第121話 再会したサリナ

NO121

再会したサリナ




 翌日はいつも通り起床したものの、特に予定がないためダラダラモードになっていた。

「おはよーございます、ロゼッタさん」

「おはようさんだね。どうしたんだい? いつもと少し違うじゃないか?」


「はい、ちょっとポッカリと暇になってしまいまして。特に予定が無いんですよ」

「はははっ! そうなのかい。べつに、良いじゃないさ! ゆっくり体を休めるのも冒険者の務めだよ。今、朝食を用意するからゆっくり食べな!」


 ん~~、スレイブさんがマレアナレアの糸を捕ってくる明日までやる事が無いんだよな。何しよ?


『マダラ、今日何する? 特にする事無いんだけど.....』

『では、近場で狩りをしに行けば良いではないか。ギルドに行けば討伐の一つや二つの依頼は見つかるであろう?』


『討伐かー、まぁそうだな。スレイブさんからの買取りもあるし少し稼ぐか』

 そんな話を影の中のマダラと思念で話してると、ロゼッタさんがテーブルに朝食を用意してくれた。


「はい、お待ちどーさん! 今日は果実を用意したからゆっくり食べな!」

「へっ? 珍しいですね。遠慮なくいただきます!」


 おぉ、果実か。朝から果実なんて贅沢な気分だ。前の世界の朝食をなんて栄養補助食品とかコンビニのパンだったからな。今、前の世界に帰ったら普通の暮らしなんて出来るのかな?


 多分無理だろうな....すでにこっちでも生活基盤は出来上がりつつある。利便性に関しては少し不便なところはあるけど、絶対欲しいとかなければ困るってほどじゃない。何より毎日が充実してる。今だって、朝から旨い料理を食べて、ギルドで討伐依頼を受けてから魔物狩りだ。


 ちょっと命の危険もあるけど俺はそれが楽しい。今さら戻る事は俺の選択肢にはない。


 そして、朝食を食べ終えて身支度を整えたら、俺とマダラは宿をでて冒険者ギルドに向かった。


 メイン通りを歩いてると、だいぶ人が増えた気がする。すでに【火水祭】まであと三日だ。旅人や冒険者、商人、船乗り達はルインマスの街にやって来てるし、これからもやって来るんだろうな。


 近くの串焼き肉の露店で買い食い兼買い溜めをしながら通りを歩く。俺と一緒に歩くマダラが珍しいのか、いつも以上に視線が集まる。


『マダラ、平気か? 視線が嫌なら影の中に入っていても良いんだよ?』

『別に不快ではないぞ。逆に好奇な視線を集められてこれはこれで楽しいわい』


 そうなのか? 俺は人から見つめられると嫌だな。なんか落ち着かないんだよな....


『そうか、マダラ良いんなら別に良いけど。トラブルは勘弁してな』

『分かっておる。セイジロウ、あの露店の魚は前回食したときに美味だったものじゃ。あれも買うのじゃぞ』


 ほぅ、どれどれ? あー、あれか。少し塩気が強かったけど、魚肉とは思えない歯応えと肉汁だったよな。バゲットに野菜と一緒に挟んで食べても旨いよな。


『分かった、買うか。あと、野菜とバゲットパンも買って保管しておこう。パンと一緒に挟んで食べても旨いからな』

 と、マダラが教えてくれた魚焼きと野菜とバゲットパンを買ってマダラの影の中に保管した。


 メイン通りの買い物を済ませ、冒険者ギルドに着くとマダラには影の中に入ってもらい、俺は依頼提示板で手頃な討伐依頼を探した。


 冒険者ギルド内は、一番の混雑時間を過ぎてもまだ午前の早い時間であり、それなりの冒険者達がギルド内を占領している。そんな中でいきなり背中から抱きしめられば驚くのは当然だ。


「セイジロウっ!!」

 と、背中から抱きしめられた俺は驚きの声をあげた。

「うわあぁっ!」


「そんなに驚かなくてもいいじゃないっ! 久しぶりの再会なんだからぁ。」


 そんな女性の声が背後から聞こえ、背中に抱きついていた人は言った。

 俺は、体ごと振り向き声のした人物を見る。どこか見覚えがある顔をした女性だが、どこで知り合ったのかがハッキリ思い出せない。


 俺の事を知っていて久しぶりと言ったんだから、ハルジオンの街で知り合った可能性が高いのだが..... 


 しかし、なんとも魅力的なスタイルで。その女性は、冒険者らしい装備を纏っているが魅惑的な部分を隠さず、むしろ強調するような格好だ。


 胸には革と鉄で組まれた胸当てをしてるが、胸部の上側が丸見えで艶やかな肌がみえてる。腰から下は、短いスカートを履き柔らかそうな太股が主張していた。


 その姿はまるで、グラビアモデルがファンタジー世界のコスプレをしてるような格好だった。しかも顔は美人というか、ちょっとエロい若奥さんみたいな感じだ。

 髪も長くその髪色も紅桔梗色で魅惑差をあげている。


「えっ....と、お久しぶりです?」

 俺はハッキリと思い出せない人物だけど挨拶だけはした。 


「もぅ.....そんな誰だっけ? みたいな感じで挨拶しないでくれる? 思い出せないなら思い出せないって言ってくれるほうがまだいいわ。わたしは、サリナよ。要所の砦の討伐で一緒だったしゃない?」


 要所の砦? 一緒だったっけ? ここまでエロい人なら忘れないと......

