第122話 ほっぺにチュー

No122

ほっぺにチュー





 冒険者ギルドで久しぶりに再会したサリナさんに案内されたのは、服飾店だった。

「それで、サリサさん。【火水祭】に着る服の意見ってなんですか?」


「実は、わたし達四人が新しくデザインした服の意見が聞きたくて、女性冒険者を探してギルドに行ったんだけど、そこで見つけたのがセイジロウさんなのよ。セイジロウさんは、ハルジオンの街でオリジナル甘味とか料理とかを広めてたでしょ?」


 正確には前の世界の料理で、発案は俺じゃないんだけど....そんな事言ってもしょいがないしな。


「まぁ、広めましたけど。私は料理を広めただけで、服には疎いですよ?」

「そこは、良いのよ。わたしが言いたいのは、オリジナル料理を考えた発想力に期待してるのよ!」


 ちょっと持ち上げ過ぎではっ?! そんな発想力は持ってないからっ!

 ほらっ、隣の三人を見ましょうよ。みんな疑ってますよ。こんか中年がー? とか、発想力ぅー? とか言ってますよ?


「ハハ....サリナさん。私にはどうやら荷が重いようですよ。まだ他の人を探してみたらどうですか?」


「そんな事、無い! わたしの目に狂いは無い!」

 いや、狂いまくってますよ。ホントに....何とか言ってあげて下さいよ、ご友人方。


「サリナちゃん、ちょっと落ち着いて話をしようよ。わたし達もサリナちゃんが言ってる事が良く分からないよ?」

 と、ルナさん。見かけによらず冷静な発言。


「そうよ。どう凄い人なのか、どんな発想力があるか知らないけど、少し過信のしすぎじゃない?」

 と、ミシェルさん。全く信頼されてません。


「ある程度は言いたい事がわかったわ。なら、見てもらって意見を聞いてからにしてみたらいいじゃない? わたし達が納得するような意見なら、聞けばいいし。納得出来ない意見なら悪いけど帰ってもらいましょ?」

 と、シャリーナさん。やはり大人な発言をするな。それと比べるとサリナさんがちょっと残念に見えてきた。スタイルは良いのにな....


「わかったわ! なら、セイジロウさん。あなたの実力をみんなに見せてあげてよ! そして、わたしの目が節穴じゃないことを証明して!」


 はぁ...せっかくの休日が....まったくタイミングが悪い日だ。


「.....分かりました。私の意見で良ければ.....では、その衣装を見せてもらえますか?」


 そうお願いすると、店主のシャリーナさんが奥の部屋から一着の服を持ってきた。その服を近くの衣装掛けに吊るした。


「へぇ、綺麗なドレスですね。これが【火水祭】に着る予定のドレスですか?」


 そのドレスは、チャイナドレスのスリットが入っていないバージョンのドレスだった。青い明るい色に茜色の紋様が縁取られいて、腕回りはノースリーブのようになっている。


「今回は、露出を控えめにしてドレスだけの勝負をしたのよ。海の色と暑さと言う事で赤色を使用してるわ」

 シャリーナさんが簡単なコンセプトを説明してくれた。


「デザインはみんなで考えたんですよ? わたしはフワッとしたドレスが好きなんですけど、こういうタイトなドレスはあまり無いですから斬新で良いかなって思います」

 ルナさんの趣味とは違うが、みんなで話し合ってデザインしたと....


「ただ、いまいちインパクトに欠けてるのが悩みの種なのよ。このままでも良いけどまだ時間がいくらかあるから、サリナに頼んで他者からの意見を聞いてみようと」

 と、ミシェルさんが俺が巻き込まれた原因の説明をしてくれた。


「おかしなデザインでも無いですし、色合いも良いと思いますよ。強いて言えば、もう少し柄があって女性の色気が出せるドレスなら注目を浴びるんじゃないですか?」


 チャイナドレスならスリットに、登り竜の柄が定番か? あと、扇子かな?


「やっぱり、色気は大事よねっ! セイジロウさんなら分かってくれると思ったわっ!」

「サリナはそればっかりじゃない。色気で注目を浴びてもしょうがないの!」

 巨乳のサリナさんと、貧乳のミシェルさんか....やはり、巨乳と貧乳のバトルは世界が変わっても起こるんだな。


「わたしは飾りを付けて、アピールしたら良いと思いますよ。ブローチや腕輪に髪飾りとか....どうでしょう?」

「それも悪く無いわね。あとは、足元から靴とかかしらね」

 ルナさんとシャリーナさんは小道具でアピールすると.....


「なら、全部やってみたらどうですか? ちょうど思い浮かびましたから可能ならやってみませんか?」

 と、俺が知ってるチャイナドレスを教えて、扇子も教えた。


 太股が少し見えるぐらいまでにスリットを入れる。髪飾りや腕輪、ブローチは細工屋のレイラさんのお店を紹介。


 靴に関しては、ヒール無しのパンプスが欲しいがそんな靴はこの世界に存在しない。なので、女性用のフラットサンダルの絵を簡単に紙に書いて飾りつけをすれば、足元もアピールできる。


「.....どうでしょうか? ざっくり説明しましたけど、可能な範囲でやるだけやってみてはどうですか? サンダルと扇子は作らないといけないですが、さほど難しいものでも無いですから、急げば間に合うと思いますよ?」


「「「「..........」」」」


 あれ? みんな黙っちゃったけど....やっぱり無理だったのか?


「あなたの事を中年のおじさんとバカにしてごめんなさい!」

「わたしも、胡散臭いと思ってたのを取り消します。ごめんなさい!」

「視線がエロくて、嫌だなって思ったけど謝るわ、ごめんなさい!」


 いきなりのカミングアウトっ?! 何故に?


「ほらね! やっぱりわたしの目は節穴じゃなかったわね!」

「そうね、見直したわ。今から衣装のデザインを大幅に変更するわ。ルナはわたしと衣装の改造を手伝って! ミシェルは靴屋に行ってこのサンダルの発注を頼んできて! サリナは、セイジロウさんが教えてくれた細工屋に行ってドレスに似合う細工品を買ってきて! さっ、時間は少ないわ、みんな急いで!」


 おぅ? どいやら意見は採用されたらしいな。なら、もう帰って良いですか?


「あの、用が済んだのなら私は用事がありますから帰っても良いですか?」

 と、店主のシャリーナさんに聞いてみる。


「本当ならこんな貴重な意見を言ってくれたセイジロウさんには、きちんとお礼をしたいのだけど、今は時間が無いから許してちょうだい。今はこれで許してね!」


 チュッ!


「あーっ! 何してるのよ、シャリーナっ! セイジロウさんを連れてきたのはわたしよ!」


 おっと! ほっぺにチューをもらいましたよっ! エヘヘっ。


「これは....ありがとうございます。確かにお礼は受けとりました。新しいドレスを楽しみにしてますね。では」

「ちょっ、セイジロウさんっ! 待ってよっ、わたしからもキスをするから! ちょっと、離しなさいよっ! ルナ、ミシェル!」


 さっ、もう討伐依頼は受けれないから、街中の散策にでもいこうかな。


 ほっぺにチューなんていつぶりだろ? たまにはいいよね?

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