第46話 緊急討伐依頼・5

No46

緊急討伐依頼・5





 翌日は作戦に向けての準備に慌ただしかった。斥候の連絡も届き、予想通りゴブリンとオークの混成団は翌日の朝には砦に到達すると報告され、兵士、冒険者達に通達された。


 俺と隊長グランデールとアルタロスメンバーで作戦内容が伝えられた。


 最初は混乱と喧騒が起こったが、マダラを皆に見せるとピタリと静まりかえった。マダラを皆に説明して、従魔の印も見せた。さらに、ギルドマスターにも容認されてる事を伝えると徐々に話し声が聞こえ、静まり返った広間も騒がしくなった。


 そのあとは作戦の最終確認に、戦闘準備、マダラとの打ち合わせで時間が過ぎていった。夕方になり、広間で夕食の炊き出しが行われてマダラと一緒に食事をとった。


 広間の端でマダラと食事をしてると、

「よう、セイジロウ...だったな。おれは、マイルだ。」

「カッツォだ。よろしくな。」

「セイジロウです。こっちは従魔のマダラです。...何か用ですか?」


「なに、ちょっとした興味本位だよ。あんたがどんなヤツなのかってな...なぁ?」

「だな、いきなり特攻作戦をするやつがどんなヤツなのか知りたくてな?」


「別にギルドマスターからの依頼を受けただけですよ。正直言えば、あの時の俺を全力で止めたいぐらいですね」

「ハハハ、怖じ気付くのはしょうがねぇよ。戦力差がありすぎて絶望的だからな」

「そんな中に特攻するんだ、頭が可笑しいとしか言えねぇ.....が、そっちの従魔を見るとあながちバカとは思えなくて、こうして話に来たってわけだよ」


 それからは酒を飲み、一緒に夕食を食べた。マイルとカッツォはCランクの冒険者でたまたま近くでギルドの依頼を受けてる最中に、情報を聞いて参加したそうだ。


 2人とも気さくでシグリウスのパーティーも知っていた。拠点はルインマスの街でハルジオンと両方で行き来しながら依頼を受けてるそうだ。


 これまでにも大規模な戦闘はやった事はあったが、さすがに今回の数量は初めてだと言ってた。


 なぜ、この戦闘を受けたのか聞くと報酬と街の為だそうだ。

 もし、砦が突破されればハルジオンの街や周辺の村、ルインマスの街にも被害は起こる。冒険者になってから知り合った人達も多く、互いの街には気のいいな仲間もいるそうだ。


 そんな人達をほっといて逃げ出す腰抜けじゃないと、報酬を受け取ったら豪遊すると言った。


「セイジロウも報酬が目当てなのは、あるだろ?見返りがなきゃこんな危ない依頼はうけねぇよな?で、何に使うんだよ?まぁ、酒と女なのは相場が決まってるがな、ワハハハっ!」

「店を開こうかと、働かずに収入を得て自堕落的な生活を送りたいな、あとは綺麗な嫁をもらって毎日が楽しい日々.....まぁ、夢ですけど」


「それも有りだな、その為に戦うんだ。生きた者が勝者だ。明日は生き残れよ、そしたらまた酒でも飲もうぜっ!!」


 マイルとカッツォと話は程よい所で切り上げて、仮眠をとった。時間がきたらマダラに起こしてもらうように頼んで.....


 目が覚めたら戦闘か.....


△▽△▽△▽△△▽▽△△▽▽▽▽△△▽


 陽がまだ見えない時間にマダラに起こされた。

『....ロウ...セイジロウ、起きるのじゃ』

「...ん....んぁ....マダラ?...あぁ、時間か...」


 眠い目を擦り体を起こして頭を中も覚醒させていく。

『セイジロウ、ボケた頭をさまさんか。森が静かじゃ....ヤツラは来ておるぞ』

「?!....わかった。準備して司令部に行く」


 俺は、武防具を手早く装備してすぐに司令部に向かった。そこには隊長のグランデールが仲間の数人と話をしていた。


「グランデール、来ましたよ。ヤツラの動向は?」

「セイジロウか...タイミングがいいな。見張りかは連絡がきた。数匹のゴブリンが森の境で確認できた。ヤツラも偵察してるんだろ...それを、考えるとすでに近くまで来てるだろう」


「えっ?ゴブリンって偵察とかするんですか?」

「するぞ、ヤツラはバカだがそれくらいの知恵はある。ゴブリンリーダーが指示したんだろうがな」

「向こうも夜明けと同時に向かって来ると....なら襲撃前にこっちから奇襲ですね」


「ああ、セイジロウの作戦が功をさすだろう。やるからには派手にやれ。ヤツラを混乱させ士気を落とすんだ。好きに暴れて来い.....っ、暴れるのは従魔だったな」


「まぁそうですね。俺は、出来るだけ穏便に行きたいんだけど.....時間もないので俺は行きますね。あとは作戦通りに」


 グランデールとの挨拶もそこそこに、足早に砦を出る。見張りの兵や冒険者に挨拶をして、門扉を薄く開けてもらい隙間から外に出た。


「はぁ....やるか。マダラっ!」

『ふむ、気が高ぶるのぅ。セイジロウ、ワレに乗れ』


 マダラを呼び出して背に跨がった。あとさ、マダラ次第だ。頼むよ本当に....まだ、死にたくないんだから....


