第42話 緊急依頼発動・1

NO42

緊急依頼発動・1





 花風季も半ばに差し掛かり陽気で暖かい穏やかな日々が続く日のある日、一つの凶報がハルジオンの街、冒険者ギルドに届いた。


「たっ大変だっ!! オークジェネラルとゴブリンの混成軍団を見た! この街に向かって来てるぞぉ!!」


「はっ?」 「混成?」  「オークとゴブリン?」 「なんで?」


 最初に知らせたその冒険者は、汗を滝のようにかきポタポタと床へと滴し息を荒げてそう告げた。



 ギルドの依頼でアーガニウム国とグルガニウム国は兄弟国で隣国同士で国交も盛んで、交易も問題無く行っている。


 国の血筋を遡ると、王族同士が繋がっているという。すでに初代から数えて互いに九代目となっている。血脈はすでに断たれているが、兄弟国として繋がりは強く互いに助け合い、尊重しながら国を広げてきた歴史がある。


 アーガニウム国とグルガニウム国、それに、ローレンス帝国の三ヵ国がこのプリセリウム大陸を領土に置いてると俺の知識ではなってる。


 プリセリウム大陸自体は広大で、前の世界の某女神の置物がある国ぐらいの広さらしい。まぁ、正確な広さは分からんが....測量技術が発達してないみたいだし。

 だが、話や資料を調べた限りではかなり広いのは確かだ。

 ちなみに、アーガニウム国とグルガニウム国を合わせるとプリセリウム大陸の半分を占める。そして、ローレンス帝国はその半分を占めてる。


 互いが睨みを効かせてるので下手な戦争は起こってないが、国境付近でたまにキナ臭い事は起きてるらしいと商売人の人達が話してるのを聞いた事がある。


 で、まぁ、今は国の情勢に関しては横にポイっとしとくけど、さっきの冒険者はちょうどグルガニウム国との国境付近の【ビスティの森】に討伐依頼と採取依頼を受けて二パーティー十一人で向かってたそうだ。


 ハルジオンの街からその森までは馬車で七~九日の距離にある。しかも【ビスティの森】はまだ開拓、というかまったく手をつけてない森で範囲は広く谷を跨いでグルガニウム国にも広がっている。


 古くからある森で貴重な薬草類も多く資源豊かな場所で、開拓するより残す方に利をみたそうだ。さらに、森に出現する魔物も強く生半可な実力者が向かえばただの屍になるような森だ。


 森に住む魔物は、街や村には滅多に現れないが十数年~数十年に一度くらいに魔物の氾濫が起きたと冒険者ギルドは記録してる。


 今回もそれではないかとギルドは読んでいた。


 駆け込んできた冒険者は、二パーティーの中でも身軽で馬を乗り継ぎ、必要最小限の休みと装備、食料ですぐに情報を持って帰ってきたのだ。


 残った二パーティーのメンバーは、過去にもあった魔物の氾濫から学び、要所に砦で足止めをかってでたそうだ。要所の砦には、常に森を監視してる兵が常駐してる。


 すでに森の近くの街や村に、兵が馬で連絡をして方々に出てると言った。


 王都にも連絡は行ってるから情報は伝わってるはずだが、距離は遠く援軍は期待出来ない。


 ゴブリンとオークの混成部隊は約二千~三千匹ぐらいの規模だと予測してるらしい。対して、要所の砦には二百名の兵士と周辺から駆けつけてくれるであろう戦力は五百名ぐらいの予測だ。たぶん、もっと少ないとギルドは思ってるはずだ。


 四~八倍くらいの戦略差がある。個人的に強くても数の暴力は偉大だ。なめてかかれば押し潰されて蹂躙される。ここは、戦力を整え慎重に行くべきだな.....と俺は思うよ。


 そう思っていたのになぜか.....俺の従魔がいらん事を言った。


 マダラの思念が冒険者ギルド中に飛ばされなければ静観出来たのに......

『ワレが片付けてこよう。どうせ暇じゃったところだ! のぅ、セイジロウ?』

 ちょっとっ! 何で思念を飛ばしちゃうかなっ?!


 「いや、おかしいだろ!! なんで、勝手に喋るの? 決めるの? 話聞いてたの? みんなの顔を見ろよ、青ざめてるだろ! ゴブリンやオークでも数の暴力はヤバいんだよ? 大人しくしてろよ、まったく....みなさん、すいませんでした。話し合いを続けて下さい」


 と、先を促したがそうはいかなかった。


「セイジロウさん?...さっき、声が頭の中に消えたんですけど....?」

「アリーナさん、空耳ですよ....空耳にして下さい。私は無害ですし、マダラは大人しい従魔ですから」


『空耳ではないぞ、それにセイジロウ。最近は、あまり街の外にいかんではないか?ワレは体を動かしたいのじゃぞ? せっかく暴れられるのじゃ。良いではないか?』



「全然、良くないよ? お前が行くのは魔物の大軍の中でしょ? なら、必然的に俺も行かなきゃならいじゃん。俺はFランクなんだよ? まだ、駆け出しなの! 戦力になるわけないでしょ! しかも、プライベートが駄々漏れだからみんなに思念を飛ばさないように!」


『なら、話を聞いて座して事が終わるまで待つのか? いつから【陽の民】は腑抜けた? 戦魂はどこにいったのだ? セイジロウよ、主は【陽の民】ではないのか?』


「そんな風に言っても無理だから.....てかFランクごときが行っても戦力にならないでしょ? それに......どーせ本音はちがうんだろ? 正直に言ってみろよ、主として寛大な心で聞いてやるから」


『正直退屈なんじゃよ、ちょっとは街の外に出掛けんのか? 体を動かしたいんじゃよ? 暴れたいのじゃよ、毎日毎日ゴロゴロしてるのは退屈じゃ! さぁ、鎧を着て刀を持て、戦場はそこじゃ!』


「はいはい。.....実は、マダラはみんなに語りかける事が出来ますが、それはそれとして、話し合いを進めてください。うちのマダラが迷惑かけてすいませーん!」

 俺は、冒険者ギルド内の人達に平謝りした。


『お主はワレの主として恥ずかしくないのか!?』

「恥ずかしいわっ!! 大きな体した動物が何ワガママを言ってるんだ! 命令だっ!お座りっ!!」

 すると、マダラは姿勢よくその場でお座りをした。


 おお~6本足のお座りってこうなるんだ....


 俺たちの寸劇を見ていた冒険者やギルド職員は感嘆の声を上げていた。

 何やらすげぇとか、マジでとか、恐れ知らずとか、マダラちゃん可愛いとか、色々な声が聞こえて来ていた。


が、


「鎮まれいっ!! 今は可及的速やかに対処するべき時だ! ギルドマスター権限により、緊急依頼を出す。冒険者達は依頼票を確認したのち、動けるものから随時動け! フローラ、依頼の作成内容をスミスから聞いて速やかに提示しろ。同時に、緊急依頼受付箇所を専門に作れ。そして、セイジロウ!! お前は俺のとこに来い。いいな?」


 ギルドマスターのダンさんは上階の踊り場から指示を出し、副ギルドマスターのスミスさんは階下に降りてきて指示を出してる。


 俺は、溜め息をつきながらトボトボとギルドマスターの執務室へと向かった。どうやら、騒がしくしたせいで説教に招待されたようだ。

 前回の話し合いの時に場所はわかってるから一人で行ける。....クソッ、俺じゃなくてマダラを説教しろよ...


 ちなみに、マダラはお座りのままだ。少しは反省してろっ!!

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