第44話 緊急討伐依頼・3

NO44

緊急討伐依頼・3





 翌日の朝、冒険者ギルドの受付で緊急討伐依頼の手続きと、ギルドマスターからの指命依頼の手続きと手紙を受け取り出発した。


 街を出てからすぐにマダラに跨がり乗ると、最短距離で要所の砦に向かいながらマダラに駆ける速度を調整してもらう。

『どうじゃセイジロウ、このぐらいなら問題なかろう?』

『あぁ、このぐらいがいいね。これなら、風膜も強く出さなくていいし、魔力の消費も抑えられるかな。この速度だとどれくらいで着く?』


『二日目の夜になるだろうな、もう少し速度を上げれば陽が暮れる頃には着けよう』

『それぐらいの誤差ならこの速度でいいよ』


 今はマダラの背に乗って移動してる。速度を出すと風圧が凄く、しかも鞍を用意してないから掴まるのはマダラの毛だ。


 風圧を防ぐために俺の目の前に風魔法で風の膜を作り、向かってくる風を後ろに流すようにしてる。コレが出来るようになったなのはつい最近だ。最初は魔力を無駄に使うし、風の膜は全然出来なかった。


 この風の膜を作るヒントになったのが、ゴブリンとの戦闘だった。ゴブリンが放った弓矢が俺に向かって飛んできた時に、避けれないと思い咄嗟に風をおこし弓矢の軌道を反らしたのがキッカケだった。


 普通なら従魔で守護者のマダラが俺を守るんだけど、マダラも万能ではない。だが、それがあったからこその風膜だ。

 風膜は車のフロントガラスや新幹線の鼻先をイメージして正面に対して直角ではなく、鋭角で後方に風を流すようにしてる。

 

 ちなみに、腕は伸ばしてない。明確なイメージと魔力があれば腕を伸ばさずに魔法は発動出来る。


 漫画やアニメ見たいにちょっと恥ずかしいポーズを取らなくてもいいわけだ。三十歳を越えたおっさんの魔法....まぁ、おっさんだけどさ...恥ずかしくて出来るか!....もっとスマートに然り気無く魔法を使う練習は日々してきたからな.....


『セイジロウ、魔物の気配があるが狩るのか?』

『んっ?....どうするか? 種類は分かるか?』

『いや、そこまでは分からんぞ。魔力しか感知しないからな。影移動を使えば分かるが....』

『魔物は正面か?』

『いや、進行方向からはズレておるぞ。』

『なら、放置だな。進行方向にぶつかるようなら倒すよ。ソレ以外は基本放置だ』


 俺は、戦闘狂じゃないし無駄な魔力を使ってる程の余裕もないからな。必要最低限でしかも、安全最速で要所の砦に向かう事が優先だ。


 それからは、進行の邪魔になる魔物以外は放置でようやく夜営が出来る少し広い場所をみつけ、マダラの影から夜営道具を出してもらい準備してる。


 以前、シグリウスのパーティーメンバーと討伐依頼を受けた時にテントの張り方や、夜営の危険性と注意点なんかを聞いておいた。


 よく火を焚くといいなんて言うけど、あれは火を怖がる動物や魔物にしか効果がない。なので、暖を取らないでも済む外気温なら、焚き火は料理が済んだら手早く消してあとはランタンや火の魔石を動力にした魔導具の方がいいと教わった。


