺は、小さい男じゃないよ?


 と、マダラと思念をしつつも漁業場にある気になる食材を見て歩く。

 漁業場をしばらく歩くと人が集まってる一画を発見した。多分あれが、話に聞いた売り市だろうと思った。


 その一画はずいぶんと人だかりが出来ていた。漁業関係らしい漁師や買い付けに来た商人、街の住人らしい一般人、冒険者らしき人達もいる。


 俺は、人波を掻き分けながら前に進んだ。視界が開けるとそこには巨大な魚が横倒しになっていた。黄色の体表をして長く尖った角? が、頭部から生えている巨大魚だった。


 俺の隣に立つ肌が浅黒い男性に話しかけた。

「あの、これから何が始まるんですか?」

「なんだ、あんちゃん? 知らずにきたのか? 今日の売り市の目玉商品の解体だ。部位ごとに解体してその場で売り捌くんだ。で、捌く魚があれだな」


 と、その男性は顎をしゃくって黄色い魚を示した。


「あれは、なんていう魚なんですか?」

「あれは、フラームロギヌスって魚だな。焼いてよし、煮てよしで味はそこらの魚なんか目じゃない程に旨い。だが、ここらじゃ滅多に捕れない魚でな。たまたま、今日帰ってきた船が捕ったらしくて売り市に卸したんだ」


「そうなんですか」

『セイジロウ、あれを所望する! 有り金を叩いて買うのじゃ! よいなっ!』

 と、マダラからの催促思念が頭に響いた。


『買うのは良いけど、持ち金には限度があるからその範囲ならいいよ。見た目はちょっとあれだけど旨いっていうんなら食べてみたいし』

『ふむ、ではミッションスタートじゃ!』


 そんな言葉、どこで覚えたのっ!?


「お集まりの皆さん! それでは売り市を開催します! 奮って参加して下さい!」

 司会進行の男性が声を上げて売り市の開催を宣言した。


「まずは、頭からですね! 金額は銀貨5枚からです!」

 どうやらオークション方式らしい。群衆から次々に声が上がりついには金貨数枚までに上がった。前の世界なら数百万だ。


「ではそちらの男性が獲得となります! おめでとうございます!.....続きまして腹身となります! こちらは四分割されまして、一分割小金貨一枚からです!」


『セイジロウっ! 身じゃぞっ! 声を上げんか!』

『ちょっ、ちょっと待って! 小金貨からだぜ! 高過ぎだろ』


『金なら持っておろうが! ワレの影の中にも入っておるぞ! それを使えば良かろうが!』

『それは、いざという時の為の金だから! しかも、すでに金貨二枚まで上がってるし』

 さらにマダラと思念をしてる間にも値は上がっていき、ついには金貨5枚を越えていった。


『セイジロウ、早くするのじゃ! 金ぐらいならワレが魔物を狩ってくれば稼げるじゃろ! あれは今しか手に入らんのじゃぞ!』

『うぅ.....わかったよ! あとでしっかり働いてもらうからな!』


「はいっ! 金貨6枚っ!」

「金貨6枚出ました! 他にいませんか? 出ませんか?....では、獲得となります。他の上位三名の方も獲得となります。獲得金額が高い人から四つの部位から一つを選んで下さいね!」


 と、かなりの無理をして魚の切り身を手に入れた。選んだ切り身は薄い桜色をしていて見た目は旨そうにみえる。切り分けた身はかなりの量があり数キロはあるかと思うほど大きかった。


 それを綺麗な布に包み受けとると人混みから離れマダラの影の中に保管した。


『金貨6枚の食材って.....ヤバいな。マダラ、勝手に食べるなよ。あとでちゃんと食べさせてやるから』

『わかっておる。良くやったぞ、セイジロウ。本音を言えば丸ごとほしいが、まぁ良かろう。食べるのはアンリの屋敷で良いじゃろ。鉄板焼きで調理したら旨いはずじゃ』


『そうだな、魚料理に詳しいマレルさんなら上手く調理してくれるだろうし。さて、陽も傾いてきたから宿に戻るか! 帰り道も何か旨そうなものや面白そうな店があったら寄って帰ろうか』


 漁業場の売り市からの帰り道では、フローラさんに似合いそうな髪飾りが売っていたのでそれを買って宿に帰った。


 エヘヘ....フローラさんに似合いそう髪飾りが手に入って良かったな! きっと似合うだろうな...フローラさん、元気かな? そろそろフローラさんの手紙が届いてもいい頃なんだけど....冒険者ギルドに寄ってからかえろうかな。もしかしたら、手紙が届いてるかもしれないしっ!!

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