第48話 笑って飲める酒はよきかな

No48

笑って飲める酒はよきかな





 翌日は、朝に要所の砦を出発。行きと同じように最短距離で帰る。途中で遭遇したビッグボアを狩った。

 ビッグボアは魔物ではなく、動物なので魔石は無かったがマダラが影の中で分解してくれて毛皮だけを残した。


 さらに、フォレストウルフを三匹にヴェノムスネークにビッグラビットを狩った。

 フォレストウルフは魔石と毛皮、ヴェノムスネークは魔石と牙と皮、ビッグラビットは動物なので皮だけを素材として残した。


 二日後の日暮れ近くにハルジオンの街に着いた。


「やっと着いたな....何だか懐かしく感じるよな?」

『それは、セイジロウだけであろう? ワレは時間の感覚が希薄なのでな、数日程度では何も感じないぞ』

「なんだよ....そこはさ...そうだなとか、みんなに会えるのが楽しみだなとか言えないわけ?」


『ふん、プリンとピザが食べたいぞ。ワレは今回活躍したからのぅ、労いが必要であろう?』

「はぁ? それ言っちゃうわけ? 卑怯じゃね? 俺は、お前みたいに超常的な生き物じゃないの。普通の人なの。わかる?」


 と、グダグダ話ながらハルジオンの門へとたどり着き門番にギルドカードとマダラの従魔の印を見せる。

「よぉ、ずいぶんと久しぶりだなっ!!」

と、背後から声をかけられた。


「えっ?....あっ! サリムさんじゃないですか!! お久しぶりです」

「おぅ、あれからずいぶん経つが街に馴染んできたな」

「あの時は、本当に助かりました。元気そうで良かったです。何度か門を通りましたが見かけませんでしたけど?」


「ああ、俺も忙しくてな....氷雪季前にルインマスの街に行ってたんだよ。あそこは港町でな、たまに警備内で出向があるんだ。それで帰ってきたのが一週間前でな。それからは、書類やら雑務やらで門番はしてなかったんだよ」


「ああ、それで....私は依頼で要所の砦から帰ってきた所ですよ」

「話は聞いてるよ、どうやら大変な事らしいな....で、帰ってきたって事は進展があったんだよな?」

「はい、無事に片付きました。要所の砦の兵士と冒険者達で混成団は撃破しましたよ。これから、ギルドに報告ですね」


「はあー? そりゃ、また....この街からも応援が馬車で数台向かったが....そいつらは間に合った訳か?」

「いえ、間に合いませんでしたよ。時間的に混成団の方が進行が早くて....撃退と同時に早馬で連絡係を出したはずですから、通達は届いてると思いますけどね」


「そうか....まぁ、ケリがついてるならあとは事後処理だけだろうな....しかし、ソイツがお前の従魔か....」

 サリムさんは、マダラをマジマジと見てる。


「サリムさん、仕事が終わりなら食事でもどうです? 私は夕食がまだでギルドで報告したら食事処で食べませんか?」

「おっ?....おぅ、そうだな。積もる話もあるしな。なら、先に行っててくれ。俺も少し引き継ぎをしたら向かうからよ」

 と、サリムさんとの話を切り上げマダラと一緒に冒険者ギルドに向かった。


 まだ街での人目はあるが、怯えとか恐怖とかいった視線は少なくなってきた。少しずつマダラも街に馴染んできたのかなと思いながら歩く。


 冒険者ギルドに着くとマダラには影の中に入ってもらいギルドの中に入る。すると、冒険者達と受付で働くギルド職員達の視線を浴びる。

「セイジロウさーん! こっち、こっちぃ!」

 と、受付嬢のアリーナさんが手を振りながら迎えてくれた。


「ただいま帰りました、アリーナさん。緊急討伐依頼の報告がありますけど....」

「お帰りなさい、セイジロウさん。と、緊急依頼の報告は、ギルドマスターにしてくれる? ギルドマスターがセイジロウさんが来たら早急に案内してほしいって言われてるから!」


 ここから要所の砦とはそれなりに距離があるのにすでに何かしらの情報をギルドマスターは手に入れてるのか?


