第134話 火水祭・7

No134

火水祭・7



 アンリエッタ邸に着き待合室でメイドのメイリーンさんが用意したくれた紅茶と焼き菓子をつまみながら待っていると、部屋の扉がノックされて声を出すとアンリエッタさんが入ってきた。


 アンリエッタさんとの簡単な挨拶と急な訪問の謝罪をしてから本題に入った。

「セイジロウさん、シバスに聞きましたけど珍しい食材を手にいれたとか?」


「はい、昨日メイン通りで観光ラリーというギルド主催の催し物を楽しんでる時に耳にした、漁業場での売り市に参加したんです。その時に手に入れた食材です」


「まぁ、売り市ですかっ! あれは大変盛り上がるのですよね! わたしも何度か参加した事があるんですけど競り落とすのが楽しいのです!」


「そうですね、私も同感です。楽しかったですよ! マダラなんて必死に買え買え言ってましたから」

『おい、セイジロウ。なんか小馬鹿にされてるような気がするんじゃが? はよ本題にはいらんか!』


 と、俺とアンリエッタさんにマダラが思念を飛ばした。それを聞いたアンリエッタさんはクスクスと笑い、来年はマダラと参加したいと笑みを浮かべて言った。


「分かったよ、マダラ。......それで手に入れた食材が、フラームロギヌスって魚の切り身なんですが聞いた事ありますか?」

「えぇ、わりと珍しい魚ですね。年に数匹捕れれば良いと言われる高級魚ですね。それが、手に入ったんですね?」


「はい、かなり高かったですよ.....普通に焼いて食べても良いんですが、食事はみんなで食べた方が旨いのと、調理の仕方があまり思い浮かばなくてアンリエッタさんのとこに来たんです」


「そうなんですね、なら料理人に調理させましょう。今夜の夕食は裏庭に鉄板焼きを用意させます。火水祭の海上演舞が観てから食事にしましょうか。セイジロウさんも海上演舞を観に行かれるのですよね?」


「はい、すこししたら向かおうと思ってます」

「なら、一緒に向かいましょう。すでに、場所は押さえてありますから」


 おおっ! ラッキーっ! 火水祭の海上演舞は祭りの目玉で混むから遠目からしか見えないと思ってたけど、アンリエッタさんについていけば近場で観れるかもしれないな....


「ありがとうございます。お言葉に甘えてご同行させてください」


 この後、フラームロギヌスの切り身を厨房に届けてもらい夕食の下準備に回してもらった。それから、少しして近くの浜辺へとアンリエッタさん達と向かった。



▽△▽▽▽△△▽


 俺とアンリエッタさん、執事のシバスさんとメイドのメイリーンさんとで近くの浜辺へと来ていた。すでに、陽が傾き始め浜辺沿いの篝火は灯り、さらに空は赤みを指し始めていた。


 俺は前方に見える海上の船団を観ていた。すでに十隻ほどの大きな船が配置を終えて海上演舞の開始を待っていた。


 どこか落ち着かない胸のワクワク感を誤魔化すように辺りを見渡すと、大勢の人だかりが出来ていて、子供のようにソワソワしてるのは俺だけじゃなかった。そんな安堵をしてると突然船の一隻から火の玉が打ち上げられた。


