第47話 緊急討伐依頼・幕

No47

緊急討伐依頼・幕






 要所の砦での戦闘が終わり、昼過ぎからは討伐したゴブリンやオークの検分と解体が始まった。

 マダラに頼んで砦の外で狩ったゴブリンとオークを影の中から出してもらう。


 その光景を見た兵隊達や冒険者達は驚きの声を上げた。俺も最初見たときは驚いたのを覚えてる。


 だが、今回は数百人の前でのお披露目だ。マダラもどこか誇らしげな顔をしながら、次々にゴブリンとオークを出していく。尻尾も通常以上に振られて.....


 あっ! また一人マダラの尻尾に弾かれた人が.....

 これはご愛敬でお願いします。


「しかし、よくもまぁこれだけ狩ったもんだ。結果良ければすべて良しとはこの事だな....」

「まぁ、死者もいなかったんで良かったですよ。重軽傷はいますが...」

「ああ、死者も覚悟したが.....本当にセイジロウのお陰だ。改めて礼を言おう。ありがとう、セイジロウ!」

 グランデールが突然頭を下げてきた。俺は、慌てて下げた頭を上げてもらった。


「ちょっ! 頭をあげてください! 変な目で見られますから!!.......ふぅ、依頼ですし、俺じゃなくマダラですから。それに、皆さんもいたし新米冒険者の話を聞いてくれたからです。書状が無ければ話は聞かなかったでしょ?」


「うっ...それは、...正直に言えばそうだな。ギルドマスターからの書状が無ければセイジロウの意見は通らなかっただろう。新米の意見を聞く余裕はなかったのでな」


「たしかに、そうですね。だから、俺じゃなく皆に礼を言ってください。それと、コレを教訓にもっと視野を広げるべきです。私もグランデールさんも。頭から断るのじゃなく、一度聞いてから判断する余裕があれば戦況が変わったり、閃きがあるかもしれません」


「そうだな、覚えておこう。他ならぬセイジロウが言うのだ。ランクやら見た目で判断は出来んな、ワハハハ!」


 俺も学ぶべき事はあったし、反省する事もある。生きてるからこその学びだな。


「そうだ...明日中には解体も終わりある程度の報酬分配もわかるだろう。それまでは、砦で体を休めてくれ。今夜はオーク肉祭りだっ!!」


 そう言ってグランデールさんは他へと行ってしまった。俺は、遠目からマダラを見ながら影の中からゴブリンやオークを出す光景、それを見て驚いてる兵士や冒険者、解体に忙しい人達を見て時間を潰す。

 たまに、兵士や冒険者から話をかけられマダラの事や俺の事を聞かれ、質問に答えながら時間は過ぎていった。


 陽も暮れ、砦の広間では肉の焼ける香ばしい匂いと酒を飲んで盛り上がる兵士や冒険者達。寝転がりながらオーク肉をかぶり付くマダラに、酔った勢いでマダラにちょっかいを出して尻尾で撃退されるバカな冒険者。


 そして、酔いに任せて寄ってくる女性冒険者、

「ねぇ、セイジロウさん。今日の活躍は凄かったわよ。一見して冒険者には見えないわよね、セイジロウさんって」

「そうですね、まだ新米の冒険者ですから。そういう、サリナさんもまだ若いのに冒険者だなんて....」


「あたしも色々とね....冒険者には秘密の一つや二つあるわよ。そ・れ・よ・り、高ぶった心をわたしで解放しない? どうせ、近い内には拠点に行っちゃうんでしょ?」


「まぁ、明後日に出発しますよ」

「なら出発前にさ、互いの親好と相性を確かめて見・な・い? わたしは、ルインマスが拠点だし、ハルジオンに滅多にいないしセイジロウさんにも会えないじゃない?ワン・ナイト・ラブよ?」


 まぁ、それぐらいなら? 一緒に戦った冒険者だし? まだこっちに来てからご無沙汰だし? オケ?


 美人冒険者からの誘いに心が傾きかけてるいる時にマダラからの思念が飛んできた。

『セイジロウ、孕ますのはいいがフローラは良いのか? 性交の責に関しては助けは出来ぬぞ』


 ビクッ! このタイミングで思念を飛ばすか、普通.....もうちょい空気読めよ! てか、フローラさんを出すのはズルくね?


『出発前に助言をもらってのぅ。フローラはできた女だ。気立ても良いし、見目もなかなかじゃ。何より料理が出来るのはよいぞ。フローラが作ったサンドパンはセイジロウが作ったサンドパンより数倍は旨かったぞ。早く帰って褒美をもらわんとな』


 おまっ!! 買収されたのかっ? しかも飯かよ! それって反逆じゃね? てか、脅しか? 言っちゃうの? 誘惑に負けそうな俺をフローラさんに言っちゃうの?