「へぇ、ずいぶんと耳が早いですね。まだ、撃退してから数日ですよ」

「やっぱり、撃退したんだ....一応ギルドマスターからは昨日の時点でギルド全体に通達が下りたからある程度の冒険者達は知ってるけど....それに、セイジロウさんは行き帰りは早かったみたいね?」

「えぇ、マダラに乗せてもらいましたから....今は食事処のいつもの定位置で寝転がってますが、ほとんどがマダラのおかげですよ」


「やっぱり、マダラちゃんはただの従魔じゃないのね? 以外とマダラちゃんの情報は少ないのよ? 多分、上層部とフローラさんで意図的に情報を抑えてるからだと思うけど.....まぁ、話が長くなっちゃうわね。さっ、ギルドマスターの執務室に案内するわ!」


 アリーナさんに案内されて執務室にやって来た。ギルドマスターのダンさんは、ようやくか...と、話を聞くのが待ち遠しかったのか、すぐにソファに案内され本題に入った。


「とりあえず、帰還しました。結果から言うとゴブリンとオークの混成団は壊滅し、緊急討伐依頼は完了です。....これが、要所の砦の指揮官グランデールさんのサイン付き依頼書です」

「ふむ.....確認した。今回は無理を聞いてもらって悪かったな....通常ならあり得んのだが....お前達なら、と思ってな」


「....そうですね、かなりの強権だったと思いますよ。要所の砦でギルドマスターからの書状を見せた時はグランデールさんにアスタロスメンバー達も困惑してました。ですが、書状があったからこその成果だと思いますよ」


「そう言ってくれると助かるな...俺の面子も保たれたからな。で、話を聞かせてくれるか?」


 俺は、今日までの経緯をギルドマスターのダンに話した。


 移動にマダラを使った事。要所の砦で隊長とアルタロスメンバーと話して作戦を立案した事。先行してゴブリンとオークをマダラの能力で狩ったこと。狩ったゴブリンとオークの処理はグランデール達に任せた事。そして、帰ってきた事。


「--そうか、やはり応援部隊は間に合わなかったか....ふむ....わかった。あとの事後処理はこっちでする。現時刻で依頼完了とする。報酬は、用意しておくからあとで受付で受けとれ。あと、セイジロウについてのランクアップと今回の事でそれなりに情報は広まるだろうからな。予め情報はこちらから流して操作はするが、全部は防げん。セイジロウが手に余る事が出来たら教えろ。出来る限りの力になろう」


「分かりました。じゃ、私はこれで...」


 少し話が長くなったが、サリムさんは待っててくれてるかな? さっさと行かなきゃ。


 足早にギルドの食事処に向かった。


「おーい! セイジロウ、ここだっ!」

「すいません、遅くなりましたっ!」

「しょうがないだろう、まぁとりあえず乾杯しようや! おーい、エールニつに湯豆とフライドポテトとピザをくれっ!!」


「あっ! それと、モツ煮スープもお願いしますっ!」

「で? 話を聞かせてくれや。今までどんな風に街で暮らして来たんだ?」


 リーナさんが頼んだ注文を持ってきてくれて、食事が始まると最初の出会いから今日までの事を話した。


 最初は文字の読み書き計算を習い、魔法を習い、甘味を作り、遺跡に行ってマダラを従魔にして、花風季から本格的に冒険者として活動するようになった事。


 話は弾み酒も進み気がついたら夜遅くまで話していた。途中から、リーナさん、エリナさん、ビルドさんも話に加わってさらに盛り上がった。


 マダラにもフライドポテトやピザ、オーク肉のステーキなどたらふく食わせてやり、帰宅したのはずいぶんと遅い時間だった。


 あんなに楽しく笑って酒を飲んだのはいつぶりだろう?

 前の世界じゃ、"接待だ" "これも仕事だ" と言いながら上司や顔繋ぎとして嫌々ながらの付き合いばかりだった。


 毎日、営業に書類作成、挨拶回り、企画の手伝い、気がつけばサービス残業に休日出勤、たまの休みは自宅で寝て過ごし、時間ばかりが過ぎてく日々。


 こっちでは毎日が充実してる。やりたい事をやって休みたい時は休める。なんのしがらみもないし、すべてが自己責任だからやりがいもある。


 まだこっちに来てから数ヶ月だけど、これからもこの世界で充実した生活をしていきたいと思うのは、すでにこの世界を受け入れてる証拠か....

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