 その光景は前の世界の打ち上げ花火を思い出すが、懐かしく感じる打ち上げ音は聞こえず一定の高さに上がった火の玉は自然と消えてしまった。


 一体なんだったのかと、疑問に思った瞬間、海上に停泊してる十隻の船から魔法放たれた。


 鳥や狼、兎や馬などといった炎や水で形作りられた魔法が浜辺で観てる人達に向かって放たれたがたどり着く事なく途中で霧散した。


 さらに、上空に向かって炎や水の魔法が打ち上がり弾ける度に花の模様や幾何学的な模様、なかには魚の模様やカニや海老、貝などの模様が上空で形作られた。


 打ち上げの音は聞こえないが、上空で魔法が弾ける音はまるで夏祭りの花火大会のようだった。


 光魔法が打ち上がり上空で弾けるとキラキラと光が辺り一面に降り注ぐ光景は圧巻だった。

 そんな風に魔法の打ち上げを観ていると、視界の端から何かが無数に飛び立つのが見えた。


 そのなにかを目で追うと、飛び立ったのは人だった。数十人が空を縦横無尽に飛び回った後は上空で編隊飛行をおこなった。


 まるで、航空ショーを観てるみたいだが飛んでるのはどう観ても人だった。さらには、飛行しながら魔法を放ち上空に花を咲かせていく。


 そんな目を奪われてる隙に海上では船の数が減っていた。次第に空を飛ぶ人がいなくなり一時辺りは静まり返った。


 が、すぐに海上では異変が起こった。目の前に広がる海が盛り上がっていき水龍が現れた。


 その瞬間、辺りは悲鳴やら怒号やらの声が聞こえ始めていた。俺はすぐに立ち上がると隣で寝転がっているマダラに声をかけた。

「マダラッ! すぐに警戒態勢だ! アンリエッタさん達を守りつつこの場から離れるんだ!」


 俺は突然の出来事のわりには冷静に指示が出せたと思っていた。目の前の海から水龍が現れても腰を抜かさずに指示が出せた事に。

 だが、冷静だったのは俺だけじゃなかった。

「セイジロウさん、大丈夫ですよ。あれも演舞の一部です。水龍は動いてませんよ」


「へっ?」

 俺は間抜けな声を出しながら海上に現れた水龍を見つめた。


『しっかりせんか、セイジロウ。ワレが寝転がっているのが何よりの証拠じゃ。危機があれはすぐに思念を飛ばしておるわ』


 言われて見ればそうだ。あんな水龍が間近で現れたのに一番最初に動いたのは俺だった。普段だったら最初に反応を示すのはいつもマダラだったはずだ。俺が動いてるのに隣でマダラが寝転がっているはずがない。


「....あれはいったい何ですか? あれも魔法なんですか?」

 俺の口から自然とでた問いに答えたのは、隣に座るアンリエッタさんだった。


「あれは水魔法です。しかも、マーマン種の方達の水魔法ですね」


 それを耳で聞きながら海上の水龍を観る。気づけば最初の騒ぎはおさまり始めていた。多分、俺のような問いかけをした人がアンリエッタさんのように答えてから説明をしたんだろう。


 すでに、空の色は夕暮れの色模様に変わっていて周辺の空間は幻想的になっていた。それに、今だに海上に水龍は鎌首を出したままで動きを見せていなかった。


 しかし、その時間もすぐに終わりを告げた。航空ショーさながらのパフォーマンスをしていた空飛ぶ人が水龍に向かって魔法を放った。赤く燃える火の玉の乱舞が水龍へと叩きこまれていった。


 空飛ぶ人は、縦横無尽に飛び回り水龍とのすれ違い様に火魔法放つ。水龍は被弾しつつも海上を動きを回り火魔法を回避しながら水弾やら水鞭、水流を放ち空飛ぶ人達を迎撃していった。


 その光景はまるでファンタジーだった。


 いや、異世界でファンタジーな世界に来てるのは知ってるし理解してるけど、水龍と空飛ぶ人が魔法合戦をしてたらファンタジーだと思うじゃん。


 まるで、大スクリーンで鮮明なファンタジー映画を観てるようだ。


 そんな魔法合戦もクライマックスにはいり、空飛ぶ人達が上空の一ヶ所に集まり火魔法の準備に入っていた。


 その火魔法は徐々に大きくなり数メートルほどの巨大な火の玉になっていた。しかも、それだけではなかった。


 巨大な火の玉が膨れ上がった瞬間、巨大な火の玉は火竜になった。その竜は水龍のような蛇型ではなく、西洋竜の形をしていた。火竜は翼を大きく広げると一度上空へと昇ってから水龍へと突撃していった。


 水龍は上空から向かってくる火竜に水のブレスを放ったが、火竜を体を旋回させて水龍のブレスを交わし水龍へと突貫した。


 スバアァァァァンンっ!


 そんな激しい音と水柱が立ち上がると周りの観衆は歓喜の声を上げて空飛ぶ人達に手を振っていた。


 手を振られた空飛ぶ人は上空で観衆に向けて手を振り、数十発の火魔法を空に放ち炎の花を咲かせて街の端へと飛んでいった。


 これが本場のマジックショーっかと、俺は納得し余韻に浸かっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る