第131話 火水祭・4

No131

火水祭・4



 俺は人混み溢れるメイン通りを練り歩きながら、珍しい料理や食材を扱って露店や気になるお店がないかと、まるで子供のようにワクワクしながら歩いている。


 まぁ、子供に指差された時は軽いショックを受けたけど.....ね。


 俺はエールと串焼き肉の片手にメイン通りを歩くと面白そうな露店を見つけ寄ってみた。


 ちなみに、串焼き肉は新しく見つけた露店で買ったもの。肉汁溢れる肉に塩と胡椒とハーブで味付けされていて冷たいエールとの相性は最高だ。


「どうもー、その浮かんでる物は何ですか?」

「らっしゃいっ! あんたは旅人かい? こりゃ、【浮遊板】に景品を乗せた【浮遊取り】だ!」


 俺は露店主にその浮遊板と浮遊取りについて話を聞いた。

 その空中に浮く板の底には【浮遊石】が取り付けられていて、浮遊石に魔力を注ぐと魔力量や大きさによって滞空する不思議な石または鉱物だと説明してくれた。


 その浮遊板に木の棒を垂直に取りつけて、蝋で塗り固められた輪縄を投げて浮遊板を取る遊び浮遊取りだと話した。


 へぇ、要は空飛ぶ輪投げ取りなわけだ。さすがは異世界だな。ちょっと面白いそうだな。


「店主さん、やらせてもらえますか?」

「おっ? 興味を持ったみたいだな。輪縄は五つだ。浮遊板は上下左右にユラユラ動くからしっかり狙えよ!」


 俺は店主に代金を払い輪縄を五つ受け取る。そして、浮遊板に取り付けられてる木の棒に狙いを定め投げる。


 ヒョイッっ!  スカッ.....  ヒョイッっ!  スカッ......  ヒョイッっ!  スカッ.......


 くぅ~~~、ノーコンなのか浮遊板が巧みなのか分からんがあと二つしか輪縄がない。


「店主さん、コツとかありませんか? 男としてさすがに一つも取れないのは恥ですから、コツを教えてください!」


「コツを教わるのは恥じゃないのかよっ! まぁ、良いけどな。まずは、浮遊板の動きを読むんだ。上下左右に動くと言ってもその動きは緩慢だ。なら、先を読むのは難しくない。さらに、下から上に上がってくる浮遊板は木の棒全体が見えるから狙いやすい。ここまで教えたんだしっかり取れよ!」


 よしっ! まずは獲物を探す......あの浮遊板はちょうど浮かび上がって来てるな....


 そりゃあっ! ヒョイッっ!  スカッ.....


 そこで、左に動くか普通っ! なんと読みづらいんだ、クソッ! あと一つか.....

 落ち着くんだ、俺。やれば出来る、やれば出来る。諦めたらそこで試合終了だとタプタプ先生が言っていたじゃないか。


 最後の一投にすべてをかける! いくぞっ!

 ヒョイッ!   スカッっ........


「ガハハハハっ! あんた、センス無いなっ! ガハハハ!」

 店主は大爆笑だ。別にセンスとかは関係ないんじゃないかな.....ただ、ちょっと読みが甘くて少しだけ不器用だなだけだから。輪投げって以外と難しいんだよ.....


「はぁ....どうやら私には運が無かったようです。店主さん、観光ラリーのサイン下さい」

「ワハハ....あんな真剣に投げて一つも取れないんじゃ可愛そうだから、コレをあんたにやるよ。しっかり練習してまたいつか挑戦してくれよ!」


 俺は露店主から浮遊板と輪縄を受け取った。コレ、貰っていいのか?


「これは、貰ってもいいんですか? 魔導具なんじゃないんですか?」


「そんな大層なもんじゃない。ただ、木の板に小さな浮遊石を嵌めただけだ。俺の手作りだし、材料も大した額じゃねえよ。あんたには笑わしてもらったし、何より真剣さが気に入った。だから、持ってけ! 来年も俺は店を出すからその時の挑戦を待ってるぜ!」


 なんとっ! 浮遊板は魔導具じゃなかったのか....おっさんの手作りとか嬉しくないけど、再戦はしたいからな.....


