第106話 マーマン種スレイブ

No106

マーマン種スレイブ





 細工屋のレイラさんに呼ばれてすぐに俺とマダラは、受付嬢のシンディさんとアンリエッタさん達がいる場所に駆けつけた。


 そこには気を失っていた人がアンリエッタさんに話をしていた。

「遅くなりましたっ!....私がセイジロウです。この度は私の従魔が失礼をしました。責は私が可能な限りとります」


 と、すぐに頭を下げて謝罪を申し出た。


「セイジロウさん、まずは説明致しますから頭をあげてください」

 アンリエッタさんからの言葉を聞き頭をあげてから互いに自己紹介をした。するとマダラが咥えてきた人、実は【マーマン種】で名をスレイブと名乗った。まさかの、亜人種だったのだ。驚きつつも話を聞く態勢をとった。


 その後、アンリエッタさんとスレイブさんから詳しい話を聞いた。


 マーマン種のスレイブさんは、夕食の食材を捕るために俺達が浜焼きをしてる浜辺からそう遠くない場所で、単身で漁をしていたそうだ。 


 スレイブさんはマーマン種の為、水中でもある程度の活動ができるそうだ。天候や季節にもよるが海に潜れる日は銛と編み袋を片手に漁をして生計を立ててると話をした。


 今日もその漁をしてる時に急な体の痺れを感じ気がついたら、周りに心配した顔をしたアンリエッタさんを始めとして女性陣に驚いたそうだ。


 それから、俺が来るまでアンリエッタさん達と話しすでに事の顛末を聞いたそうだ。


「その...改めて謝罪します。スレイブさん、申し訳ありませんでした」


「いや、こっちも悪かったのか? とりあえず、謝罪を受けよう。なので、セイジロウは頭をあげてくれ。今のところ怪我らしい怪我もない。体にも違和感はないから平気だと思う」


 と、スレイブさんは言ってくれた。改めて上半身を起きあがらせているスレイブさんを見ると外傷の有無は見られなかった。


 以前アルタロスのスベンさんからマーマン種の事を、ちらっと聞いていた事を思い出した。


 マーマン種は、人とあまり変わらない外見をしているが、稀に種族特有の特徴が表面に現れると聞いた。スレイブさんは、少し色白で体型も細く見える。特に変わった場所は見当たらないと思ったが、指と指の間に膜が張っていた。これが、マーマン種の特徴だと気づいた。


「それで、話を聞くと気を失ったのは漁の最中だと....」

「あぁ、記憶が正しければ数匹の魚と幾つかの貝を手に入れて海面に浮上したまでは覚えてるが痺れを感じた後は何も....目を覚ましたらこちらの女性方が居て驚いたところだ」


 痺れ....魔物かそれ以外の何かしらの生物に攻撃を受けたのか?


「シンディさん、この海にはスレイブさんが言ったような痺れを感じて気を失う攻撃をする海の魔物、または生物はいるのですか?」

 俺はこの中でも魔物に一番精通してそうなギルドの受付嬢シンディさんに話を聞いた。


「そうですね.....居なくは無いですよ。麻痺毒を持つ魚や魔物もいます。ですが、即気を失う強い毒性を有する魚、または魔物に関してわたしは知りませんね」


「スレイブさんはどうですか? 何か思いあたる伏しはありますか? 気づいた事があれば何でも言ってください」


「そうだな.....気を失う寸前だが光と黒い物体を見た...気がするくらいか。思い過ごしかもしれないが...」

 光と黒い物体か.....やはりスレイブさんは攻撃を受けて気を失ったと推測するのが正しいか?


 もう少し何か情報がほしいな.....


「スレイブさんは、いつもの猟場で漁をしてたのですか?」

「あぁ、いつもの場所だな。あの辺りはわりかし魚と貝が豊富でな...他に猟場は幾つかあるが最近はそこで漁をしてる。十日前後を目安に猟場を変えて、取り尽くさないようにして今日がその最終日だったんだ」


 あー、なんともタイミング悪い....あと一日遅ければ....って考えちゃうけど現状は起こってるんだからしょうがないか....


