第117話 思い出した人

No117

思い出した人




 ルインマスで行われる【火水祭】まで、あと七日となった今日。セイジロウは、いつも通りに起きて宿の朝食を食べ、ルインマスの街中へと歩きだした。


 ちなみにアンリエッタさんに頼んだ小型の鉄板焼き魔導具と、製作依頼した新しい魔導具は倉庫整理の最終日に受け取った。


 セイジロウは、メイン通りをマダラと一緒に歩きながら、目についた露店で串焼き肉や焼いた魚介類を買い、一部はマダラの影に保管した。保管した料理を勝手に食べないようにマダラには言ってある。


『して、セイジロウ。今日はどこに向かってるんじゃ? ようやく、アンリの依頼が片付いたのじゃ。新しくギルドの依頼を受けんのか?』


「今日は、細工屋のレイラさんのとこに行くんだ。新しい依頼は火水祭が終わったら受けるよ。それまでは、自由に行動しようと思ってな」


『では、その祭りが終わるまでは街の外に出んのか?』

「まったく出ないわけじゃないけど、頻度は下がるな。しばらくは我慢してくれよ」

『ふむ....なら、新たに魔石を買い魔力を補充して影に入れておくんじゃ』


「えっ?....影の容量が足らないの?」


 マダラの影に物を保管するには、俺の魔力かマダラの魔力が必要になる。別に、俺の魔力じゃなくマダラの魔力を使えば済むんだけど、マダラの魔力は勝手には回復しない。


 俺みたいに休息をとったり、睡眠をとれば回復するわけじゃなく、マダラの魔力は魔物の体または魔力を含む魔石から補充する事で回復する。なので、使えば使っただけ魔物を糧にするか俺の魔力を与えないと影の保管が出来なくなる。


 だが、毎日俺の魔力を与えるのは正直面倒なので、空魔石を買い俺の魔力を補充した魔石から魔力を吸いだし影の保管に充ててもらってる。そして、保管する物が増えれば増えるほど空魔石が必要になる。


『そうではない。街の外に出ないのなら魔力はほぼ使わんじゃろ。こういう時に、セイジロウの魔石を増やしておけば保管量が増え、さらに魔力も無駄にならんしお主の魔力量を増やす訓練にもなるじゃろ』


「おおっ! 一石三鳥だな。分かった、空魔石を買ってから向かうか」


 自分の魔力がほぼ全部入る魔石を、だいたいの感覚で選びそれを五つ買ってマダラの影にしまう。とりあえず、この五つの魔石と魔力が空になった魔石が四つで合計九つの空魔石。あと現在マダラの影に入ってる補充して住みの魔石が三つある。


 これ全部でおよそ、ギルドの解体所が二つ丸々楽に入るぐらいだ。

 空魔石を買って少し歩くとレイラさんの細工屋に着いた。マダラには影の中に入ってもらい店内に入る。


「おはようごさいまーす」

 扉を開くと同時に扉につけられた鈴の音がなり、俺の声も店内に広がった。 


「あら、セイジロウさん。いらっしゃいませ、早いですね」

「早くにすいません。一応、看板には開店中と書かれてましたけど、大丈夫ですか?」


「平気ですよ、歓迎します。それで、今日は何をお求めですか?」

「今日は、レイラさんに聞きたい事があって来たんです」


 話を聞いたらちゃんと買いますからね。


「はい、なんでしょ? あっ、今日は朝から天気が良いですから、入り口のテラスで話をしましょう。って言ってもただ、わたしが休憩してる場所ですけどね」


「良いんですか?」

「はい、入り口の隣ですからお客さんが来ればすぐ分かりますし、店内で立ち話もなんですから。お茶を用意しますから椅子に座って待っていて下さい」


 と、言われたので素直に外の椅子に座りレイラさんを待つ事少し。お茶を用意したレイラさんがやって来て、小さなテーブルにお茶を並べ店内から自分が座る椅子を持ってきてレイラさんが座った。


「レイラさん、お手数かけてすいません」

「いえ、これぐらい何でもありませんよ。さっ、召し上がって下さい」


 レイラさんにすすめられたハーブティーを一口飲み、本題の話を始めた。


 △▽△△▽△△▽▽△


「--なるほど、水を弾く服ですか....」

「ええ、そういう服があったらいいかなって。暑くなってきたし川とかに行けば、それを着たまま水浴びが出来ますから」


 うん、これなら自然だよな。水浴びをする為の服。しかし、その建前の裏には本音が隠れてますけどね。


「レイラさんは、水浴びをしたりしませんか?」

「う~ん、最近はしてませんね。水浴びをするにも川に行かないと行けないですし、人の目もありますから。かと言って、薄着を着ても肌に張りついて着心地が悪いですから」

 レイラさんはそれを想像したのか、少し苦笑いを浮かべながら答えた。


「私が考えてる通りに服が作れれば、川ではもちろん、海辺でも海水浴が出来るようになる....かもしれないんですよ。私の出身国では多くの男女が火水季になると、海辺で海水浴を楽しむんですよ」


「そうなんですか!? でも、海には魔物がいますよ、それはどうするんですか?」

「そこも考えがあります。が、まずは水を弾く服を作る為の素材が必要なんです」


「それで、魚骨で細工品を作っていたわたしに話を聞きに来たんですね」

 そう、以前来た時にレイラさんが魚骨を素材にした腕輪を商品にしていた。その魚骨は海水魚だと言っていた。なら、海関連で水を弾く素材を知ってるかと思って来たわけだ。


「確かに、海水魚の骨を素材に使いましたが素材に詳しいわけでもないんですよ。ただ、魚を食べた時に残る骨で何か作れたら節約になるなってだけで....なので、水を弾く素材には検討がつきません。ごめんなさい」


「いえ、知ってたら良いなぁってぐらいですから、謝らないで下さい。何も悪口ないですから」

 でも正直、結構期待したんだよな....他に誰か素材に詳しい人は....冒険者ギルドで話を聞いてみるかな。

 この後の事を少し考えてると、レイラさんが自信なさげに話しかけてきた。


「あの、セイジロウさん。....もしかしたらですけど....スレイブさんなら何か知ってるかもしれませんよ?」


 スレイブっ? 誰だっけか?


「えっと...すいません、誰でしたか?」


「覚えてませんか? 浜辺で食事会をした時に、セイジロウさんの従魔が咥えてきた人ですよ。スレイブさんは、マーマン種の方で水中でも活動出来る種族です。もしかしたら、水を弾く素材を知ってるかもしれないと思ったんです」


 あーっ! あの人ね! すっかり忘れてたよ。しかも、謝っただけでお詫びをするの忘れてた.....


「そうでしたっ! 正直、今のいままで忘れてました。思い出しました。あれから、お詫びも何もしてなかったですよ。分かりました、お詫びもありますからすぐに会いにいきます。レイラさんは、スレイブさんがどこにいるか知ってますか?」


「あの食事会の時に漁猟をやってると言っていたので、近場の漁業場に行ってみたらどうですか? 今、地図を書きますからちょっと待ってて下さい」

 と、店内に入って少ししたら地図片手に戻ってきた。


「お待たせしました。これが地図ですね。ここから、歩いて三十分しないぐらいですよ」

「ありがとうございます。すぐに向かってみます。お茶、ありがとうごさいました。近い内にまた来ますね」


「分かりました。良い話が聞けるといいですね」

と、話のお礼に細工品を買おうと思ったんだけど、それどころじゃなくなったな....


 まずは、漁業場に行くか。

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