第118話 漁業管理所とスレイブ

No118

漁業管理所とスレイブ



 レイラさんの話からスレイブさんの事を教えてもらった(正確には思い出させてもらった)ので、近くの漁業場にマダラと一緒に向かっている。



「マダラ、スレイブさんを覚えてるか?」

『ふむ、知らんな』


 即答だな....話聞いてたんじゃないのかよ...


「いや、影の中でレイラさんと俺の話を聞いてたろ? 浜辺で食事会をした時にお前が咥えてきた人だよ」

『ふむ.....アヤツか。あれはワレのせいではないぞ。アヤツが紛れていのが悪いんじゃ』


「いや、別に怒ってないから。で、これから会うから、お前が気にしてるかと思っただけだよ」

『そんなのは平気じゃ。それより、随分と人と違う気配が多くなってきたようじゃぞ』


 マダラに言われて辺りみると、人通りが多くなっていた。周りを歩く男性達は、総じて肌が浅黒く日焼けしていた。

 引き締まった体躯をしている人、盛り上がる筋肉を纏った人、背が高く肌の色が周りと比べて白い人。


「マダラ、人と違うってあの色白の背が高い男性か?」

『そうじゃ、他の似たような背格好をした者達もそうじゃな。普通の人ではない気配じゃ』


 なら、それがマーマン種なんだろうな。見た感じ、背が高い所と肌の色が白いぐらいで人と変わらないな。

 それに、漁業場に近づくにつれてマーマン種だと思う人が増えてるし、肌が浅黒い漁師風の人達も増えてきたな。


 そんなどこか物珍しそうに周りを観察しながら、地図に書かれた漁業場に着いた。


 漁業場はすでに人と魚介類に溢れていた。そこかしこから競り市で聞くような声が響いていたり、木箱を抱えて足早に歩き去る人達。見る人すべてが忙しそうにしていた。


 俺はなるべく忙しくしてなさそうな、浅黒い肌をした中年の男性に声をかけた。

「あのっ! 漁業場の漁業管理所に行きたいのですが、教えてもらえますか?」

「おっ! にいちゃんは、漁業場に来るのは始めてなのか!? あっちにある建物がそうだ!」


「あれですね! ありがとうございます!」

 と、周りを声が騒がしく、目の前にいるのに声を張って喋った。漁業管理所の場所もすぐにわかりマダラと一緒に向かった。


 ちなみに、漁業場周辺の人達はマダラをあまり気にした風に感じない。視線は向けられるが、すぐに視線を外していた。せいぜいがチラ見程度。極端に驚いたり、怖がったり、いきなり逃げ出したりする人はいなかった。


 肝が座ってるのか、マダラの姿が普通に感じる程の環境が身近なのか分からないが、自分の従魔が怖がられていないのは良いことだ。


 漁業管理所の前でマダラには影の中に入ってもらい、俺は入り口の扉を開いて中に入った。

 漁業管理所の中は広く、入って目の前にはカウンターが設置されていた。数人の受付嬢が漁業管理所にきた人に対応していた。カウンターの向こうには十数人の男性と女性が忙しそうに働いている。


 俺は、人の並びが少ない列で順番を待った。十数分ぐらい並ぶと自分の番になり用件を受付嬢に伝える。

「初めまして、セイジロウと言います。実は、スレイブさんという方を探してましてこちらに訪ねてきました」


「はい、初めまして。わたしは、セーラムと言います。探し人は、スレイブさんですね。少し調べますのであちらの席でお待ちください」

 と、受付嬢のセーラムさんに言われたの席で待つ。

 セーラムさんは、見た目は十代後半から二十代前半に見える若い女性だ。水色のショーヘアに髪飾りをつけていて、瞳の色は群青色をしている。あと、数年もしたら引く手数多で男性に困る事は無いだろうと簡単に想像できる美人だ。


 しばらく漁業管理所内で呆けてると、セーラムさんから声がかかり、カウンターに向かった。

「セイジロウさん、お待たせしました。スレイブさんは、ここから少しの離れた倉庫街で倉庫整理の依頼を受けてます。そちらに、向かえばお会い出来ると思いますよ」


「そうですか、分かりました。では」

 セーラムさんに挨拶してから、漁業管理所を出て教えてもらった倉庫街に向かう。


 倉庫街と言うだけあって、アンリエッタさんが所有する大きさの倉庫がいくつも建っていた。各倉庫からは人の出入りが激しく、荷を積んだ荷車や木箱を積んだ荷車が倉庫前に止まり荷物を倉庫に入れたり、荷車に積んだりする姿が見られた。