 あっ! 思い出した。最後の打ち上げで誘ってきた人か!


「あら、その顔は思い出したみたいね。あの時は残念だったわ。でも、これからは会うたびに誘えるわ、うふふ」

「どうも、お久しぶりですね。どうしてサリナさんがここに?」


「わたしは、ルインマスが拠点よ。でも、いままでは護衛依頼で王都まで行って帰ってきたとこよ。で、ルインマスの街でセイジロウさんの噂を聞いて探してたのよ」


「へっ? 噂ですか? それに探していた?」

「そうよ、巨体な獣を従魔にしてる冴えない中年冒険者。だが、その実態は危険指定魔物を討伐する凄腕の従魔使い。らしいわよ?」


「そんな話....まぁ、成り行きで倒したのは事実ですけど。それで、私に何のようなんですか?」

「あら、つれないわねぇ。そんな邪険にしなくていいじゃない。依頼提示板を見てたぐらいなんだからまだ依頼を受けてないのよね?」


「えぇ、手頃な依頼を探してる最中でした。それがなにか?」

「実はちょっと人手が必要でギルドに探しに来たの。それで、セイジロウさんを見つけたから勧誘しよっかなってっ!」


 そんなウインクして可愛くいっても....クッ、下から上目遣いからのバスト強調は卑怯だろっ! おおっ! 今、プルンって揺れたぞ....


「....オホンっ! 話ぐらいは聞きましょう。でも、暇な日は今日だけですから。夕方には予定がありますが、それで良ければ」

「ん~、まぁそれでいいわ。貴重な意見が聞けるかも知れないし。では、一緒に付いてきてくれる?」

 と、突然出会ったサリナさんの後を付いて冒険者ギルドを出る。人混み溢れるメイン通りをしばらく一緒に歩き、一つのお店に入る。


 店内には色とりどり、数多くの女性用衣服が飾られていた。さらに、数人の女性がなにやら意見を出しあってる光景が視界に入った。


「お待たせっ! 貴重な人を連れてきたわ!」

 サリナさんが店内に入ると同時に声を出し、その声を聞いた女性達の視線が俺に突き刺さる。


「誰なの?」

「なんで男?」

「女性はどうしたの?」


 この状況は.....サリナさん。何とかしてくださいよ? 私を見る女性の視線が痛いです。早く説明して!


「冒険者ギルドに行ったらめぼしい人が見つからなくて、それでこの人に出会って連れて来たのよ。貴重な意見が聞けるはずだから大丈夫よ」


 イヤイヤ、そんな適当で大雑把な説明あります? そもそも俺に何の説明も無いですよね? 


「えー、まずは自己紹介からさせて下さい。私は、サリナさんと以前同じ依頼を受けた事があります。名前は、セイジロウでDランク冒険者です。みなさん、初めまして」


 まずは自己紹介からだよな。社会人の基本です。


「サリナの知り合い? わたしは、ミシェルよ」

「あたしは、ルナね! よろしく!」

「シャリーナよ。ここの店主ね」


 ミシェルさんは、見た目二十代前半のスレンダー女性。顔は可愛い系で髪色は蜜柑色でショートヘアだ。胸は慎ましい感じだが、足はスラッとして細長い美脚にプリっとした小桃尻は魅力だ。服装は、シャツにベスト、黒のパンツスタイル。


 ルナさんは、見た目十代半から二十代前半の童顔美少女だ。胸はまだ発展途上で将来に期待だな。服は、ヒラヒラの飾りが付いた黄色系のワンピースで年相応の格好をしている。朝緑色の髪をサイドに流しているのがまた可愛い。


 そして、店主のシャリーナさん。見た目二十代前半から二十代後半の大人女性だ。茶系のシャツを圧迫する豊満な胸部に、藤紫色の膝丈スカートにスリットが入っていて、そこから覗き見える太股が.....チラリズムがエロい。

 顔は大人女性特有の艶があり、そそるものがある美人顔だ。ぜひ、個人的に仲良くしたい。


「どうやら、簡単な自己紹介は終わったみたいね。(セイジロウさんはシャリーナがお気に入りになったかしら?)」

 と、サリナさんが耳元で囁いてきた。


 ハハハ.....なんでバレテータ? そんなに分かりやすかったか?


 「ハハ...それで、このお店? に、私を連れてきた理由はなんでしょうか、サリナさん。まさか、美人、美女、美少女を紹介してくれる訳じゃないですよね?」


 苦笑いで誤魔化し、褒めて誤魔化す。これ、結構使える手だよ?


「そうね、それも悪くないけど理由は違うわ。【火水祭】に着るモデル服に意見が欲しいの!」


 なんとも珍妙な答えがかえってきましたよ?

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