「今までにこの様な事はありましたか? それか、スレイブさんの友人関係で似た様な話を聞いた事は?」

「いや、無いな。まぁ、毒を受けたり麻痺を受けたりは聞いた事があるがどれも軽微だ。もっとも、沖に行けば話は変わるがこの辺りでは聞いた事はないな」


 なら、突発的な事案になるのか.....やはり俺が思ってる以上に海は危険という事か....


「シンディさんは今の話を聞いてどう思います?」


「今回は不幸中の幸いで死傷者は出ませんでしたが、早急にギルドに報告して詳細を調べた方がいいかも知れませんね。未知の魔物か生物、もしかしたら他にも危険はあるかも知れません。周辺のある程度の安全と情報か集まるまでは警戒区域にするべきかと....」


 ん~~、ちょっと話が大きくなり過ぎ感があるけど....街からそう離れていない浜辺だしな...


「....なら、それは私とマダラが調査します。事の原因は....っつか、マダラはなんでスレイブさんを咥えてきたんだ? 救出してきたのか? .....いや、お前は確か...攻撃範囲に入ったとか言ってた....よ...な」

 俺は、天幕の隅で寝転がってマダラに説明を求めた。


『あの時は魚がちょこまか動くのにちと腹が立っての。前と同じやり方で魚をとらえたのじゃ』


「前と同じやり方って何だよ?」

『雷撃を撃ったんじゃ。海面上から雷撃を浴びせて魚を痺れさすか意識を刈り取るんじゃよ。そしたらワレの影に入れて持って帰るんじゃ。貝は、影に直接入れれば問題ないんじゃ』


 俺はその話を聞いてすぐに原因がわかった。そして、すぐにスレイブさんに異世界初の土下座をして謝罪をして詳細を説明した。


「--そうですか、わかりました。とりあえず、怪我もなく無事だったのだ。こっちから特に何も言うつもりは無い」

「でも、それじゃ私が--」

「なら、こうしよう。俺はあの時の捕れるはずだった魚と貝、銛と編み袋を補填してもらえれば良い」


「それはもちろんです。それ以外にも何か......なら鉄板焼きを食べていって下さい。あと、お土産物も用意します。それと、困った事があれば言って下さい。力になれるようなら貸しますから」


「あぁ、そうしよう。どうやら譲歩は出来なさそうだしな」


 当然だ! マダラの誤った雷撃を受けたんだ。非は完全にこっちにあるからな....


「では、話は纏まったようですね。すでに食事はわたしの料理人達が用意してあります。陽も沈み星空が綺麗ですから雰囲気もよろしいかと」

 アンリエッタさんの気配りに感謝だな。土下座をした辺りから居ないと思ったら、先を読んで動いてくれていたとは....


「では皆さん、騒がせて申し訳ありませんでした。マダラが捕ってきた食材はたっぷりありますのでたくさん召し上がって下さい」


「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」


 ちなみにマダラは、

『セイジロウっ! ワレにも寄越さんかっ! それはワレが捕ってきた食材じゃぞっ! 命令を解かんかっ、セイジロウっ!』


 マダラにはスレイブさんを誤って攻撃した罰てして【お座り】の命令を出した。水辺での雷撃はかなりの危険を伴う。今回は、マダラの雷撃が弱かった為にスレイブさんの命が助かったが次があるとは限らない。


 反省の意味を込めて少しだけお座りをしてもらった。


 ちゃんとマダラの主である俺も隣で一緒にお預け中だ。

 (マダラ、もう少し我慢な....俺も腹が減ってるけど示しはつけなきゃだから。悪いな....)


 今回は小事に収まったけど今後は気を付けなきゃな。

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