第125話 服飾師レイリーン

No125

服飾師レイリーン



 アンリエッタ邸で執事のシバスさんにマレアナレアの糸束を見せると、アンリエッタさんご贔屓の服飾師を紹介してもらえる事になった。アンリエッタ邸で昼食を食べた後にその服飾師のもとへと、俺とマダラ、シバスさんは馬車で向かった。


 ちなみにマダラは俺の影の中に入ってもらってる。


 アンリエッタ邸から馬車に乗りルインマスの街中に向かう。しばらくすると一件の店に到着した。馬車を降りて着いた店の外観を見ると、それなりの上品な造りをした建物だった。


「セイジロウ様、こちらが服飾店でございます。では、参りましょう」

 と、執事のシバスさんの後について店内に入った。


 扉に備えつけられた鈴がカラーンッと小気味良い音を鳴らし、俺達の来客を知らせた。


「いらっしゃませ!」

 と、身綺麗な女性が挨拶をしてきた。


「レイリーンさん、お久しぶりでございます。アンリエッタ様が主、シバスでございます」

「わかってますよ、シバスさん。知らない仲じゃ無いのですから、もう少し楽な挨拶をしませんか。....そちらの方は?」


「こちらはセイジロウ様です。アンリエッタ様のご友人になります」

 と、シバスさんから紹介された。


「アンリちゃんの....初めまして、セイジロウさん。わたしは、レイリーンです。服飾師をしてます。お見知りおきを」


 レイリーンさんの見た目は二十代前半から二十代後半に見える。鮮やかな黄色の髪を伸ばし、青紫色のヒラリとした服を身につけている。ウエスト部分に深い紫色の巻きつけ、腰の細さが強調されてる。スタイルは、女性らしく程よい胸に細い腰、ヒラリとした服の裾から見える生足は魅力的だ。


「こちらこそ、初めまして。セイジロウと言います。よろしくお願いします」


 互いの自己紹介が終わるとレイリーンさんがシバスさんに尋ねた。


「それで、今日は服の注文ですか?」

「はい、そうでございます。ですが、素材はこちらの糸を使ってもらえますでしょうか?」

 シバスさんは俺が渡したマレアナレアの糸束が入った袋をレイリーンさんに手渡した。


「.....拝見しますね」

 と、レイリーンさんはシバスさんから受け取った袋を近くのテーブルに置き中身を確認すると、すぐに驚きの表情になった。それからすぐに真剣な顔つきになりマレアナレアの糸を調べ始めた。


 俺とシバスさんは手持ちぶさたになると、レイリーンさんの店を簡単に説明してもらいつつ、店内に飾られた服を見てレイリーンさんの調べが終わるのをまった。


 十数分がたった頃にレイリーンさんが申し訳なさそうに話しかけてきた。

「せ、セイジロウさん、シバスさん。お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。ずいぶんと上質な糸でしたので....その...」


「大丈夫ですよ。私も店内の服をじっくりと拝見できましたから」

「わたしに気遣いは無用です」

 と、俺とシバスさんは何でもないとレイリーンさんにいった。


 レイリーンさんがマレアナレアの糸を見ている間に俺の方もレイリーンさんの作った服を見てその技術の高さを確認できた。


 この世界には、機織り機やミシンなどの機械は存在して無いのに服の縫い目は均等に縫われていた。失礼ながら指で服を摘まみ軽く引っ張りもしたがほつれたり、緩みが出たりもしなかった。


「ありがとうございます。それで、こちらの糸について少し話を聞かせてもらえますか?」

「では、私から説明しましょう。この話を聞いたら私からのお願いを聞いてもらいたいのです」

 俺の言葉のお願いの部分に反応したレイリーンさんだったが、そのまま今は流し客室へと案内してくれた。どうやら、腰を落ち着けて話を聞くようだ。


 ちなみに、他の店員さんが店番をしているので店の開店の邪魔はしていない。


 レイリーンさんに案内された客室のソファに俺とシバスさんは腰掛け、女性店員が用意した紅茶と焼き菓子で一息ついてから、話の本題に入った。


「では、わたしから聞きたいのはどちらでこの糸を入手したのですか?」

 口火を切ったのはレイリーンさんからだ。


「その糸は私が依頼を出して入手しました」

 それに答える俺。こういう相手の内を探り合う話はわりと好きだから楽しんでいきたいな。


「シバスさんじゃなくセイジロウさんがですか?」

「はい、そうです。もとは私がシバスさんに渡したものですから。ちなみにですが、まだありますよ、この糸」

 俺はシバスさんの隣に置いてある袋を指差しながら言った。


「っ!!....売って頂くことは可能ですか? 売って頂く糸の量に制限はありますか!?」

 と、少し身を乗り出しながら質問をしてきた。その時にチラッと胸元がプルンと揺れたのを俺は見逃さなかった。


 ブラジャーがないから、少し激しく動くと胸が揺れ動くんだよね。プルンっだって! 誰だよ、ブラジャーなんで発明したの? 前の世界でブラジャーが無かったら..........と、妙な考えは今は無しで。


「売ることは可能ですし、私が持ってる範囲内でしたら制限はありません。が、私のお願いを聞いてくれたら、と言葉がつきますよ」


「やはり、そうですよね。簡単には売って下さらないと思ってました。では、そのお話を聞かせてもらえますか?」


 ふぅ、ようやく俺の本題だな。水着を作る為に頑張りますかね!


「では、お話しします。私のお願いは水を弾く服を作ってもらう事です。私が持っている糸、マレアナレアの糸と言います。この糸は水中に生息する魔物の糸です。水を弾く糸ですね。この糸を使った衣服の作製を頼みたいのですよ」


「水を弾く服ですか......」

 レイリーンさんが腕を組み小さな握りこぶしを顎にあてながら考えるポーズをとった。

 話を聞く人はみんなここで考えるんだよなぁ.....そんなに水着が不思議なのかな?俺が生まれた時にはすでにあったから、それが普通だと思ったけど.....水着がない世界から見たらこういう反応になるんだな。


 水着を始めて作った人もこんな感じを体験したのかな?


「その、水を弾く服の用途は何でしょうか? わたしには少し理解に苦しむと言うか......作れない事はないと思いますけど理由を知りたいのです」


 まぁ、それは確かに思い付くよね。わざわざ、上質な糸を使ってまで水を弾く服をなぜ作るのか?

 良いでしょう。しっかりと説明しましょう!


「まず、水を弾く服が出来れば水に携わる仕事に就いてる人に喜ばれます。特に船乗りや漁師達がこれにあたります」


 レイリーンさんとシバスさんが俺の話に傾聴しだした。

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