『では、やるぞ。【犬狼舞刹】...』

マダラが何か言うと、地面の影から無数の黒い獣を象った狼? が現れた。その数、100匹以上はいる。


「....マダラ....コレは?...マダラの能力...」

『そうじゃ、影で犬や狼を作りヤツラを襲う....散れ、犬狼。周囲にいる魔物を狩れ。...ワレらも行くぞ!』


 マダラは自身が創りだした犬狼に指示を出すと同時に、マダラも森を目指した。

それなりの速度で走ってるのに、犬狼達の足音は聞こえない。俺の耳に聞こえるのは自身が風を切り裂いた音だけだ。


『セイジロウ、魔法じゃ。合図した打て、よいな?』

マダラが思念を俺に飛ばし、魔法の準備に入った。


 使うのは風、衝撃波を放ってヤツラの態勢を崩す。

『よし、派手に打てっ!』

「風爆衝波っ!!」


 マダラは体を横にして俺が魔法を打ちやすいにしてくれた。まったく、気が利くのか利かないの分からないやつだ....


 風の風圧は木々の合間をぬいながら、土を巻き起こし葉を散らせ枝を降りながら前方へと突き進み、ゴブリンとオーク達に直撃した。


 そこかしこから、衝撃を受けた悲鳴や叫び聞こえてくる。

 さらに、俺は上空に向かって灯火の魔法を放った。照明弾のようなやつだ。グランデールで達の合図と俺の視界確保だな。


 マダラは獣だからどうせ、夜目が効くけど俺には無理だからな。


『ワレ達も狩るぞ、すでに犬狼達は狩ってるからな。振り落とされぬようにしっかり掴まってるのじゃぞ!!』

すると、マダラは走りだし近くにいたゴブリンをひいた。


 かろうじてマダラに轢かれたゴブリンを見ると、頭が無かった。マダラの背中をギュッと体と腕でしがみついた。

振り落とされないように、必死に。耳に入るのは、ゴブリンやらオークが出す悲鳴じみた叫びや喚き声だけだ。


 マダラの獣しみた声や、犬狼たちの声は一切聞こえない。


 そんな時間が長く続いたのか、短かったのか分からないが腕が疲れきたのはわかった。それを感じ始めたとき、

『セイジロウ、粗方片付いたぞ。残ってるの砦にいるヤツラでも十分に狩れるだろう』

「うへ?....終わった?のか....うっ!!血臭が....」


 辺りは濃い血の臭いと土埃、森の匂いが混ざりあい何とも言えない臭いがした。


『犬狼達が残骸を回収した。すでに戦闘は始まっておるぞ』


 マダラに言われて耳を済ませば、砦がある方角から戦闘音が聞こえる。剣檄の音に爆発音、兵や冒険者達の声、ゴブリンやオークの声も....気づくと視界は明るかった。陽が森を照らしていた。


「すでに、陽が....じゃあ、奇襲をかけて2時間は経ってるのか.....マダラ、残頭はどれぐらいいるんだ?」

『ワレ達が狩ったのは、2687匹じゃな。すべて、影に保管しておるぞ。ちなみに、セイジロウの魔石から魔力を補充したから保存は出来ておるが、もっても日暮れまでじゃ。』


「わかった。とりあえず、保管してくれ。俺達が狩ったけど、一応はグランデールさんと話をしなきゃならないからな。....森に逃げ出したヤツもいるよな?」

『そうじゃな、派手にワレと犬狼が狩ったからのぅ。じゃか、犬狼達が追って...さらに、追加じゃ。12匹じゃな。犬狼達に任せればよいじゃろ。して、セイジロウはどうする?』


 ずいぶんと優秀な部下をお持ちで....でも、マダラの部下なら俺の部下?マダラを従えてる俺って....これはきたか?まさかの異世界チート.....俺の力じゃないけど、そうゆう事でいけるか?


『....ろう、おい!セイジロウ、聞いておるのか?!』

「えっ?...あぁ、悪いちょっと考える事してた。で、何?」

『砦に戻らなくて良いのかと、聞いておる。たかが、30年生きたぐらいでボケが始まるとは....先がふあんになるぞ』

「はぁ?ボケてねぇから....で、砦か.....森は平気なのか?」


『大事ないだろう、犬狼も放っておるが、先から狩られてないからのぅ。それに、逃しても微々たるものじゃろ。戦が終われば残党狩りもするじゃろうからな』

「なら、砦に戻るか....何か最初だけて何もしてない気がするんだけど....」


『最初しかしておらんじゃろ。気に病むなら砦に向かうまでに倒せばよいじゃろ。まだ、幾らかはいるからの』


 さいで....ならそうしますか。魔法の練習だと思えば気が楽かな....



 俺とマダラは森から砦に向かう途中ではぐれのゴブリンやオークを魔法で倒しながら、無事に砦に着いた。


 砦に着くと兵や冒険者達に歓声て迎えられ、それから数時間後、昼も過ぎた頃に隊長のグランデールから、討伐終了が伝えられ砦内から勝鬨が上がった。


 あとは日暮れまで周辺の警戒と残党狩りを残すだけとなり、今回の緊急討伐依頼は終わった。


 こっちに来てから慌ただしかった数日だが、怪我もなく無事で良かったとしみじみ思った。

魔法の特訓の成果も感じたしな....あまり目立ってないけど思った通りに魔法が撃てたし、制御も操作も出来るんだぜ...まったく、漫画やアニメじゃないんだ。現実は地味だと思ってほしいね。


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