第123話 ナレアナレアの糸

NO123

マレアナレアの糸




 【火水祭】 まであと2日と迫った今日は、宿の朝食を食べてすぐに漁業管理所に向かった。一昨日、スレイブさんに頼んだマレアナレアの糸の素材が届いてるはずだ。


 この素材を元に水着を作るんだっ!


 俺とマダラは、漁業場の中にある漁業管理所にやってきた。マダラには影の中に入ってもらい、俺は受付カウンターへと向かった。

「おはようございます。こちらに、セイジロウ宛で素材が届いてるはずなのですが?」


「はい、おはようございます。セイジロウさん宛ですね。少々お待ちください」

 と、受付嬢がカウンター奥へと行き、小さな封筒を持って戻ってきた。



 封筒?....糸が封筒に入ってるの?


「お待たせしました。こちらがセイジロウさん宛の荷物ですね。スレイブさんからになります」

「中身を拝見して良いですか?」

 と、受付嬢に確認をとり、ペーパーナイフを貸してもらい封筒の封を切って中身を確認した。

 封筒の中には手書きの手紙が入っていて、こう書かれていた。


 "糸は手にいれた。素材処理をしてるから取りに来てくれ。地図を受付嬢に見せて教えてもらえ。"

 手紙の内容通りに地図を受付嬢に見せて場所を教えてもらった。


 地図の場所は漁業場から歩いて三十分ほどのマーマン種がいる住居帯にある貸家の一つだった。

 俺とマダラはそのマーマン種が暮らす住居帯を歩いたが、特に嫌な目線は感じなかった。たまに、驚きの表情やマーマン種の子供達に指を指差れたが気にはしなかった。


「スレイブさん、セイジロウです。いますか?」

 俺はスレイブさんが住んでる貸家の扉越し声をかけた。


「おうっ!......セイジロウ、来てもらってすまんな。入ってくれ....マダラは...」

「大丈夫です。マダラは影の中に入ってもらいますから.....失礼します」

 スレイブさんが返事とともに家の中に招いてくれた。マダラには悪いが影の中に入ってもらう。さすがに、マダラが入れる家の広さじゃないからな。


 案内された部屋のテーブル席に座り、果実水をスレイブさんは出してくれた。果実水は少し温かったが甘味と酸味が絡み合い味は美味しい。


 スレイブさんが出してくれた果実水で喉を潤すと話が始まった。

「セイジロウを呼んだのは、マレアナレアの糸の処理が間に合わなかったからだ。少し夢中になって取りすぎてしまってな。処理が間に合わなかったんだ。来てくれ」

 と、隣部屋に案内された部屋の中には、人の腰ほどの高さがある桶が十個ほど部屋の中を埋めていた。


 スレイブさんの説明を聞くと、マレアナレアの糸は粘着力があるが、熱湯に潜らすと粘着力が失わられ、細い糸となるそうだ。

 熱湯に糸を潜らしたあと、水に潜らして軽く表面を洗い水気をきって乾かすと糸として使えるようになると話してくれた。


 今は、その水に潜らしている最中だそうだ。

「またずいぶんと糸を捕ってきてくれたんですね」

「あぁ、水を弾く服を作るにはたくさんの糸が必要になるからな。たくさん捕ってたら処理する時間がかかってしまったんだ。それで、手紙だけを預け家に来てもらったわけだ」


「そうだったんですね。これほど多くの糸を捕ってきてくれるとは思ってなかったんで驚きましたよ」

「あと、魚介類もたくさん捕ってきた。買い取ってくれるか?」


 おぉ、これまたありがたい。これで、野営時の食料が手に入る。小型の鉄板焼き魔導具もあるし、新しい魔導具もあるから今度から野営がちょっと楽しみだな。


「もちろん、買い取りますよ。魚介類はどちらに?」

「こっちにある。下処理が必要ならやっておくがどうする?」

「なら、頼んでいいですか? 私は糸の処理を手伝いますよ」

 と、スレイブさんにマレアナレアの糸処理を教えてもらい、スレイブさんは魚や貝の下処理を担当した。


 魚介類の下処理を終えたスレイブさんが途中から手伝いに来てくれたので、魚介類が傷まない内にマダラの影の中に保管した。代金は相場のニ割り増しで支払った。


 そして、午前中に糸の処理が終わり、あとは夕方まで乾かせば糸として使える様になると話してくれた。


 昼時になりスレイブさんと俺とマダラで、漁師の溜まり場に向かいそこで簡単な昼食を食べた後は、漁業場内を見て回り魚介類の説明やら料理の仕方、味付けに使うハーブや果実を教えてもらった。


「スレイブさん、この魚は何ですか?」

「それは、シュワレイだ。それは少し特殊でな。魚肉を食べると口の中で肉汁が弾けるんだ」


 弾けるってどんな風に? まさか、爆発みたいなっ!?


「そんな嫌な顔をするな。別に害はない。

ただ、なんと表現していいか、口の中でたくさんに気泡が弾けるというか.....そんな感じなんだ。味は悪く無いんだが、好みが別れるのは確かだ」


 へぇ、なんか面白いそうな魚だな。


「なら、二匹もらえますか?」


 と、不思議な魚を買ったりして夕方まで時間を潰した。その後は、マレアナレアの糸を回収して宿へと帰った。スレイブさんには、またマレアナレアの糸を捕ってきてもらうかも知れない事を伝えといた。もちろん、今回と同じように魚介類の買い取りを行う事も伝えた。


 宿に帰ってきて夕食を食べてから、寝る準備を済ませてからマダラの影からマレアナレアの糸を取り出して眺めてみた。


「ほぅ、綺麗な糸だな。こうして灯りに当てるとキラキラしてるし、上質な糸に見えるな」

『うむ、そこらの衣類に使われてる糸より上質なのは確かじゃな』


「マダラもそう思う? この糸を使った服が作れればかなり着心地が良いよな」

『そうじゃが、先に水を弾く服をつくるんじゃろ?』

「もちろん、そうだよ! その為にスレイブさんに頼んだんだから」


『セイジロウの考えは分からんな。水を弾く服を作ってどうするんじゃ? セイジロウは水中では長く活動できんじゃろ?』


「これは、俺の自己満足だから別に水中で活動する為に着る服じゃないんだよ。強いて言えば、男の夢かなっ!」

『.......なんにせよ、夢を追いかけるのは良いことじゃ』


 だよなっ! 夢にとりあえず近づいたのは確かだ! 明日、アンリエッタさんのとこに見せに行って腕の良い服飾師を紹介してもらおう。


 水着の道も一歩からってね!

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