 そんな光景を見ながら倉庫街を歩いてると、見覚えのある人物を発見した。俺は足早に近寄り声をかけた。

「スレイブさんっ!」


 声をかけたスレイブさんは、肩に背負った荷物を抱えたまま俺の方に振り返った。

「んっ?....あぁ、浜辺の」

「はい、セイジロウです。あと、従魔のマダラです。遅くなりましたが、あの時のお詫びも兼ねて会いに来ました」


 スレイブさんは一瞬だけか分からないような顔をしたが、マダラに視線を向けると思い出したのだろう。改めて、自己紹介をした。


「久しぶりだな。詫びは別に必要ないぞ。あの時にちゃんと受け取ったではないか」

「あれはあれです。その場凌ぎの礼なんてお詫びになりませんから。少なくとも私はそう思ってますよ」


「そうか....だが、今は依頼の最中でな。もう少しで休憩だから時間があるなら待っているか?」

「そうですね....そうします。どこか暇を潰せる場所はありますか?」


「暇か....漁業場ぐらいしかないぞ。あそこは漁から捕れた魚介類の集積所も兼ねてるから、漁師と直接取引ができたり、市場では見かけない珍しい魚介類を扱ったりしてるから暇ぐらいなら潰せるだろう。あとは、漁業場の近くに漁師達の溜まり場があるぐらいか」


 へぇ、上手く行けば安く魚介類が手に入るかもしれないな。それに、溜まり場なら情報も手に入りかも。


「分かりました、漁業場に行ってみます。スレイブさんはどこで休憩を取るんですか?」

「俺は、溜まり場でいつも休憩をしてる」

「なら、私も溜まり場に漁業場を見た後に行きます。そこで落ち合いましょう」

 と、俺はスレイブさんと約束をしてから、来た道を戻り漁業場に戻った。


 漁業場に戻ってきたからは、マダラと一緒に魚介類を見て回った。

『セイジロウ、あの魚が旨そうではないか?』

『えっ、あんなピンク色をした魚が旨そうに見えるのか? あっちの魚じゃダメなのか?』


『ワレはあれが食してみたい。ちょうど近くに漁師がおるから交渉して買うのじゃ』


 えぇ....ピンク色の魚って....しかもデカイし。数十キロか、もしかした百キロオーバーかもしれない大きさだな.....


 俺は、近くの漁師っぽい人に話かけた。

「すいません、この魚は売り物ですか?」

「おっ?....おぉ、デカイ獣だな! 従魔の印があるから、にいちゃんの従魔か?」


 漁師風の中年男性は、俺の隣にいるマダラに気づき少し驚いたようだが、すぐに気を取り直して話しかけてきた。


「はい、私の従魔でマダラといいます。危害を加えなければ、こっちからも危害を加えませんよ」

「ほぅ、しっかりとした従魔なんだな。それで、売り物だっけか? ちゃんとした売り物だぜ! これから、保存の魔導具を使って明日には市場に並ぶぞ」


「そうなんですか、実は従魔の為にその魚はを買おうかと思って声をかけたんですよ。値段次第で売ってもらう事は出来ませんか?」


「従魔のねぇ....別に良いが小売りは出来ねぇぞ? 買うなら丸ごとだ。金貨一枚と言いたいが、小金貨八枚でいいぞ」


「えっ、それで良いんですか? 見たところかなりの大きさですし」


「こいつは、ビングロージキって魚はでな。見た目がこんな色で人気はあまり無いんだ。だが、味は旨いぞ。だから、通常は切り身で露店主達に売りに出してるんだ。ちと割高に思うだろうが、このサイズはなかなかお目にかかれないからな」


「分かりました、それでお願いします」

 俺は、マダラの影のから小袋に入れてあった食費から小金貨八枚を取り出し漁師渡した。その後にマダラの影にそのビングロージキなる魚を保管した。


 その光景を見ていた漁師は口をあんぐりと開けて驚いたのがちょっと可笑しかった。漁師に軽く手を振り、さらに漁業場内を見て周り気になった魚介類を買ったり、魚の調理法などを聞いたりして暇を潰した。


 ある程度、暇を潰したら漁業場の近くの溜まり場に向かいスレイブさんを待った。

 スレイブさんを待つ間にも溜まり場に集まる漁師さん達やマーマン種の人達と話して情報交換をした。

 しばらく有意義な時間を過ごしてると、スレイブさんが姿を現し、話を始めた。


「今日は、お詫びも兼ねて挨拶に来たんです。スレイブさんに、聞きたい事がありまして」

「さっきもそんな事を話していたな。答えられる事なら答えよう」


「ありがとうございます。実は--」


 どうか、スレイブさんが知っていてくれますようにっ!

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