 なので、今は手早く作った野菜スープとパンに切れ目をいれ串焼き肉を挟んだサンドパンで夕食にしてる。

『ふむ、もうすこし旨いものが食いたいのぅ』

「野営なんだからしょうがないだろう。それに、匂いで魔物がやって来たら面倒だろ?」


『ワレは望むとこじゃな....どれ、ちと夜の散歩にでもいくかの?』

「はっ? なんで? 大人しくしてろよ、つか、俺一人じゃん! この森の奥で一人になっちゃうだろ?」


『心配はいらん、食が足らんので調達してくるだけじゃ。それに、夜はワレの独壇場じゃ。影が幾らでも使えるからのぅ。セイジロウには一匹たりとも近づけんよっ!!』

「あっ!ちょっ.........ええぇ...主を残して行っちゃうの? しかも、お前は食事不要じゃなかったけ?」


 俺は、周囲の警戒をしながら万が一に備えてすぐに迎撃できるように風魔法の準備だけはした。

 すでに、料理で使った焚き火は消して魔導具のランタンの灯りをボンヤリ見ながら、マダラが帰って来るのを待っていた。


 あれからどれぐらいが経っただろう?一時間? 二時間だろうか? 眠気を少し感じた時に、葉が掠れる音が聞こえた。

 俺は、すぐにランタンを持って立ち上がり音がする方に向け厳戒体制をとった。


『セイジロウ、ワレじゃ』

と、思念が聞こえてから少ししたらマダラが姿を現した。


「ふぅ....脅かすなよ。てか、影に戻ってこいよ」

『久しぶりの森じゃ、出来る限り外を感じたいのじゃよ。それに、この周辺にはワレの魔力を流してきたからの。滅多な事が起こらない限り安全じゃ。ワレも見張りをするしの』

「そうなのか?....なら、まぁいっか。で、収穫はあったのか?」


『ふむ、オークとゴブリン、あと木の化物に鎌虫の化物じゃな。』

「.....たぶん、トレントにマンティスだな。それ、食べるの?」

『分解して摂取するだけじゃよ。少ないが魔力は持ってるからの。魔石は保管して置けば良いか?』

「あぁ、そうしてくれ。見張りはマダラに任せても平気なんだよな?」


『そうじゃ、セイジロウは疲れを癒せ。明日も魔力を使いながらの移動になる。ゆっくり休むがいい、何か危機があれば起こす』

「わかった....なら頼むよ」


 マダラに夜の見張りを頼み俺はテントで、移動の疲れをとることにした。


▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


 朝、目を覚ましテントから出るとマダラが地面に寝転がっていた。

『起きたか、セイジロウ。疲れは癒えたか? 食事をしたら、出発じゃそ。ワレは周辺を少し見てこよう。ワレの分も用意するんじゃぞ』


 朝から自由なヤツだな....まぁ、見張りをしてくれたからな。料理ぐらいはしてやるのも吝かではない....さて、昨日の残りとサンドパンだな。


 料理のレパートリーの少なさが致命的だな。マダラの能力を使えば何とかなるか?要検証だな、それに、調味料が少なすぎる。この一件が終わったら開発するか....


 そんな事を考えながら朝食を準備してると、

『帰ったぞ』とマダラからの思念が飛んできた。


 辺りを見てもマダラの姿はなく、キョロキョロしてると、自分の影が広がりそこからマダラが現れた。

「....影からかよ....ビックリするだろ」

『なんじゃ、昨夜は影から現れろと言っておったではないか?』

「言ったけど、今は朝なんだから普通でいいだろう」

『まったく、ワガママじゃな。ワレがどうやって現れても問題ないじゃろ? それより、食事は.....昨夜と一緒ではないか....他にないのか?』


「しょうがないだろ? まともな調理器具もないし、調味料もないんだ。俺だって旨い物を食べたいけど.....なぁマダラ、お前の影に温かい鍋とか料理を入れたらどうなるんだ?」


 俺は、野菜スープを自分とマダラの分を用意しサンドパンをマダラに用意して食事をしながらマダラに気になった事を聞いた。


『別にそのままじゃぞ。ありのままで保管出来るぞ。だが、魔力は消費するのは当たり前じゃぞ。ワレが魔力を消費しても良いが、万が一を考えるなら魔石の魔力を使用するのがよいじゃろうな。......この汁は味が濃くなって昨日より旨いぞ!』


「じゃ今度、街の露店や店の料理を買って保管しとこうぜ! そうすれば、いつでも旨い料理を食えるし俺も料理しなくて済むしなっ! マダラは便利な能力を持っていて助かるよ......確かにスープは味が濃くなって旨いな。パンに浸けても旨いぞ」


『セイジロウが良いならそれでいいぞ。ワレも旨い食事を食えるなら満足じゃしな。フライドポテトとピザ、プリンにフレンチトーストも用意するんじゃぞ。.....食い終わったら出発じゃ』


 マダラのチートが判明したぜっ。これで、異世界ファンタジー定番のアイテムボックスをゲットだぜ。まぁ、対価は魔力だから問題無いしな。んじゃ、片付けたら出発するか....


 それから、またマダラに乗って最短距離を進んだ。途中で団子虫のような魔物や鶏を大きくした魔物に出会ったが、マダラが瞬殺した。


 昼休憩も程ほどにひたすら要所の砦に向かった。陽が暮れ始めた頃に街道に出て進むと砦らしき建物が前方に見え、城壁の上には松明を持った兵士も確認できた。

『マダラ、ここからは歩きで行こう。向こうはまだ俺達を知らないんだ。要らぬ誤解は避けたい』

『わかった』


 俺は、魔導具のランタンを点け要所の砦に向かって歩いていった。

すると、向こうも俺に気がつき声をかけてきた。


「とまれっ!! お前は誰だっ! 答えろ!」

「俺は、ハルジオンからきた冒険者だ! ゴブリンとオークの混成団が現れたと聞いて駆けつけた! ギルドマスター、ダンからの指命依頼も受けてる! 書状があるから確認してくれ!」

 と、ギルドカードに書状を見えるように高く上げた。


「いいだろう! 確認に行くから待機しろっ!」

 ちなみに、マダラは影の中に入ってもらってる.....面倒は少ないの一番だからな。


 二人の鎧を着た兵士が駆け寄ってきた。

「ギルドカードと書状を確認するから見せてくれ................確認した。すまんな、夜の訪問に今は通常状態ではないからな。気を悪くしないでくれ」


「理解してるよ、それで中には入れてくれるのか?」

「もちろんだ。他の冒険者達や援軍に駆けつけてくれた人達もいる。まずは、隊長と冒険者達をまとめてる人達に会ってほしい」


 ...まぁ、現状の把握はしときたいし、ギルドマスターからの書状も見せなきゃ出しね。


 俺は、兵士達の案内に従い砦内に入った。そこから、司令部らしい広間に連れていかれて隊長と冒険者達に会った。

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