第120話 思わぬ助っ人

No120

思わぬ助っ人





 スレイブさんの馴染みに酒場で水蜘蛛、マレアナレアについて詳しく話を聞くことになった。


 俺は、テーブルに用意されたつまみを一口食べ、エールを飲んでから話を始めた。

「あの後、スレイブさんと別れてから冒険者ギルドで水蜘蛛、マレアナレアについて調べてみたんですけど、特に何もなかったんです」


 冒険者ギルドの資料室で調べたけど、かなりマイナーな魔物なのか、名前と簡単な説明しか書かれてなかったんだよね...


「なにも? 俺も詳しくは知らないが特徴としては、水中で活動する蜘蛛型の魔物で体内から糸を吐いて網を張り、獲物の補食するぐらいか」


「はい、それで終わりでした。あとは、生息場所が水草が生えてる場所と、糸は粘着性があるくらいしか分かりません」


 スレイブさんは、エールを飲み干し新しいエールを頼んでから答えた。

「まぁ、そうだろうな。特に襲いかかる魔物でもないし、狂暴なわけでもないからな。害がなければ討伐もしないだろう。ましてや、水中の中だ。人は水の中では弱者だからな」


 そうだよな、害がなければ討伐対象にはならないよな。しかも水中でだし、取れる素材も価値があるものじゃないときたら誰も討伐しないよな。


 あっ、店員さん、エール追加で。あと、シシャモンもお願いします。


「冒険者ギルドに依頼を出しても受けてくれる人はかなり少数になると、受付嬢さんが言ってましたし」

「そうだろうな、報酬を高くしても成果はあまり上がらないだろうな」


「せめてマレアナレアの糸だけでも手に入れば実験出来るんですけど....」

「なら、俺が捕ってきてこようか? おれの知ってる漁猟場にマレアナレアがいるから、糸ぐらい絡めとってこれるぞ」


 マジすかっ?! 


「良いんですか? 本当ですか?」

「あぁ、ただし報酬は俺が捕ってきた魚介類を相場よりニ割り増しで買ってくれる事だ」


「それぐらいなら大丈夫ですけど、なぜスレイブさんが捕ってきた魚介類を? 買い取るなら私じゃなくても市場で売れば良いのでは?」

「市場に卸すと安くなるんだ。なら、相場の値段で買い取ってもらう方が俺にとって利益になるし、漁業場の依頼だけじゃ食べるので精一杯だからな。だから、暇がある日には自分で海に潜って猟をしてるんだ」


 そうなんだ。自分の好きな時に海に潜れて猟が出来るなんて羨ましいけど....


「そう言えば、スレイブさんはギルドに登録して無いんですか?」

「あぁ、俺達はマーマン種だからな。地上ではあまり活動できないんだ。べつに、差別的な事とかじゃないぞ。まぁ、中には種族をバカにするヤツがいるがな」


 ああ、やっぱりそういう人はいるんだ。まぁ、いるよね。全部が全部受け入れられるわけじゃないよな。


「セイジロウはマーマン種をどう思う? 俺達は普通に見えるか?」

「はい、普通に見えますよ? 少し肌が白い気がしますが、あとは背が高い事ぐらいですかね」


 そう答えた俺をスレイブさんは少し驚いたような顔で見た。


「反応が普通だな。そういえば、最初に会った時も普通に接していたな。あの場に居た連中は皆がそうだった」

「えぇ、あの浜辺で会った人達はみんな良い人ですよ。まぁ、それぞれ個性はありますけどね」

 俺の知り合いや友人達で種族差別をするような人達は一人もいない。みんな、優しくて心が広くて良い人ばかりだ。俺はそれを誇りに思ってる。もし、知り合いや友人達が困っていたら全力で助けになるし、俺が困っていたら全力で頼りにさせてもらう。


「....マーマン種は昔、人種から忌み嫌われていた。対立もあったと先人達から聞いた事がある」

「....難しい話ですね。人によって感じ方も考え方も違いますから。良くもあれば悪くもあります。私はそういうのが少ないタイプだと自分では思ってますが」


 スレイブさんは、俺の話を聞きつつエールを飲みほして新しいエールを注文した。ついでに、俺も頼んだ。


「今ではそういう奇異な目も少なくなったが、全く無いわけではない。漁業場の人種、このルインマスの街の漁場の人達は俺達を奇異の目で見ないから、ルインマスに住むマーマン種のほとんどが漁業場で仕事をしてる」


「だから、スレイブさんはギルドに入らないと。そうですね、働きやすい場所があるならギルドにこだわる必要は無いですよね」


「それもある。だが、一番の理由は水、海があるからだ。俺達マーマン種は陽の光に弱い。あまりにも長時間、陽の光に当たると肌が痛くなるんだ。俺達には水分が必要で水場があるところじゃないと生きていけない」


「それで、漁業場で仕事をしていたんですね」

 なるほど、それなりの理由があるわけだ。やっぱり種族によってそれなりのメリット、デメリットは存在するよな。


「話はそれなりに分かりましたけど、本当に手伝ってくれるんですか?」

「あぁ、セイジロウは俺達マーマン種を奇異の目で見ないし、普通に接してくれるからな。俺はそれが嬉しいんだ。マレアナレアの糸ぐらい捕ってきてやる」

 スレイブさんはそう言って少しぎこちない笑みを浮かべた。笑い慣れてない笑みだったがそれが逆に俺は嬉しかった。人種を越えた友人がまた一人出来た瞬間だった。


「ありがとうございます。よろしくお願いします。魚介類も買取りますから、うちには大食漢がいますから。」

「あぁ、そうだったな。マダラ、だったな。あれは、かなりの獣だな。なら、マダラの分も頑張って捕ってこよう」


 こうしてスレイブさんとの話もおわり、その日は少し遅くまで二人で飲んだ。話の内容も暗い話ばかりではなく、旨い魚介類の話やマーマン種の話、漁業場の話などそれなりに面白い話が聞けた。


 ちなみに、スレイブさんは半日ぐらいは海の中で活動が出来て、水中の方が早く動けるそうだ。指の間の膜で自由に水を掴み泳ぐんだって。さらに、魔法で使えるそうだ。種族特有の水魔法が得意だと話してくれた。


 海の中をスイスイ泳げるのってどんな気分なんだろうか?

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