第124話 進み始めた水着制作
No124
進み始めた水着製作
【火水祭】前日の今日は、いつも通りの目覚めだった。身支度を整えて、"餌付け亭" の食堂に向かう。
「おはようございます、ロゼッタさん」
「おはようさんだね! 朝食を用意するから待ってな!」
と、挨拶もそこそこに足早に動いていた。いつもなら空席がちらほらあるのだが、見回してもほとんどの席が埋まっていた。俺は、壁際の奥のテーブル席に座り朝食を待つ間に今日の予定を頭の中で考える。
今日は、アンリエッタ邸に行ってマレアナレアの糸を見てもらい、腕の良い服飾師を紹介してもらう。
その後は、水着の製作が出来ないかの話し合いが出来れば良いな。
他に忘れてる事は合ったかな?
「はいっ、お待ちどうだよ! 今日もしっかり食べるんだよ! それから、今夜の夕食からエールサーバーの魔導具を使うから夜はウチで飲みなっ!」
おぉ! ついに冷たいエールが飲めるようになったのかっ!
「ついに、解禁ですかっ! 祭り前に間に合って良かったですね」
「そうだねっ! どうやら、錬金術ギルドと魔導具師さんが頑張ったらしいよ。おかげで、優良飲食店には祭り前に手に入ったようだよ。あとは、随時貸し出しをしたり、販売をするみたいだよっ!」
「そうなんですね。なら、祭りの間は冷たいエールが街中で飲めそうですね」
「そうさねっ! 暑い日々が続いてるからエールがバカ売れさねっ! さっ、しっかり食べて働いて汗を流しな。冷たいエールの為にっ!」
と、ご機嫌な様子でロゼッタさんは仕事に戻っていった。
魔導具師って言ったらアンリエッタさんかな? アンリエッタさんがエールサーバーの量産に手を貸したのか、量産する方法を手に入れたのか.....でも、ウェットグレイトードの舌はどうやって手に入れたんだろ? 討伐依頼でも出したのかな?
まぁ、アンリエッタ邸に行った時に話を聞けばいいか。では、いただきますっ!
朝食を食べた後は身支度を整えて宿を出た。俺とマダラは火水祭の影響で人が増えたメイン通りを歩く。
『人が多いな....マダラ、影に入るか?』
『ふむ、そうじゃな。.......しかし、ずいぶんな人の数じゃな』
『そうだな。見た感じ、冒険者達が多いな。たぶん商人達の護衛依頼とかを受けてルインマスにやってきたんだろうな』
『明日が祭りじゃったな。まだ、人は増えそうじゃの。早めに露店の肉や魚介類を買わねば無くなってしまうな。急ぐのじゃ、セイジロウ』
マダラは俺の影の中に入り露店の品を買えと言ってきたが、露店の店主もそれなりに考えて仕入れをしてるわけだから売り切れは起こらないと思いながらも、足早に露店に向かって目当ての串焼き肉と魚介類を買った。
アンリエッタ邸に着くと執事のシバスさんが応接室へと案内してくれた。メイドのメイリーンさんが紅茶と焼き菓子を用意してくれたのでいただいた。
しばらくして、アンリエッタさんが応接室に入ってきたがその姿には覇気がなく目の下にはうっすらと隈が出来ていた。
「アンリエッタさん? ずいぶんと疲れた様子ですが何かあったのですか?」
「みっともない姿を見せてしまってごめんなさい。ちょっと魔導具作りが忙しくなってまして」
「それって、エールサーバーの魔導具ですか?」
「えぇ、そうです。火水祭に向けて追い込み製作をしてまして.....ですが、ある程度は目処が立ちましたから」
アンリエッタさんはメイリーンさんが用意した紅茶を飲んで小さく息をはいた。その姿を見ると精神的にも体力的にも疲れが出てるのがわかる。
前の世界でも仕事の忙しい日々が続いて、ふっとした瞬間に小さな溜め息が出る仕草が今のアンリエッタさんと一緒だ。
俺はマダラに思念でちょっとお願いを頼んでみた。
『マダラ、裏庭でアンリエッタさんと昼ぐらいまで休憩しないか?』
『別にワレは良いが....アンリを気遣っているのか? (その気遣いがもう少し別に働かんのかのぅ)』
『ずいぶんと精神的、体力的に消耗してるからマダラと一緒に休めば良くなるかなって』
『ワレは別に構わんぞ。昼食はいただくがな』
俺はマダラと思念で話した事をアンリエッタさんに伝えた。
「本当ですかっ! はい、裏庭で一緒にマダラちゃんと休みます!」