「サリナさん、別に二度と会えなくなる訳じゃないですし、私は旅好きですからルインマスの街にも行きますから。その時に食事でもしましょうよ。互いの親好は体じゃなく言葉で行うのもいいではないかと、ねっ?」


「もぅ、セイジロウさんは釣れないのね.....いいわ、セイジロウさんには嫌われたくないし、せっかく稀に見る紳士な冒険者だもん。でも、ルインマスに来たら食事はするわよ、約束よ!」


「えぇ、その時には街も案内して下さい。さっ、まだ食事が途中でしょ? 酒に肉、今夜は楽しみましょう。私もマダラの食事を用意したら楽しみますから」


 と、とても不服で残念でショボンだけどフローラさんに嫌われたくない....マダラにも釘を刺すか命令しなければ.....おのれ、マダラ! 覚えてろよっ!.....クソぅ~~


△▽△▽△▽△△▽△△▽△△△△△△△


 昨夜や騒ぎも収まり、昨日と同様に兵士や冒険者達は残党狩りや周辺の警戒に回っている。

 俺は引き続きゴブリンやオークの死体を砦の外で影から出すようにマダラに頼んでいた。


 解体を請け負ってる冒険者達は、討伐証明の耳を切り取り、魔物の体内にある小さな魔石を取り出している。


 オークの方は、討伐証明と肉、魔石、睾丸など素材となる部位を解体すると前もって掘られた穴へと要らない箇所を捨てていた。


 そのあとは火をつけて焼却だ。マダラなら余さず影の中で分解して糧とするのだが、マダラの能力をおおぴらにすれば要らぬ面倒が付きそうなので、必要最低限にしてる。今さらだけど.....


 解体するゴブリンとオークの中に上位個体も確認されその報告も司令部に伝わっていた。


 今回の混成団がなぜ森から出てきたのか?

 普段、徒党を組まない異種がなぜ組んだのか?


 その解明もあるらしいので、解体兼調査も含まれていた。ゴブリンの中にリーダー、アーチャー、メイジ、ジェネラル、オークの中にはリーダー、ソルジャー、ファイター、ジェネラル、キングが確認された。


 グランデールさんとスベンさんの見解からすると、この集団を率いたのはオークキングなのではないか? と、理由をつけた。


 そして、森での勢力争いに敗北したか、何かしらの理由があり森を出る事が起き、出る際にゴブリン達とオークを束ねて森から出てきたのではないか? と、結論を出すには早計で推論としては在り来たりな理由だが、一応の見解をだした。


 俺としてはハルジオンの街に戻り安定した日々が送れるならそれでいい、と思う。


 解体された素材や肉は、冷暗室に保管されあとで商人を交えて販売するそうだ。


 事前に今回の討伐数の確認もされてるし、それによる経常利益も算出されている。そこから、成果に応じた報酬が個人またはパーティーに分配される。


 予想を上回る討伐数な為、戦果も上々で冒険者達からの不満も無かった。兵士たちは、要所の砦を守るのが任務の為に報酬は出ないが、給金に色が付くぐらいになる。


 命の危機を感じるような襲撃があったのに、多少の色が付くしかない兵士を少し不憫に思うが、この世界で安定した給金がもらえるのは他から見れば羨ましいのではないかと、考えなくもない。


 個人の考え方次第で一長一短はあるが、人の生活、選んだ選択に口を挟むつもりはない。


 グランデールさんも兵士達に思うとこが無いわけではないらしく、商人が来るまでにオーク肉を使った料理を出すのは黙してる。


 オークは見た目が悪くて嫌悪する存在だが、肉として見た素材は満足するものだ。焼いて良し、煮て良し、干して良しの三拍子揃ってる。


 普段の兵士食は日持ちする芋類の野菜に、塩漬けされた肉に固いパン食で日々を過ごしてる。たまに、森からはぐれてきた獣が取れれば新鮮な肉が手には入るが、それだけだ。


 酒も少量しか飲めず、休日も少ない。任期満了までは自由もなく毎日が警戒と訓練の日々だ。それが兵士だと言われればそれまでだか.....


 働く兵士を遠目に見ながら、世知辛いと考えてしまった。娯楽が何もないんだなと....


 そんな風に思考しながら夕方近くまで、ダラダラではないが過ごした。夕食も食べ終わり、グランデールさんやアルタロスのメンバーに明日の出発を伝えた。


 もう少し居ればいいと言われたが、ハルジオンの街に戻り依頼の報告がある。それに、あと数日もすれば各所からの援軍や応援部隊が砦にくる。


 早馬で討伐の報を出しているが、終わったからハイサヨナラはと行かない。全部が全部出来るわけではないが、半数ほどは砦にやって来て報告やら検分をするそうだ。


 忙しくなる前に退散したいのが本音で、丁重に誘いは断った。また、何かあれば力になるし、力になってほしい事があれば頼らせとほしいと伝えた。


 自分の力になる人や偉い人達とのパイプは、合った方がいいからな....ちなみに腐りかけや腐ったパイプはお断りです。


 さて無事に依頼も終わった、ハルジオンの街に戻りますか。

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