「分かりました、来年に向けて練習しましょう! 私は冒険者のセイジロウです」

「おれは、フライルだ! また、来年な!」

 と、握手を交わして観光ラリーのサインを貰ってからまたメイン通りを歩き始めた。



△▽△△△▽▽△


しばらく、露店で買い食いや買い溜めをしながら観光ラリーのサインを増やしていく。そして、先日来た服飾店を見るとチャイナドレスを来た三人組がチラシ配りをしつつ客引きをしていた。


「いらっしゃいませー! 昨日から発売した新作ドレスでーす!」


「いらっしゃいませっ! 火水祭期間中は、二割引きで販売してます! 新作のチルインドレスですっ!」


「いらっしゃいませ! ルインマスでしか手に入らないルインドレスですよ! 店内で受け付けます! ご覧ください!」


 と先日、アンリエッタ邸の執事シバスさんと訪れて、その時に話したチャイナドレスを着ながら宣伝販売をしていた。


 俺はその三人組の一人に声をかけた。

「それ、似合ってますね!」

「ありがとうござっ....セイジロウさんっ! お客さんかと思ったわ! 今日はどうしたの?」

 声をかけたのはサリナさんだ。


「祭りを散策してたらサリナさん達が見えたので声をかけたんですよ。どうやらその着てるドレスの宣伝をしてるようですね」


「そうなのっ! どう? 似合う?」

 サリナさんはその場でクルッと一回転してポージングをとった。その時にドレスに入ってるスリットから生足が見えて目を奪われたが、すぐに視線をドレス全体に戻し観察した。


「はい、良く似合ってますよ。それと、髪飾りも素敵ですね。細工屋さんで手に入れたのですか?」

「えへへっ! そうなのよ。セイジロウさんが、紹介してくれた細工屋さんで買ったのっ! 結構可愛いのがあってなかなかのお店だったのよ! あっちのミシェルの扇子とルナのブローチは作ってもらったのよ!」


 ほぅ、少し距離が離れてるからどんな物かは分からないが喜んで話してる感じからして良かったんだろうな....


「それは、良かったですね。シャリーナさんは店内にいるんですか?」

「居るわよっ! 多分、接客か発注書類を整理してると思うわ」


「そうですか、少し寄っていきますね」

 と、サリナさんと話をしたあとに店内へと入った。


 扉に備え付けられた鈴の音が響き来店を知らせた。

「いっしゃいませ!」

「私はセイジロウといいます。シャリーナさんはいらっしゃいますか?」

 と、来店の挨拶をした女性店員に話しかけた。


「はい、呼んで参りますので少々お待ち下さい」

 女性店員は足早に店の奥へといき、少しして女性店員とシャリーナさんが現れた。


「セイジロウさん、いらっしゃい! どう、このドレス?」

 顔を合わすなり自分が着ているドレスを魅せるようにポージングする。


 うん、豊満な胸が激しく強調し細い腰ののクビレから伸びる長い脚。スタイルがいい女性がチャイナドレスを着るとそれだけで犯罪な気がするほど良く似合ってる。


「大変良く似合ってますよ。私には刺激が強いですね。手違いが起きないように話は手短にしなければいけますせん」


「ふふふ、その手違いが起こるほど魅力的なのかしら? さすがに昼間は悪いから夜なら相手に出来るわよ?」


「ご冗談を。私なんかよりもっと若く有望な方を相手にした方が良いですよ」

「別にセイジロウさんだって有望よ。しかも、かなりね。まぁ、この話はまたいづれしましょう。今日の用件は何かしら?」


「そのドレスを見てお土産にほしいと思ったんですよ。ルインドレスでしたよね?」

「えぇ、ルインドレスと名付けたわ。すこし安直だけど呼びやすいし、街の名前も入ってるから。それで、お土産? このドレスをお土産にする女性がセイジロウさんの近くにいるのね?」

 と、シャリーナさんは探るような目線を俺に向けてきた。


「はい。外の三人が着ていて良さそうだったのと、この街でしか手に入らないドレスですから」

「何よ、惚れた女性がいるの? それとも手を付けた女性かしら?」


「まだ、手は出してませんよ。唾は付けましたが。それより、ドレスは売っていただけますか?」


「(なによ、さらっと言っちゃって! 人の気も知らないでまったく!)......別に売るのは構わないけど出来れば身体測定をしたいのだけど.....その女性のスタイルはわかるかしら?」


「そうですね、背丈はシャリーナさんと同じぐらいで、胸はシャリーナさんより少し小さいですかね。腰回りはシャリーナさんより少し細く.....って、なんで睨むんですか?」


「べつにっ.....で、腰下はどうなのよ!?」

 それから、シャリーナさんの体型を元にフローラさんのドレスを依頼した。正確なサイズが分からないので気持ち大きめに作ってもらうようにしてもらった。


「今はそれなりにドレスの注文が入ってるから半月程待ってもらう事になるけど良いかしら?」

「はい、それで大丈夫です。代金は先払いしときますね」

 と、代金を払いシャリーナさんに観光ラリーのサインをもらってメイン通りへとまた歩きだした。

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