『なら、アンリの影に入るから裏庭に行くんじゃ』
「マダラちゃんの声が聞こえるっ! エヘヘ、一緒に休もうねぇ!」
と、応接室を喜びながら出ていった。
俺と執事のシバスさんが応接室に取り残されて互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。
「ハハ...まぁ、元気が出て良かったですね」
「主が失礼しました。それと、お気遣いしていただきありがとうございます。ここ数日は無理をしていましたので」
「あの姿を見たら分かります。昼まで休めば多少は良くなりますよ。火水祭の間は、製作を休むのですよね?」
「はい、そう言っておりました。忙しいのは今日の夜までだと思います」
「なら、大丈夫そうですね。それで、実は見てもらいたいものが.....あっ!」
ここでマレアナレアの糸がマダラの影の中だと気がついた。
『マダラっ! 聞こえるかマダラ?』
『なんじゃ、うるさいのっ! 静かに話せんのか、アンリが起きてしまうではないか!』
『あっ、ごめん。実はマダラの影の中にマレアナレアの糸が仕舞ってあるあるだろ? それ、俺の影から取り出せないかな?』
『取り出せるぞ、セイジロウの影にはワレの犬狼が入っておるからな。犬狼をバイパスして出し入れは可能じゃ。まぁ、今はワレは出してやろう』
と、俺の足元の影からマレアナレアの糸束が現れた。俺はマダラに礼を言ってシバスさんに糸を見せた。
あれ? 俺の思念ってマダラにしか繋がってないよな...俺の思念でアンリエッタさんは起きないはずだけど.....
マレアナレアの糸束を見たシバスさんは、少し驚いた感じで話しかけてきた。
「セイジロウ様、こちらの糸はどちらで入手したのですか? 見た目からして上質な糸かと」
「その糸が以前、アンリエッタさんに話をしていた水を弾く服の素材となる糸ですよ。先日、マーマン種のスレイブさんに捕ってきたもらいました」
「マーマン種....浜辺の時の方ですね。そうですか、あの方に」
と、数秒後には思い出したシバスさん。さすがに俺とは違うらしい。普通は忘れちゃうよね?
「はい。その糸を使って服を作ろうと思いまして....アンリエッタさんに腕の良い服飾師を紹介してもらおうと思ったのが今日来た理由なんです」
「そうでしたか......少し手に触って拝見してもよろしいですか?」
俺は手に持つマレアナレアの糸束をシバスさんに手渡し、シバスさんはマレアナレアの糸を確認し始めた。
俺は糸束を確認するシバスさんを横目に少し冷めた紅茶と焼き菓子を食べながらシバスさんの回答を待った。それから少ししてシバスさんが話をかけてきた。
「ありがとうございます。こちらの糸はやはり上質なものです。手触り、色合いともに素晴らしい糸です。これで衣服を作られたら結構なものが出来るでしょう」
期待以上の言葉がシバスさんから伝えられ、俺は嬉しさを隠しつつ冷静に話しかけた。
「それほどですか....シバスさんは腕の良い服飾師さんに心当たりはありますか? 良ければ紹介してもらえませんか?」
「アンリエッタ様が贔屓にしてる方でしたらご紹介できます。ご紹介する代わりにこの糸を一着分譲っていただけませんか? この糸でアンリエッタ様の衣服を作って差し上げたいのです」
それぐらいなら全然平気っ! まだ、たくさんの糸束があるからね。
「もちろんです。では、よろしくお願いします」
と、シバスさんに服飾師を紹介してもらった。
それから、昼食まではシバスさんに紙とペンを用意してもらい簡単な水着のデザイン画を描いた。
昼食時は、裏庭でアンリエッタさんと昼食を食べ応接室でシバスさんに話した事をアンリエッタさんに伝えた。
アンリエッタさんに実物のマレアナレアの糸束を見せたら、アンリエッタさんは魔導具研究に使用したいと言ってきたので、マレアナレアの糸束を少し分け渡した。
研究で何か分かったら教えてくれると言ってくれた。
その後、アンリエッタさんはエールサーバーの魔導具製作に、俺はシバスさんと一緒に紹介してくれる服飾師のもとに向かった。
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